「ばあやの機嫌がこれ以上悪くなるのは困る。それに・・・アンドレも八つ当たりされて気の毒だしな。」
オスカルは自分付きの若い侍女達を集めると言った。
「それで、水曜日の午後だが、誰かこの役の適任者だが・・・誰がいいと思う?わたしは母上の所のポリーヌがどうかと思うのだが?」

オスカルの問いかけに侍女達は顔を見合わせた。
確かにポリーヌはジャルジェ家の使用人の中では一番の美人だ。
その上!ポリーヌがアンドレに対し好意を持っているのは若い侍女達の間では、誰もが知る所である。
ポリーヌは奥様付きの侍女なので、アンドレと接する機会がなかったから良かったものの、こんなチャンスを彼女が逃がすはずが無い!
大体!ポリーヌに迫られて落ちない男はまずいないのだ!

「さあどうでしょうか?ポリーヌも悪くはないと思いますが、妻役でしたら・・・その、もっと清楚な感じの・・・知性的なタイプなんかがいいと思うんですけど・・・・」
侍女のアンナが遠慮がちにオスカルに言った。
「そうか・・・そういうものか。それではその清楚な感じの知性的な娘はいないのか?例えば・・・屋敷に出入りしているリシャール商会の大人しそうな栗色の髪の・・・・」
ローズマリーだ!侍女達はまたしても顔を見合わせた。
ローズマリーは清楚な感じの娘でその条件にはぴったりだ。
でもあの子もアンドレを・・・・・・
おとなしい子だけれど、これがきっかけにというのは十二分に考えられる。

「オスカル様、それは多分・・・ローズマリーだと思います。」
一人の侍女が言った。
「そうか。ではそのローズマリーはどうだ?」
「ですがオスカル様、ローズマリーは余りにも内気で、きっとこの役は務まりませんわ。」
別の侍女が答えた。
「そうか・・・それでは誰かいないのか?」オスカルは尋ねた。
侍女達は考え込んだ。

カトリーヌがポツリと言った。
「ロザリーが良かったんですけど・・・」
それを聞いてオスカルは溜息を付いた。
「ああ、そうだな・・・・」
侍女達も心の中で溜息を付いた。
あの子ほど害のない子はいなかったのに!
オスカル様さえ余計な事をなさらなければ・・・・
本当にロザリーが一番の適任だったのだ。
「誰かいないだろうか?」
再びオスカルは問いかけた。
侍女達は考えた。
誰か探さなくては!
ポリーヌやローズマリーより美人で絶対自分達の害にならない女。
勿論リリアンヌもダメだ。
絶対安全な人物を!
そういう娘をオスカル様に推薦しなくては!
誰かをオスカル様に・・・・・
オスカル様に・・・・・
一人だけ・・・・いた!
「そういえば!あの娘はどうだ?わたしも見たのは1度きりなのだが・・・」
侍女達はほぼ同時に叫んだ。

「オスカル様!」
「そうだわ!オスカル様しかいませんわ!」
「ああ!どうして気づかなかったのかしら?」

侍女達は口々に言った。
恋する女はライバルを蹴落とす為には手段は選ばないのだ。
「わ、わたしがか?」
オスカルはあっけに取られて侍女達を見た。
「その通りですわ!」
侍女達は口を揃えて答えた。
オスカルは侍女達の剣幕に・・・力なく笑った。
「オスカル様。絶対お似合いですわ!誰も右に出るものはおりませんわ!」
侍女たちは口を揃えて言った。
「私ではアンドレが嫌がるぞ。」
「アンドレは関係ありませんわ!」
「関係・・・ない?」
「問題は!ばあやさんです!」
「ばあやさんが自慢できればいいのですから!」
「・・・まあ、確かにそれは・・・・」
「喜びますわ!ばあやさん。」
「そうよね。オスカル様のドレス姿を見るのが夢っていつも言ってたから!」
「当日まで内緒にして!ばあやさんを驚かせてあげては如何でしょう?」
「そうだわ!それがいいわ!」
「・・・お、おい!お前達は大切な事を忘れている。わたしの背だ!」
「ナタリー、ほら!この前間違えて買ったあれよ!丈が長すぎた青いドレス!」
「そうだわ!あれだったら!ウェスト詰めて!裾を伸ばして!」
「アンナ、すぐ直せる?」
「任せて頂戴!」
「わたしはドレスは着ない!絶対だ!第一あのコルセットは・・・」
「私共の着る服は鎧みたいなコルセットも使いませんから楽ですわ!」
「一度試着されてみては?今持って来ますから!」
「駄目だ!誰かに見られたら・・・」
「私どもはオスカル様付きの侍女ですわ!どんな事があっても秘密は守り通して見せます!」
カトリーヌの言葉に他の侍女達はオスカルを見て一斉に頷いた。
「しかし!」
「アンドレもこれで機嫌が直るでしょうね。だってオスカル様がここまでしてくださるんですもの!」
彼女らは主人がこんな事を言い出した理由など全てお見通しだった。
「これで仲直りが出来るので喜びますわ、アンドレも。そう思われませんか?オスカル様。」
これは駄目押しだった。
オスカルは沈黙した。
「すぐお持ちしますから。」
侍女達は口を揃えて言った。