リオンは異形の馬に近づくと手を伸ばし、躊躇いもせず馬の顔に触れた。
 「お前の名は知っている。ネラ(黒き者)よ、お前は闘ってくれるのか?」
リオンの言葉にネラは顔を摺り寄せた。
 「お前は私と共に闘ってくれるのだな。」
(ジャルジェ家覚書ヨリ)

■決闘開始から25日目

 「基本的には今までと変わらない。ブレス、漸撃、雷撃それと鉄壁の防御。ただし、パワーが段違い。Maxがどのくらいあるのか見当つかないんだ。ただ空は当分飛べない。」
 「何だこの重装備は!」
 「文句を言うな!お前は初日なのだぞ!今日の状況次第でいくらでも要望通りに変えてやる!」
 「それでももう少し軽くならないのか、アラン?」
 「だめだ!これでも足りん!」
 「とにかく、戻られてからその話は伺いましょう。フラン。」

 「どうだ?重装備でよかったろうが?」
 「いや、もう少し軽装がいい。」
 「だけど、すごいだろ銀龍?」
 「こんなものだろう、仮にもジャルジェ家の守護者だぞ?」
 「そ、それはそうだけど・・・今まで以上のパワーアップだし、風・水系それから重力系のその他多数の魔法なんて・・・・」
 「これが銀龍の本当の力ということですね。」
 「わたしがいるのだ。そのくらいはして貰わないと来た甲斐がないではないか!」
 「だけど!オスカル!」
 「心配するな、アンドレ。だがその代わりにアラン。」
 「分かっている。お前の気に入りそうな物は全部揃えたからな。」
 「メルシ、アラン。だが全部持ってはいけないから見てから決める。」
 「いや全部持って行けばいい。馬に持たせばいいからな。何もかも全部!総て!」
 「ちょっと待てよアラン!馬っておれ?それっておれ?」
 「他に誰がいる?頑張るんだぞ!馬。」
 「オスカルに言われるならいいけど!なんでアランがいうんだよ!おい!アラン!」
 「アラン!アンドレ!何やってる!早く武器を見に行くぞ!」

■決闘開始から26日目

 「凄まじい力だ!これが最大なんだろうか?」
 「さあ、でも懐に入り込める機会が増えたからよし!だ。」
 「塔がまた一つ崩れましたね。」
 「だけど3つ残っている。」
 「しかし、こちらのダメージもでかいぞ!分ってるか?」
 「わかってるよ。アラン。おれはディフェンスに専念。だからオスカル・・・」
 「任せろアンドレ。何としても突破の糸口をみつける。」

■決闘開始から27日目

 「決まったぞ!首のところ!」
 「だけど・・・・・効いているかな?」
 「効いてる!あのあと動きが悪くなった。」
 「そうだ、確かに動きが鈍かった。明日も同じ所を攻撃できれば・・・」
 「なんとかなるかもしれない!」

■決闘開始から28日目

 「なんか楽しい。身体はきついけど・・・なんか真っ向勝負って感じいいよな。」
 「アンドレ・・・・・・」
 「何?」
 「怖く・・・ないか?」
 「いや全然。だって・・・オスカルがいるからさなんか安心なんだよな。変?」
 「まあな。でも・・・わたしもおまえがいると絶対大丈夫だって気がするから・・・」
 「じゃあ・・・お互い様だな。」
 「ああ・・・そうだな。」

■決闘開始から29日目

 「効いてる!絶対に効いてる!」
 「ああ!間違いない!」
 「ですが、塔がまた一つ崩れました。注意してくださいね。」
 「残りはあと2つ。一つはいつ崩れてもおかしくないぞ。」
 「だが、鐘の塔は大丈夫だ。」
 「あと2日。明日も同じ所を攻撃できれば・・・」
 「そうだ、あと2日だ!」

■決闘開始から30日目

 「これが終わったらさあ、花見に行かない?」
オスカルは怪訝そうにおれを見てる。おれは気づいて慌てて付け加える。
 「すぐじゃなくて!4月になったらだよ。桜の花が咲いたら。」
おれが言うとオスカルは笑って頷いた。

 「どこへ行く?私が青葉公園ぐらいしか知らないが?」
 「おれの親父が昔住んでた所はどう?家の前にちっちゃな公園があって、大きな桜が3本植わってるだけなんだけどさあ、すごくきれいいで、桜の花が咲く時期になると必ず連れて行ってもらってた。」
 「場所は?」
 「横浜。面白い所なんだ。シュールと言った方がいいかも。住宅地に小さな山があってそこだけ1面ススキだけなんだ。で、そのてっぺんに桜の木のある小さな公園の向かいに親父の箱の家だけがある。」
 「箱の家?」
オスカルは首をかしげた。

 「おれはそう呼んでた。真っ黒い箱型の・・・コンテナの家。親父の友達に設計してもらって外で組み立ててもらって、トレーラで運んで、親父がクレーン車で・・・その為に免許取ったんだよ、親父の奴。で、自分でそこへ置いたんだ。というか、親父じゃないと“そこ”へ置けなかったからなんだけどね。」
 「どういう事だ?」
 「人もあんまり近寄らないというか近寄れないんだ。近所の人は呪われた土地だとか言ってる。」
おれは意味ありげに言った。オスカルは眉を顰めて考え込んだがすぐに分かったようだった。

 「お前の父にもおまえと同じように力があったのだったな?」
 「何でも無駄に見えた。」
 「なら呪われたというのはあってはいないな。その逆だろう?」
おれは頷いた。

 「扉の中、龍の住処みたいな所なんだ。だから不気味なんだと思うよ。だけどおまえには悪くないと思うよ。公園は家のまん前で、まるで庭みたいだし・・・そうだ!おまえなら、あれも見えるかもしれない。桜の木の精。」
 「桜の木の精?」
 「公園にいるんだ。大きさが50cmくらいのきれいな黄緑色の巨大な芋虫。」
 「・・・・それは丸々と太ってツルツルに磨いて光らせたようなのか?」
 「見たことあるのか!」
おれはびっくりして思わず叫んだ。するとオスカルは苦笑した。

 「まあな。あれが桜の木の精だとは知らなかったが。」
 「おれもは子供頃見ただけだからあんまり覚えてないけどだけど、確かそんな感じだった。だけど、ちょっとイメージ違うだろう?」
 「そうだな。桜の精なら、もっと儚げなものかと思ったが。」
 「だろう?だけど親父曰く理に適ってるらしい。桜って花が散って葉になると毛虫がいっぱい付くので分かるって言われたけど未だによく分かんないんだよな〜。」
 「わたしは分かる気がするぞ。」
 「へえ、オスカルは分かるんだ。」
 「よし!アンドレ。そこにしよう。そこで花見をする!色々持って行くぞ。食べ物はおまえに任す。その代わり飲み物は・・・酒は準備するからな、任せてくれ!」
 「ちょっと待て!おまえ酒って・・・未成年だぞ!」
 「ワインやシャンパンだぞ。」
 「って!酒だろ!」
 「あれは水だ。」
 「酒だ!いいかオスカル!未成年は!絶対飲んじゃダメなんだぞ!絶対!あんなものは!もう二度と・・・・」

 「・・・おまえ、何かあったのか?」
 「べ、別に何も・・・と、とにかく!ジュースだ!絶対にジュース!」
 「・・・ジュースで我慢する。」
 「ああ、ジュースが一番だ。」
おれはしっかりと強調した。オスカルは苦笑した。それから嬉しそうに笑った。

 「楽しみだなあ。」
 「ああ楽しみだ。」
おれは答えた。

■決闘開始から31日目、最後の日

 「アンドレ、準備はいいか?」
オスカルはおれに尋ねる 。おれは黙ったまま笑って、それに答える。