1789年 7月10日 パリ デュランのアトリエ

デュランは筆を置くと、ふうっと息を吐き 「これでよし。」 と呟いた。
彼は筆を洗い、道具を片付けた。
時計を見ると、もう午前0時を回っていた。
彼は迷ったが、台所へいくと湯を沸かし、戸棚を開けてごそごそと豆と茶碗を取り出して自分でコーヒーを入れた。

彼はコーヒーの入った茶碗をもってアトリエに戻った。
コーヒーを一口飲んで、イーゼルに置いたままの絵の前に立つともう一度じっくり絵を見直す。
彼は絵を満足げに頷くと、絵に微笑んだ。
それから神妙な面持ちで絵に話しかけた。

「アンドレ分かるか? あの方がどれほどお前を必要としているか。だからお前はこれまでしていたように・・・どんなに辛かろうとずっとそうしてきた今まで通り笑ってやればいい。いいか、そしてオスカル様が無茶をなさるのを止めるのだ。分かったな。」

彼はそれだけ言うと、照れ隠しのように
「やはりコーヒーは他人に入れてもらったほうが美味しいわい。」
と大きな声で言った。