「いくつ年が離れてると思ってる?9歳だぞ。」
アンドレは怒りを押し殺して言った。
「9歳くらい年の離れた夫婦など世の中にごまんといるぞ。」
オスカルは言い返した。
「だから!何度も話したろう?おれには対象外だ!ロザリーだってそうだ。分かっただろう?」
「だから何故頭ごなしに否定する?考えてみてはどうだと、そう言っているだけではないか。今すぐにどうこうという話ではない。まだ先の話だと何度も言ってるだろう?」
「考えるつもりはない。」
「ロザリーが嫌いなのか?」
「そうじゃない。言ったろう?対象外だと!」
オスカルはアンドレの言葉に溜息を付いた。
何故そこまで頑なにロザリーを拒否するのかオスカルには皆目見当がつかなかった。
「わたしは、ロザリーには幸せになってもらいたいのだ。わたしでは・・・・」
オスカルは口篭った。
「わたしではどうしてやる事も出来ない。大切な妹なのだ。だがおまえなら・・・一番信頼できるおまえならばと思ったのだ。それの何処が悪い?」
「ロザリーは、おれにとっても妹だ。おまえと同じようにな。」
苛立たしげにアンドレは答えた。
「今はそうかもしれない。でもあと3年もしたらそうでなくなるかも・・・」
「何年たっても同じだ!」
アンドレは声を荒げた。
「アンドレ・・・・一体何を怒っているのだ?」
「怒っていない。」
「それのどこが怒っていないのだ!」
「怒ってなぞいない!」
「ではロザリーはダメで・・・色っぽい黒髪の女ならいいのか?」
オスカルは冷ややかに言った。

「もういい!!!」

アンドレはオスカルを怒鳴り付けた。
オスカルは驚いたようにアンドレを見詰めた。
その様子を見て、アンドレはオスカルから顔をそむけた。
「・・・・すまなかった。だが、何度いわれてもノンだ!それともう一つ。これはおれの問題で・・・おまえのじゃない。おまえは関係ない!!もうこの話は・・・二度としないでくれ。」
オスカルはアンドレの様子からこれ以上何を言っても・・・無駄なのを悟った。
アンドレはめったな事では怒らない。
だからこそ一旦そうなってしまうと・・・オスカルにもアンドレは手に負えなかった。
重苦しい空気が二人を包んだ。
「・・・・悪いが仕事があるから。」
そう言うとアンドレは、オスカルの部屋を出て行った。

部屋を出ると、アンドレは今自分が出てきた扉を黙って見つめた。
オスカルには分からないのだ、自分のしている事がどれだけ残酷なのか。
アンドレは目を伏せると苦く笑った。
「当たり前だな。」
気づくはずなどない・・・・
その時人の気配を感じ、アンドレがそちらを見ると・・・そこにはロザリーが立っていた。
「ロザリー・・・何か、用か?」
アンドレの言葉に彼女はこくりと頷いた。
「話があるの・・・・」
ロザリーはアンドレに言った。

「あのねアンドレ、昨日の事。ごめんなさい私・・・アンドレが嫌いとかじゃなくて・・・」
ロザリーはそこまで言うと俯いた。
アンドレは優しく笑ってロザリーに答えた。
「いいよ、ロザリー。おれだってお前の立場だったら同じように言うよ。」
それを聞いて、ロザリーはほっとした様子をした。
「・・・ありがとうアンドレ。それからもう一つあるの。この前の話・・・・」
「おれも言おうと思ってた。あの話は無しでいいよ。流石におれも・・・」
アンドレは苦く笑った。
「幸せになってもらいたいと。自分ではどうしてやる事も出来ないから。だからおれに・・・・」
そして、アンドレは溜息をついた。
「ロザリー、オスカルは・・・あれでも色々考えたんだろう。考えたんだろうが・・・・この手の事をオスカルにさせると最悪だな。思い込むとそれしか見えなくなる。あれは間違いなく・・・だんな様の血だな。」
アンドレは困ったものだろう?というように、おどけた様子でロザリーを見て言った。
ロザリーはそんな彼の様子に少し微笑んで頷いた。
「オスカル様の気持ちは・・・うれしいわ。私のことを考えてくださっているのだから。でも・・・・でもね、アンドレ・・・・」
「分かるよ、ロザリー。」
アンドレは目を伏せた。
「これ以上、少しでもそういう風に見られるのも言われるのも・・・・・・もう!沢山だ。」
最後の言葉が悲鳴のように聞こえて、ロザリーの目に思わず涙が浮かんだ。