・・・繰り返します。時間は本日午前2時〜3時現在。外国人の方で、身長180センチの痩せ型、黒いズボンに黒のフード付きのブルゾンに黒のサングラスをかけた金髪碧眼の女性は、依然遺骨を探しておられます。心当たりの車はセンターまで至急連絡をお願いします。午前3時50分、はやぶさタクシー中央センター、全車への連絡を終わります。

 「畜生!どこへ行ったんだ!」
加藤は思わず叫んだ。
タクシーの運転手は苛つく加藤をバックミラーで見ながら尋ねた。

 「会社の中央センターから入った連絡でも、引き続き警察からの依頼で探せ!ですからね。環8からタクシーに乗ったという情報も警察には入ってない。そして高速へは人を手配済みでしたね、そこでも見つかっていない。田園都市線の用賀駅も駄目だったでしょう?」
 「ああ。」
 「そのお嬢さんが家を飛び出して約2時間、これなら警察の初動は早かったでしょうが・・・通りかかった車に同乗させてもらったり、白タクなら警察に連絡なんて入らないし、明るくなるまで何処かに隠れてじっと身を潜めているなら見つけようがない。」

タクシーの運転手の言葉に加藤は 「もう少しこちらへ人を回してくれれば・・・・」 と呟いた。
 「いくら人手があっても同じ事です。やるなら公開捜査ですよ。」
 「朝になればな!だが今は何の効果もない!」
 「それと、先にバイクで追っかけてった人はどうなったのです?彼の方が心配だ。」
 「分かっている!」
加藤は思わず運転手を怒鳴りつけた。

 「・・・まだ連絡が取れないのですね。」
加藤は目を伏せた。
 「・・・悪かった。」
 「いいですよ。とにかくその人も見つからない。追っていた白のカローラらしき車は・・・公園脇に3台ほど路駐してあったが、ナンバーが違う。ですがナンバープレートを付け替えた可能性もある。」
加藤は答えなかった。運転手は尋ねた。

 「もう一つ聞いても?その命を狙われてるお嬢さんは、優しい子に間違いはないですか?」
 「それがどうした。」
 「どっちです?」
 「だから優しい子だよ!見た目はそうじゃないが、本当に優しくていい子だよ!優しい子なんだ!それなのに・・・・」
加藤は口篭って黙った。しかし運転手はそんなことにお構いなく、しつこく加藤に尋ねた。

 「そして、命を狙ってる奴等は相当危ない奴等だ。もしそうなら・・・・」
 「だから何だ。あんたは!さっきから根掘り葉掘り・・・」
 「さっき話してくれたでしょう?遺産目当てにしょっちゅう命を狙われてると。でも優しい子だから皆に気を使って他の人間に迷惑かけないようにしてるとか。それからめちゃくちゃ強いと。それに間違いないですね!」
 「ああ、そうだ。だがそれが一体・・・」
 「それならもう絹縫公園しかありません!」
運転手は強く言った。

 「絶対あそこです!お嬢さんがタクシーから飛び降りて少ししてから、白いカローラは環8へ出た所で引き返した。バイクの人はそのまま環8から救急医療センターから ―あそこは1本道で環8付近まで出ないと道はありません― 回り込んだ。俺のタクシーもすぐにゴミ焼却場について見張っていたがカローラもお嬢さんも来なかった。で、周辺の空き地と住宅地を探したがどこにもいない。救急病院は望み薄だし、焼却場は見張ってるが、見つかったという報告は入っていない。そうしたらもう公園しかないじゃないですか?」

 「公園は駄目だ。最初に言ったろう!あそこは無理なんだ。あんたの言いたい事は分かる。だがな、普通じゃないんだ。説明しても信じちゃくれないろうからしないけど・・・わざわざ敵の手の中へ飛び込むようなものなんだ!」
 「分かりますよ。プロの殺し屋は・・・あやかし、人に在らざるものに関わりがあるんでしょう?」
加藤は驚いて運転手を見つめた。
 「あんた、なんでそんな事を・・・」

 「昔知り合いの記者が人に在らざるものに関わりがある事件を調べようとして酷い目に遭いましたからね。話を聞いてすぐに分かりました。」
 「なら尚更だ。公園は危険だ、まさしく殺されに行くようなもんなんだぞ!」
 「ですが!そのお嬢さんは、プロの殺し屋相手に戦えるくらい強いのでしょう?その上、危険を冒しても一人で何とかしたいタイプなら?誰かが自分の為に危ない目に合うくらいなら自分が身を挺しても防ぎたい優しい子なら?人がいる所に隠れると思いますか?例えどんなに危険でも・・・どうです?」
その問いに加藤は絶句した。

 「どうですか?」
 「・・・まさかそんな・・・」
 「それに余り考えたくないが、バイクの人が奴等に見つかったとしたら?バイクなんて隠そうと思えばなんとでもなる。そして公園内に連れ込まれたとしたら?」
 「あそこは高い鉄の柵があって上部は鉄条網みたいなのがある。監視カメラも所々にあって何かあったら警備員が・・・・」

強熊はバックミラーで加藤を見ながら答えた。
 「あやかし、人に在らざるものに関わりがあるんでしょう?それならなんとでもなる。それと、警備なら来ませんよ。都内のこういう規模の公園のカメラは大抵止めてあって、たとえ動いていたとしてもテープが回ってるだけです。公園脇の白のカローラ。バイクの人はエンジンも冷え切っていると言っていたし、ナンバーは違っているのも分かりますが、俺は絶対怪しいと思います。とにかくです!一番怖いのは・・・」
強熊は急に声を低くした。
 「バイクの人を囮にして、お嬢さんをおびき寄せようとしている場合です。」
 「公園に戻ってくれ!」 加藤は叫んだ。

 「分かりました!」
運転手は勢いよく返事をすると車のスピードを上げた。
 「どうかしましたか?」
暫くして運転手はミラーを見て加藤がじっと自分を見つめているのに気づいて尋ねた。加藤は笑うと感心した様子で言った。

 「いや、あんたはぱっと見、勇に似てるから、ノンビリした奴かと思ったが・・・いや悪い。勇ってのは俺の知り合いであんたみたいに背が高くてくせっ毛で・・・とにかく!あんたすごいぜ強熊(きょうま)さん。ゴミ焼却場を警察に調べさせるアイディアといい、頭がいいというか洞察力があるっつうか・・・いや本当に助かった。」
 「お客さん、大げさですよ。」
 「そんなことはないさ。俺は公園なんて考えもしなかったからな。ホント!あんたはタクシーの運ちゃんさせとくには勿体無いよ。いや、タクシーの運転手だってもちろん立派な仕事さ。」
運転手はそれを聞いて苦笑した。加藤は続けた。
 「だけど強熊さん、あんたは色々詳しいし理論的というか、それこそあんたの知り合いの・・・ほら、さっき知り合いの記者がどうのとかいったろう?つまり、新聞記者なんか似合ってそうだよ!うん!スゲーよ、あんたは!」

運転手はちょっと真面目な顔をすると何か迷っているような表情をした。
 「どうかしたのか?」
加藤はそれに気づいて彼に尋ねた。
彼も何か言おうと口を開きかけたが、ふいに押し黙ると前方を見つめた。それに気づいて加藤も前を見た。

 「救急医療センターと陸上競技場の角です。メタリックグレーの日産車、さっきありましたか?」
 「・・・・なかったはずだ。」
 「そうですね。止まりますか?」
 「いや、このまま通り過ぎてくれ。」

タクシーは通り過ぎてテニスコート側の道へ回り込んだ。
テニスコート横を通り過ぎる時、加藤は気づいた。駐車してある車の1台の中が一瞬明るくなったのを。
タクシーはそのままテニスコートの横を通り過ぎて焼却場を回り込んだ。

 「人がいた。」 加藤は運転手に言った。
 「人が!どこにです。」
 「テニスコート横のワゴン車、多分トヨタだ。ほんの一瞬明るくなった。タバコに火をつけたんだ。」
 「よく気づきましたね!」
 「それより30分ほど前だったよな、さっきここを通ったのは?その時には・・・」
 「ええ。ワゴン車もう停まってましたよ。・・・ちょっと待ってくださいよ。」
その時、強熊は叫んだ。
 「動いていませんか?もっと焼却場に近かったはずだ!黒の軽の後だったはずです!」
 「ああ。場所はいくらでもあるのにな。それもこんな時間にだぞ。一台は30分の間に路駐されて。もう一台は移動している。それに・・・公園周りでは、ここが一番見通しがいい。」

加藤は思い出した。
そういえば・・・最初優李と接触があったのは確か、グレーの日産車だったよな?
加藤は携帯を取り出すと坂本の携帯を呼び出した。

車は絹縫公園のすぐ脇にあるファミリーレストランの駐車場に停車した。

 「坂本、お前と田口はここへ残れ。オレ等が中へ入る。」
 「もう一人の奴は?」
 「直接公園内に入るとさ。だから・・・オレの式神と使い魔、どちらがいい?」
 「どちらって・・・どっちがいいんだ?」
 「それなら使い魔を置いていこう。何かあったらこいつの指示に従え。」

坂本は、突然姿を表した芋虫を丸々太らせてツルツルに磨いて光らせたような30センチぐらいの鮮やかな黄緑色のそれを、気味悪げに見つめた。
 「姿は消すが、お前の側にいるからな。それから!急に訳も分からずゾッとしたら注意しろ。何があっても平常心だぞ。パニクるんじゃないぞ。」
 「あ・・・ああ。」

調査部の男達はドアを開けて外へ出ようとした。
その時、坂本の携帯の着信の光が点灯したので坂本は急いでそれに出た。
 「俺だ。今、東門に・・・なんだって!車が?」
坂本は携帯に話しかけながら3人組に待てと手で合図した。男達はドアを開けたまま坂本を見つめた。
 「それで・・・ああ。ああ。公園の西面側、センターの角にメタリックグレーのニッサン車か。・・・移動してる?白のトヨタのワゴン車が・・・ああ、そうだな怪しいぞ。・・・ちょっと待て!一人はマズイ!」
坂本は携帯に叫びながら、調査部の男達に目を向けた。
 「センターの角にメタリックグレーのニッサン車。テニス場横に白のトヨタのワゴン車、こちらには人がいる!」

 一人の男が頷いて 「今、あいつに連絡した。」 と答えた。
男の言葉に坂本は頷くと 「環8沿いのファミレス分かるか?ああ、東門の隣。そこへすぐに来い。急げ。」 と、加藤に伝え携帯を切って男を見た。

 「悪いな。」
 「それでいい。石塚の二の舞は困るからな。」
男は坂本にそう言うと自分の相棒に話し掛けた。
 「車が2台。そして白のカローラの奴もいるなら総勢15〜20名か。」
 「雑魚なら何人いても同じだ。それより、雑魚ばかりだと困るんだが。」
同僚の言葉に男は頷いて、それから遠くを見るようなまなざしをすると急に苦く笑った。 坂本はそれに気づいて怪訝そうに尋ねた。

 「どうかしたのか?」
 「やっちまった・・・あの馬鹿。」
 「しょうがないだろう。あいつに抑えなどきかねーからな。」
もう一人の男は気にもしていないという様子で答えた。
 「一体何があった?」
坂本は心配そうに尋ねた。

 「心配するな。あいつが車の中にいた奴を確保中だ。」
 「ちいっと手荒いやり方でな。」
 「確保中って・・・例の組織の奴か。」
 「いや、まだ分からん。」
 「分からんのにやったのか!」
 「ああ。ちょっと・・・・待ってくれ。」
男の一人はそう言うと沈黙した。暫くして考え込むような仕草をして何度か頷く。

 「トヨタのワゴン車に2人だ。確保した。」
それから彼は嬉しそうに笑った。
 「楽しめそうな連中が揃っているようだぜ?」
 「そうか!そうか!それは嬉しいねえ。」
 「あ、あんた達はそんなに暴れたいのか!」 田口が呆れたように声を上げた。
 「田口、そうじゃない!ここに腕の立つ連中が揃っていれば、優李がいる可能性が高いのだぞ!」
坂本が叫んだ。

 「そういうことだ。よし!オレは北側から中へ入る。あいつは西門側から潜入するとさ。」
それから男は同僚を見ると言った。
 「悪いがお前はこつらと餌やってくれ。」
 「餌!オレがか!」
 「敵の人数が把握できてない。かく乱は必要だぞ、頼む。」
男はそれだけ言うと公園へ向かった。もう一人の男は同僚の後姿を見て小さく息をつくと坂本を見た。

 「坂本、お前はパソコン持ってファミレスへ行け。」
 「ファミレス?」
 「骨折治りかけの腕じゃ餌はさせられん。待機してろ。何かあった時の中継役もいるし、車の中より人がいる店の方が安全だ。オレと田口は、加藤と合流して公園へ入って餌をやる。」
 「え、え、え、え、餌って・・・」
怯えたような田口の声に男はニヤリと笑った。
 「心配するな。オレがちゃんと守ってやる。」

その時、坂本の携帯が光った。坂本は急いで出た。
 「ああ。俺だ。そうか!ちょっと待ってくれ!」
彼は携帯を離して言った。
 「応援だ。すぐ側にいるそうだ。呼ぶか?」
 「餌は多い方がいい、呼んでくれ。」
坂本は手短に用件を伝えると携帯を切った。
 「動ける奴は全員ここへ呼び寄せるぞ。」
 「ああ、そうしてくれ。」
坂本は携帯で急いでメールを打って送信した。それからパソコンの更新ボタンを押して画面を見つめた。

駐車場にタクシーと続けて乗用車が入って来た。
 「どうやら加藤と・・・応援か?早いじゃないか!」
 「加藤が掲示板にさっきの話を書き込みした。あと少ししたらもう少し来るはずだ。」
 「何名ぐらいになる?」
坂本が掲示板の更新ボタンを押しながら言った。
 「そうだな・・・7、8名かな。ちょっと待ってくれよ、まだ来られる奴がいるようだぞ・・・」
坂本は突然黙り込んだ。田口は気づいてパソコンを見た。調査部の男も外から車の中を覗き込んだ。

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mark高井戸から南下中    投稿者:2課追加  時間4:02:04

5分でファミレスへ到着予定。

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mark 戦闘中   投稿者:ブイエ担当  時間4:02:06

全課、御苑に集結。御苑では依然戦闘中。
混乱しています。情報が錯綜。結界崩壊の報あり。敵敗走中の報もあり。現在確認中。

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mark無題   投稿者:傍受係り  時間4:02:19

・・・あと10分が限度  3:53:33受
維持せよ!  3:53:40送
敵、続々集結中!5分も維持できず  3:56:11受
維持せよ!!  3:56:20送
増援!増援!増援!  3:58:14受
娘を殺すまでは維持せよ!!  3:58:21送
結界崩壊!  3:59:13受
死守せよ!!  3:58:21送
限界、撤退する。  3:59:00受
娘には効果的な死を与えた。  3:59:59受

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 「そ、そ、そ、そんな・・・」
 「まだ何も決まっちゃいない。」
男は言い切った。
坂本は田口にパソコンを渡すとドアを開けて外へ出た。そしてこちらへやってくる加藤を見つけると声を掛けた。
 「ご苦労だったな、加藤。」
 「坂本さん!どうなりました!」
 「こいつと公園の中へ入って貰うぞ。」
 「じゃあやっぱり!」
 「ああ。多分間違いない。」
坂本はこちらへ近づいてくる男達にも声を掛けた。

 「呼びつけて悪かったな!」
 「ああ、坂本さん!隊長は見つかったんですか?」
 「まだだ。だが多分公園の中だ。」
 「新宿はやはり陽動ですか?」
 「それをこれから調べるのさ。大変なことになりそうだが頼む。」
 「構いませんよ。隊長の為です。」
集った男の一人が言った言葉に、皆は頷いた。
坂本は調査部の男を見た。

 「これだけいれば役に立つか?」
 「ああ。これならいい撒き餌になる。おや?もう一台来たぜ。」
男は入り口を見た。その言葉に坂本もそちらを見て言った。
 「早いじゃないか。2課の連中か?」

その時、また坂本の携帯が光った。
急いで坂本は携帯を開くと 「傍受係りからだ!」 と叫んで通話ボタンを押した。
 「どうした?なんだと!今幹部から送信されたのか? ああ!ああ!分かった!」
坂本は叫んだ。
 「今幹部から送信された!防御無しのオープン!内容は・・・」

 「み、み、み、見てください!」

パソコンを持っていた田口が叫んだ。皆急いで彼の周りに集るとパソコンを覗き込んだ。

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mark 無題   投稿者:傍受  時間4:05:22

×貴下の尽力に感謝する  4:04:41受
速やかに御苑を離脱せよ。報酬は当初の予定通り、娘の首と引き換え  4:04:50送

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 「首って・・・そんな!」
加藤が叫んだ。調査部の男が怒鳴った。
 「勘違いするな加藤!娘を殺したという報が入ってから次の指示まで時間もかかり過ぎなのに! ×野郎からの連絡! 『貴下の尽力に感謝する』 その直後に幹部が 『娘を処分後、速やかに御苑を離脱せよ。』 と9秒後に送信だ!これで決まりだ!隊長はここにいる!」 
坂本が続ける。
 「傍受の奴も同意見だ。 『鹿は優しい。封鎖の手筈はある。』『封鎖の手筈は整った。後は待つだけ。』『鹿は優しい、とても優しい。』 鹿は優しいんだ!とても優しいんだぞ!鹿は優李だ。手筈は石塚だ。優李は石塚を助ける為に絹縫公園の中にいる!」

 「行くぞ!」
3人組の男が声をかけると、皆一斉に公園に向かって走った。