12月25日深夜
確かにノエルは家族と過ごすものだ。
アンドレは空の壜を片付け・・・最後にグラスを戸棚にしまいこんで呟いた。
「だがな、ノエルに飲んだくれた家族の面倒を見るのは話が別だ!」
自分のベットで気持ち良さそうに眠る祖母を見て、彼は溜息をついた。
ちょうどその時・・・・
トントン
扉を叩く音・・・
誰だ?こんな遅くに・・・・
彼は怪訝そうな顔をした。しばらくすると再びノックの音。
仕方なく、彼は扉を開けた。
そこには・・・・・・外套を着込んだオスカルが立っていた。
「何かあったのか?」
彼は予想だにしなかった来訪者に驚いて尋ねた。
「別に。それより悪かった。妙齢のご婦人とお楽しみの最中に。」
彼女は、ベットで気持ち良さそうに眠る乳母を見つけていった。
彼女の言葉にアンドレは不機嫌に答えた。
「これの何処がお楽しみなんだ・・・おい!起こすなよ。やっと静かになったんだからな!」
祖母の顔を覗き込んでいるオスカルに、アンドレは言った。
「わかっている、起きられると面倒だ。折角の楽しみが台無しだからな。」
「楽しみ・・・って?おまえ・・・一体」
彼女は外套の中から壜を取り出して、机に置くとにやっと笑った。
それを見て彼はがっくりと肩を落とした。
彼女は外套を脱ぎながら、部屋を見回した。
「本当に冷えるな。家の中で外套を着て歩くとは考えもしなかったぞ。グラスは何処だ?」
「・・・・戸棚の2段目、左の奥。」仕方なく彼は言った。
「悪いがレモンピールとワインクーラーに氷を入れて持って来てくれないか。」
グラスを出しながら彼女は言った。
「レモンの皮?どうするんだ?おい!窓なんか開けるな!・・・?どうして酒とグラスを外に?」
彼女は、それらを外へ出すと窓を閉めた。
そしてアンドレの方を向くとにやりと笑った。
「おまえにマティーニを飲ませてやろうと思ってな。」
「昔とさほど変わってないな。10年ぶり・・・もっとになるか?わたしはここが気に入っていたのだが・・・・」
オスカルは部屋を見回して懐かしそうに言った。
「秘密基地にされたおかげで、おれは何度もおばあちゃんに殺されかけた。」
ベットで眠る祖母を横目で見てアンドレは言った。
「だから止めたろう?おまえが殺されるとは思わなかったが・・・・・さすがに心配になったからな。」
彼女も乳母を見た。彼女の乳母はすうすうと−本当に気持ち良さげに−眠っていた。
「で、どれだけ飲んだんだ?」
「ロザリー達の話によると・・・・少なくとも2本ほど一人で空にしたらしい。そしてここでワインを1本空けて・・・・」
アンドレは肩をすくめた。
「ベッドまで取られた訳か。今夜はその椅子で眠るのか?」
アンドレの座っている椅子を見て、くすくす笑いながらオスカルは言った。
「そうしようと思ったら、またしても酒の相手を仰せつかった!」
「怒るな。ハンサムが台無しだぞ。」
「よく言う!そんな事少しも思ってないくせに。」
「ははは。でも、今のように髪を縛っていないと随分感じが違って見える。おまえ、縛らない方がいいぞ。いっそ短くしたらどうだ?」
笑いながらオスカルは言った。
「似合わない。第一、笑いながら言われて信用できるか!」
「ああ、悪かった。さて、と・・・・・・そろそろいい頃だろう。アンドレ、済まないが中へ入れてくれ。」
オスカルの言葉に、渋々アンドレは窓を開けて壜とグラスを取り込むと急いで窓を閉めた。
「うーっ!なんて寒さだ。酒すら凍りそうだぞ。」
彼は机の上置いた壜を見て言った。
「大丈夫だ。このジンはブランデーよりアルコールが高いから・・・・・・」
オスカルはその壜を取り上げて、蓋を開けながら言った。
それから、大きく溜息をついた彼に尋ねた。
「どうした?アンドレ。」
「要するに・・・めちゃくちゃ強い酒なんだな?」
右肘で頬杖を付き、半ば諦めた様子でアンドレは言った。
「ぶつくさ言うな。今日はまだ・・・・・ぎりぎり、わたしの誕生日なのだぞ。黙ってつきあえ。」
オスカルは楽しそうに2つのグラスに無色透明のそれを注いだ。
そして、その一つを彼に渡し、もう一つを自分で持った。
「まずは、ストレートで乾杯と行こう!」
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