1789年 7月12日 ベルサイユ フランス衛兵隊本部

 「では、これを置いてすぐに帰ってしまったのだな。」
オスカルは机の上にあった包みを持ち上げてそう言った。
 「隊長はすぐに戻られるからお待ちいだだきたいと申し上げたのですが・・・・・」
とダグー大佐は申し訳なさそうに付け加えた。
 「ああ気にしなくてもよい。それより将校が全員そろったら教えて欲しい。
それまでは下がっているように。」
彼女の言葉に大佐はほっとして部屋を出ていった。

大佐が部屋を出るのを見届けてから、彼女は手に持ったままの包みをこわれ物でも扱うようにそっと開いた。
中から出てきたのはメッセージカードと皮表紙の手帳だった。
カードには “すばらしい出来ですので文句のつけようがございますまい” と書かれていた。
オスカルは 「彼らしい」 苦笑しながら呟くと、手帳を手に取りそっと触れた。
それから、少しためらいながら表紙を開いた。

中には一人の少年がいた。
その少年は、彼女に優しく笑いかけた。
優しげな微笑みとその穏やかな黒い瞳が、昔も今も少しも変わらないことをオスカルは思い出した。
そして、そう。自分がどれだけそれを必要としていたかも。
涙が机の上に落ちた。

 「もう・・・どこへも行かないで・・・・ずっと・・・私の傍にいてくれるな。」