決闘が終わって2週間が経った。
おれは今、パリ市内の病院に入院している。幸いな事に、オスカルは4日前、無事に退院できた。だけどおれは最短でも2週間後の予定。黒龍が体を元通りにしてくれたが、やはり脆くなっていてそれなのに次の日からまた決闘だったから回復には時間がかかるそうだ。

それにしても、退屈だ。そして静か。なんか悲しくなるくらい静かだ。
ここが日本なら、佐々木や木村に電話して遊びに来てもらうんだけど、フランスじゃあどうにもならない。

オスカルがいた時は、マリアさんに石井さん、オスカルの家族全員がいたし、ガードの人達などもいて賑やかだったのに・・・
母さんはあれから一度も来ないし。
おれは小さく息をついた。

 母さんは病室へ入ると、手に持っていたカバンでおれを殴り飛ばそうとした。
オスカルが体張って止めてくれたから殴られなかったけど、母さんはおれを睨むと “とうとう私は息子に捨てられたのね” とだけ言うと病室を出て行った。それっきり病院へは来ない。

それにしても捨てられたってのは大げさだよな。とにかく母さん怒ると根に持つからなあ。あの様子じゃ、当分は許してはもらえないだろう。
おれは天井を見てまたしても溜息をついた。

それにしても退屈だ。あと3週間もここにいないといけないなんて。
する事がないって・・・ある意味拷問に近いよな。でも今日はクレマンが来るって言ってた。
なんかおれに話があるらしい。きっと退屈はしないだろう。何といってもクレマンだ。どんなトンでも話を持って来るか予測不能だからな。

その時不意に気配がした。そういや、今日はまだ来てなかったのをおれは思い出した。
 「いいよ、別に。」 と声をかけると、黒龍は小さな身体で現れた。

ホントは銀龍と同じ位の大きさだけど、ここに現れる時は部屋に合わせて小さくなる。勿論影じゃなく本体。というか影は四六時中おれの側にいる。
ムシューの側ですら龍達はほとんど現れない。せいぜい影だけらしい。それなのにおれは病院に入院した時からずっと、オスカルがいなくなってからは本体が毎日やって来る。

何故おれの所へやって来るのか?
“気に入られたのですよ。”
クレマン曰く、たまに、おれのように好かれる(?)奴がいるらしい。
“君の場合は初めて会った時からですね。黒のお方は君に一目惚れなさったのかもしれません、よかったですねえ。” などと、いつもの事だけどおかしな事を言う。

クレマンによると、黒龍はリオン・フランソワに絶対の忠誠を誓った訳でなく、リオンが気に入って一緒にいることにしたらしい。おれの見る限り、家も護っているというか、そこに棲んでいるだけのように思える。外出は頻繁、ほとんど人前にも現れなくて―――これは銀龍もそうらしい。だけど黒龍はもっと酷いそうだ。―――おれが去年ジャルジェ家へ行った時に現れたのがなんと10年半ぶりだったそうだ。

黒龍に、家を護ってなくていいのか尋ねたら “彼奴がいる” の一言。
銀龍がいるから自分はいいって事なのか?銀龍は律儀だが、黒龍はいい加減だよなあ。

 黒龍は、窓側の日の当る場所まで行くと体を横たえた。
ここは黒龍の定位置だ。大抵はこうしているだけで、不意にまたいなくなる。だけど気が向くと色々話してくれる。魔物や魔法使いの話、第二次大戦でフランスが占領された時のことなんかもあったな。それからリオンのこと。

リオンの事はよく話してくれる。それって聞いてて楽しい。
オスカルと似てるんだ。性格だけじゃない、多分見た目もそうなんだ。だって、昨日来た時話してくれたのは・・・

 『リオンの母親は並ぶ者無しといわれた絶世の美女。二人の妹もそれはもう素晴らしき美姫であったが、リオンの美丈夫ぶりはその妹達ですら普通の娘に見せよった。リオンと並ぶと、どんな美女でも見劣りがした。それどころか引き立て役。』
 「へえー、すごいね。」
 『ラピスラズリの如き美貌と謳われたものよ。』
 「ラピスラズリ?何それ?」
 『天空で染め上げた如き紺青に金を散りばめた石。時にはきらめくような白が入り込む。』
 「そんな石があるんだ。それってオスカルの色だよね。」
 『娘ではない、リオンの色よ。』
 「でもさ同じじゃん。リオンて、もしかしてオスカルと似てるとか?」

おれが尋ねると黒龍はシッポの先がスルリと動いた。嬉しかったり面白い事があると黒龍のシッポは動く。
だけど黒龍はそれ以上何も言わなかった。

ラピスラズリは魔法の世界では貴重な石で、オスカルの誕生石の一つでもあるそうだ。丁度居合わせたディアンヌが教えてくれた。

 “優李の瞳の色ぐらいのラピスラズリになると、名前さえ口に出せないような魔も滅する力を秘めていると言われているのよ。めったに見つからないけれど”

オスカルの色を持ってる石。おれはサファイヤがオスカルの目の色に似てると思ってたけど・・・どんな石なのかな?一度見てみたいよな。

突然オスカルの顔が浮かんだ。急に切なくなる。
駄目だよな。すぐに思い出すからあんまり考えないようにしてるのに結局これだ。
おれは小さくため息をついた。

オスカルに会いたい。
まだ4日しか経っていないのに、こんなんじゃ駄目なのに。退院して日本に帰ったらそんなに会えなくなる。毎日はいくらなんでも迷惑だろうし、二日に1回、いや週に1回か。せいぜいその位。それどころか・・・・
おれはまた、息をついた。

ムシューは、オスカルを日本へ帰らせるつもりがないんじゃないだろうか?マリアさんがすごく怒っていたし、石井さんもそうだ。だけど、なんか変だ。どこか・・・諦めてるようなそんな感じがした。
何故だろう?オスカルが正式に次代の当主に決まれば、今度は銀龍はオスカルを護るんだろう?そしたらもう何の問題もないはずなのに・・・

 「暗いですね。どうかしましたか?」

突然声がして、おれが驚いて顔を上げるといつも間にかクレマンが目の前に立っていた。
瞬間移動だ。まったく、すごいよな。流石大魔導士だけあるよ。

クレマンはそれからすぐに黒龍に向かい、挨拶をした。この挨拶は結構長い。昔ながらの礼に則った正式な挨拶だからだ。
クレマンはすごく龍達に気を使っている。おれがタメ口なんか聞くとするとそれはもう怖い。普段のクレマンは、非常識この上ないけど龍達は別だ。最大級の敬意を払っている。

 「傷の具合はどうですか?」
挨拶が終わるとクレマンはおれに尋ねた。
 「順調です。痛みもほとんどありません。」
おれが答えると、クレマンは頷いた。

 「それはよかった。先生には許可をいただいたが、調子が悪いようならもう少し後にしようと思っていました。」
 「クレマン、それって面倒な話なのですか?」
 「ええ、そうですよ。」

クレマンはイスに座った。そして彼は手の平を上に向けて空中に差し出した。
すると突然そこに本が一冊現れた。クレマンはそれを手に取るとおれに差し出した。おれはそれを受け取った。

 「これはラテン語で書かれていますが魔法によって言語指定が出来ます、もっと簡単にいうと翻訳ですね。それも君のレベルに合わせての翻訳です、簡単に読めるでしょう。それでも分りにくい部分が・・・魔法とそれに関わる事柄が煩雑です。それに宗教です。」
 「宗教?」
 「産業革命以降、人々の宗教観は激変したでしょう?」
 「へえ、そうなんですか。」
するとクレマンは眉を顰めた。おれ何か変な事いったっけ?
 「君は物理だけではなく歴史まで・・・・」
 「いや、歴史はおれ得意ですよ。でも学校は世界史は選択だから・・・」
 「世界史は必須科目(注)です。10年近く前からね。」
 「???????」
 「ああ、気にしないで。心配する事は何もありません。これから学校でしっかり補習させてくれますからね。」
クレマンはニッコリと微笑んだ。

 「話を元に戻しましょう。この本の分り難い箇所には説明をつけましたから、気になるようならこちらも読んで下さいね。但し、魔法に関わる事には説明無しですよ。書かれた内容程度以上の説明となると魔法がもたらされた起源についてから説明せねばなりませんからね。それはいずれ、基礎から順次教えてあげますからね。それに重要な点は魔法ではありません。ですから魔法に関わる疑問には目を瞑ってくださいね。」
 「で、つまり・・・何ですかこれは?」
おれは手渡されたそれを見ながら尋ねた。
 「昔の記録です。おっと、私としたことが。まずこちらからでしたね。」
クレマンはそう言うと先程と同様、空中から薄い手帳サイズの・・・ノートが現れた。彼はそれを手に取るとおれに差し出した。

 「これはアンドレの日記です。」
 「アンドレの!」
 「ええ、そうですよ。」
おれは、まじまじとそれを見つめた。
 「何でこんなものがあるんですか?」
 「他にも色々ありますよ。」
おれはそれから目を離すとクレマンの顔を見た。

 「色々?」
 「君の絵は前に見せましたね。あれの他にもスケッチなどがありましてね。それから服等の私物でしょう、前話した銃の帳簿もそうですし、それから・・・とにかく保存できるものは何もかもすべてです。君の当時使っていた部屋に・・・」
 「ちょ、ちょっと待ってください!」
おれは思わずクレマンの言葉を遮った。クレマンは話すのをやめるとおれを見た。
 「それってどういうことですか?」
 「そういうことですよ。」
クレマンは答えた。
 「だから、どういう事なんです?」
しかしクレマンはそれには答えてくれなかった。クレマンは代わりにニッコリと笑って見せた。

 「その日記は1788年8月26日から10月27日までの約2ヶ月間に渡って書かれたものです。8月26日というのはアンドレの誕生日です。で、君の誕生日ですね。」
クレマンは面白そうに笑った。
 「それが何か?」
 「そうそう、前の日記は燃やしたようですよ。処分してから新しく書く。そして書き終えたらまた燃やす。いいですねえ、うふふ。」
今度は意味ありげにクレマンは笑った。何かあるな、これは。おれは疑い深い目で見たがクレマンは気にもせず話を続けた。

 「興味深い日記です。丁度オスカルの結婚話が出る少し前からなのですよ。」
 「そうですか。」
おれは気のない返事をしたがクレマンは気づいていなかった。いや、気づかないふりをしたのかもしれない。

 「疑問は沢山!色々!あるでしょうね。ええ勿論そうでしょう!分りますよ勇。」
 「いや、ないです。これっぽっちも!」
 「そんなはずはないでしょう?」
 「というか、これ、読まないと駄目なんですか?」
 「勿論です。色々話さねばなりませんからね。まず当時の君の状況を知っておいてもらわねばなりません。」
 「知ってますけど?」
 「全部ではないでしょう。」
 「それはまあ・・・」
おれは口篭った。

 「ではまず日記からです。これは魔法による言語指定などされていませんから・・・・」
クレマンは満面の笑みって感じでニッコリ笑った。
あっ、マズイ。

 「やっぱいいです!!結構!人の日記など読むのって趣味悪いし!」
 「自分の日記です、何の問題もありません。」
クレマンは言い切った。
 「いやおれじゃない、アンドレです!」
 「あえて他人と言い張るなら・・・日記は代々の占い師と当主は皆読んでいますから、何も気にすることはありません。」
 「で、でも!」
 「勇。努力などは無駄ですよ。傷の直りが遅くなりますよ。」
クレマンはニッコリ笑った。あっ、クソ!何が何でも叩き込むつもりだ。

 「それに、早く直ってフランに会いたいでしょう?勿論会いたいのでしょう?毎晩夢に出てくるのでしょう?出てきますねえ。ええ、よーく!分かっていますよ、勇。」
クレマンは嬉しそうに!楽しそうに!言った。
人の弱みに付け込んで、そう来るか!
 「では始めましょうか。」
クレマンは言った。

 クレマンは2時間ほどかけて、アンドレの日記の内容をおれの頭の中への叩き込んだ。それも面白おかしく!しなくてもいい説明をしっかり交え!楽しげにだ!何だよこれは!あんまりだ!どうしてこんなもん頭ん中はへ叩き込まれなきゃならないんだよ!大体これは日記じゃない!これは・・・

 「君にとっては信じ難い部分もある内容でしたが・・・どうかしましたか?」
 「いえ、別に。」
 「そうですか。では、アンドレの心理状態は飲み込めましたか?」
 「・・・はい。」
もう、しっかりと分かった。知りたくなかった事までもしっかりと分かった。というか・・・
 「分からない事はありませんでしたか?」
 「何もありません!」
 「本当に?」

クレマンはおれの顔を覗き込むようにして尋ねたので、おれはクレマンから視線を逸らして 「ええもう。十分です!」 答えた。
 「それはよかった。」
クレマンはほっとした様に言ったが・・・

よくねーよ!こんなもん誰が取っておいたんだよ!なんで燃やして捨ててくれないんだよ!何で代々受け継いだんだよ!こんなものを・・・・代々の占い師も当主も全員読んだなんて!
ちょっと待て!ということはムシューも・・・読んだのか?
これを!こんなものを!日記というよりも・・・

 「恋文でしょう?オスカルへの恋文ですねえ。」
おれはクレマンを見た。彼はとっても楽しそうにニコニコっと笑いながらおれを見ていた。よくも人の心の中を・・・

 「心の中など読んではいませんよ。いくら私でもそれは難しいですからね。顔色ですよ。顔色。」
クレマンは楽しそうに言った。おれは慌てて視線を逸らして俯いた。

畜生!何でおれがこんな思いをしなくちゃならないんだよ!おれじゃないんだからな!書いたのはアンドレだからな!おれだったら絶対に、こんな恥ずかしいこと書かないからな!

 「口に出せない思いを日記に切々と綴る。切ないですねえ。例えば・・・“その真紅の唇から一体どんな声が漏れるだろう。指を・・・”」

 「・・・も、もういいです。」

クレマンはおや?という顔をした。さっき自分で話したばかりじゃないか!!なんて奴だ。
 「そうですね、こんなのは確認しなくとも!いつでも考えているでしょうからね。」
 「考えてません。」
おれはきっぱりと言った。でもクレマンは聞いていなかった。

 「ではこれは? “きらきら輝く黄金で出来た髪。今のうちにしっかりと目に焼き付けておこう。 見えなくなってもすぐに思い浮かぶように・・・ ”」
 「だからもういいです!」
 「ならこれです。 “愛しても、愛してもどんなに愛しても、それは愛とは呼べない。” 」
 「クレマン!あのですね!おれは・・・」
 「こんなのもありましたねえ。 “俺は、口を閉ざし、お前に触れぬように注意をし、お前への愛をひた隠さなければならない。”」
 「クレマン!」
 「“俺には望む事も願う事すら許されてはいないのに、あの男は・・・”」

 「もういい!」

おれは強い口調で言った。クレマンはようやく口を閉ざすと不思議そうにおれを見た。 何だよその顔は!ついさっき、全部!おれの頭の中に刷り込んだばかりだろう!!!それなのになんでまた説明するんだよ!!!

 「クレマンいいですか!もう必要ありません!しっかりと理解しました。もういい!もう十分です!」
 「では、あの破り捨てられた部分の感じを・・・・」

 「止めろ!!!」

思い切り叫んで・・・クソ!傷に響く〜〜
 「どうしたのです?大声など出してはいけませんよ。」
 「もういいです!もう!しっかり入ってます。全部です!全部!完璧です!大丈夫です!ご心配なく!本当に本当に!大丈夫です。」
クレマンは残念そうにおれを見た。

 「そうですか、なら仕方ありませんね。それにしても身分違いの切なさが切々と感じられますねえ。それと所々詩的な描写が・・・・」
 「変です。」
クレマンはまたしても不思議そうにおれを見た。
 「君が書いたのですよ?」
 「おれじゃない。アンドレです。」
こんな恥ずかしい事書くか!絶対に!それに!
 「まあいいでしょう。では、破られた箇所ですが・・・」

 「もういいと言って・・・・」

叫ぼうとして傷に思い切り響いた。
くそ〜〜〜〜お。
なんだよ、この日記は!おれはしないからな!そんな事は考えるものか!アンドレだ、おれじゃないんだ!

 「疲れましたか?傷が傷むのですか?」
クレマンは心配そうにおれに尋ねた。おれはうんざりした様子を隠さずにクレマンを見た。
 「ええ、痛いです。かなり痛いです。めちゃくちゃ痛いです。本当死ぬほど・・・」
 「分かりました。ではすぐに本題に移りましょう。」
 「もういいです!」
昔の話なんて、おれが知っている話だけで十分だ。もうこれ以上聞きたくない!

 「だめですよ。君はまた同じ事を繰り返すかもしれない。」
 「何ですか、その同じ事って?」
 「勇。」
クレマンがおれの名前を呼んだ。声が少し低い。こういう時のクレマンはいつもと違う。
いい話じゃない。おれは身構えてクレマンを見た。

 「アンドレはオスカルを愛していました。彼女なくしては生きてはいけないほどにね。」
クレマンは言った。

 「それなのに失明は間近迫り、あろうことか彼女は他の男のものになる。護衛という立場も失い、彼女の側にいる為の手段も理由もなくなる。そしてその日は確実に近づいていた。無理心中は・・・しようとしたのは間違いないでしょう。これは寸での所で思い止まりました。では残された選択は?アンドレはどうしたのでしょう?君には分かりますね。」
クレマンはおれをじっと見ている。厳しい目だった。

 「君が今回しようとしたことと同じです。愛する女性を守って死ぬのです、彼女を失う破滅の時が来るまでにね。」
おれは言い返せず目を伏せた。クレマンは容赦なく話を続けた。

 「革命前夜、暴動が多発する危険な状態です。軍務についていれば、いつ何があってもおかしくない。自分の命と引き換えにオスカルを護らねばならない事態などいくらでもある。それでなくとも失明寸前なのです。人はそれを主を護ったと、忠義者だとか言うでしょう。ですがアンドレにとってはそれが、それだけが誰にもはばからず自分の思いを示せる行為になる。自分の命より大切なのだと、それほど愛しているのだと。無理心中を図った事がそれに追い討ちをかけました。償いです。彼女への償い。何があっても彼女の為に。愛する女性を護って命を以って償う。それが自分に許された唯一の行為だとね。違いますか?」
クレマンは言った。

 「・・・だけど、そうするしかなかった。」
おれは答えると、顔を上げた。
 「オスカルが悲しむのは分かってたと思います。だけど他に出来なかった。どうしようもなかった。結婚はもう決まっていたし・・・」
 「彼女は結婚しませんでしたよ。」
クレマンからすぐに答え返って来て、おれは口篭ってクレマンを見つめた。クレマンはおれに微笑んだ。

 「勇。」
クレマンはおれの名前を呼んだ。

 「大切な話があります。一番大切な話です。君がこれを読み終えた頃もう一度ここへ来ます。」

クレマンはそれだけ言うと唐突に部屋からいなくなった。
おれはあっけにとられてクレマンの座っていたイスを見つめた。
それから気づいて手渡された本を見た。
おれは本の表紙に手をかけて開いた。

世界史は必修科目(注)
管理人が高校生の時代は世界史は選択科目でした。ですが現在世界史は必須教科です。少し前になりますが履修漏れの事件があるまで知りませんでした。(>_<) 「3. Her portrait 」の7話を書き直すかどうか迷ったのですが、あの辺のやり取りが気に入っているので直しませんでした。よって、これから卒業までの1年間、彼は世界史を必死で履修する事になります。いや、どうでもいい事なのですが(^_^;)

記録へ
【本を開く前にお読み下さい】
 この記録はアンドレが絵に取り付いた理由であり、この長い1連の話の根本をなす部分でもあります。

 当初 Pretended story 1では心中未遂あたりのアンドレの心情には一切触れる必要ないと思っておりました。なくてもいいだろうとすら思っておりました。絵に取りついた理由もクレマンあたりに語らせようと・・・その程度です。
しかし最後まで書き上げて読み直してみると、この件について書かないと一番言わせたい事が――それはこの一連の長い話の根っ子の部分になります――書けなくなります。ならば書かねばなりますまい。(すみません。ただでも長いのに・・・)

 で、書きました。しかし重いのです。ええ。半端ではありません。何とか少しでも軽くしようと足掻いた結果がこれです。(^_^;)ええ、おかげでPretended story 1 屈指のおかしな話になりました。特に人に有らざる者の関連の話は・・・辻褄合わせに色々書いてありますが、深く考えないでさらっと流していただけると助かります。m(_ _)m

それと、宗教についてです。よく分ってもいないのに触れてはいけないのですが、話の都合上そうせざる負えなくなりました。大したことは書いてないと思うのですが・・・少しばかり心配です。

 80-2以降80−15までは、別窓で開きます。下の目次からのリンクはありません。next からは81話へ飛びます。つまり、それほど難有りの内容です。ご容赦ください。すみません。