「DVDにするのか?」おれは聞いた。
 「ああ、字幕が消せるからな。」彼女はDVDを手に取りながら言った。
 「消せるからって・・・これ、韓国語だぞ?・・・分かるのか?」
 「少しだけ、今勉強中だ。」

こいつの頭ん中ってどうなってるんだ?日本語だろ、それから英語にフランス語、あとイタリア語とそれと・・・韓国語!
 「おまえさ、本当は何ヶ国語くらい話せるんだ?」
 「6ヶ国語ぐらいか?韓国語みたいに聞き取るだけならもう少し多いが・・・10ヶ国語ぐらいだろう。」
それを聞いておれは心底感心した。

 「おまえってさ、ほんとにすごいよな。おれなんか、フランス語9年習ったけど全然わかんないのに・・・」
彼女はおれの方を向いた。
 「9年も習ってたのか!」
 「あ、ああ。それが何か?」
 「アンドレ、おまえは・・・器用だな。」
彼女は呆れたようにおれを見て言ったので、おれは少しむっとして 「いいんだよ、おれは!日本語と英語さえ話せれば。」 と答えた。

 「字幕出さないからな。」

 「えっ!」
おれも付き合わされるんだから、話がわからなかったら面白くないじゃないか!
 「それはちょっと・・・字幕がないと・・・」
 「では、韓国語を覚えろ。」
 「覚えろったって・・・無理だよ!おれはおまえと違うんだぞ〜 おーい!ちょっと待て!!オスカル!」
彼女はすたすたと歩いていく。慌てておれは追いかけた。

 おれの学校は全寮制で、本来なら週3回の外出日(門限有り)以外は校外へ出られないのだが、板倉さんはどうやって手を回したのか、特別措置ということで許可が下りた。
だから、おれは授業が終わってから彼女の所へ行って、それから朝までずっと一緒にいて彼女を学校へ送ってから自分も学校へ行くという毎日を送っている。

彼女の学校は、護衛がなくてもいいらしい。というのは、龍はあるルールに則って行動しているからだ。
風呂とかトイレとか・・・・あまり変な所へは出てこない。つまり、学校もその一つらしい。

 「お前が急病の時も来ないな。それから臨時のガード、1日だけとか本当の臨時さ。そういう時もこないことが多い。それから龍と話が出来るなら・・・・話し合いで解決する事もある。」
 「何ですかそれは!何が何でも殺そうとするんじゃ・・・・」
 「勿論ダメな場合が多い。しかし!19歳の誕生日前までは向こうも確認の意味合いが強いのさ。」
板倉さんは言う。

訳がわからないから聞いたんだけど、12月に入ったら教えてやると言ってそれ以上はわからない。
そしてガード(護衛)は1人だけ。
このガードというのは、龍から彼女を護って戦う人間の事だ。 特定の人間でなくてもいいが、とにかく1人だけだ。

ガードを始めて今日で4日目。そして龍が来たのは3回。
板倉さんは 「暫くは様子見だから頻繁だ。」 と言っていた。
つまりおれを試しているらしい。
とりあえず3回とも彼女には気づかれずに対処できた。龍が来たのは出来るだけ気づかせたくないから。

彼女は・・・・

いや、もういい!

オスカルの名は勿論 “優李” と呼ぶはずだったのだが、何回も間違えて ”オスカル” と呼んだ。
そりゃもう注意した。呼ばないように本当に注意して! がんばったんだけど・・・いつも ”オスカル” って言ってしまう。顔を見てない時はすごく注意すれば言える。だけど見ちゃうと駄目だ。 “優李” の名前が頭ん中から飛んで ”オスカル” だけになる。自分でもどうしようもない。
とうとう彼女も呆れて 「もうオスカルでいい!」 と言って、おれだけ特別に “オスカル” と呼んでいいことになった。
だけど・・・代価は高かった。めちゃくちゃ高かった・・・・はあ・・・・

そう、名前だ。

オスカルはおれを “アンドレ” と呼ぶことに決めたのだ。
理由はいたって簡単。おれの名前をフランス語に置き換えただけ。それと、おれのフランス語。
 「発音がなってない、それに!もっと自信を持って話さないと!だから通じないのだ。」
それで・・・・
 「フランス人のように、ちゃんと話せるように!という “願い” もこめて “アンドレ” と呼んでやろう。」
と楽しそうにオスカルは言ったのだ。

おれは断固反対したんだ!当然だろう。
だけど・・・

 「 “オスカル” と呼ぶのをやめるのだな。わたしだって嫌なんだぞ!父親と同じ名なんて!」
と言い返された。
そりゃさ、確かにおれが悪いんだけどさ・・・・よりによって “アンドレ” なんて!
はあ・・・・ああ、畜生!

 オスカルは、あまり女の子らしくなかった。
というか・・・男。
服装とか話し方とか、あとさっぱりした性格とか。
友達と接するのと大差ない感じ。
このことは、おれとしては助かっている。女の子と話すのって楽しいけど話題とかに気を使うから・・・

オスカルの服装と話し方は・・・これは仕方ないのだ。
誘拐やストーカーの話は・・・板倉さんがおれを連れてくる為の出鱈目だと思ったがそうではなかった。生まれた時からもう数え切れないくらいあったそうだ。だから小さい頃からできるだけ女の子に見えないようにという配慮が原因らしい。

今の服装だって、男っぽいんじゃなくて男物。
髪は肩にかかるくらいの少しウェーブしたショート。
ちなみにこれは毎朝死闘の末の成果。本当は天パでくるくるだ。
背はおれより5・6センチ低いかな?177か8センチぐらいの長身、声も低い、言葉使いも男。

だから、どこから見ても・・・男。
それも唯の男じゃない。
こうやって一緒に歩いていると、女の視線が全部オスカルにいくのがわかる。
みんな見惚れて・・・視線が合ったりすると、ほら!真っ赤だ!
すごいな。おれ、17年男やってるけど一度だってこんな風に見られたことないもんな・・・
ちょっと羨ましいかも・・・・・

 「優李、何にしたの?」
少し離れた所にいたジャンヌがオスカルに尋ねる。
 「韓国。」
 「おやおや!またなの?あら勇、どうかしたの。」
 「2時間はきついよ、字幕なし。」

ジャンヌはおれに色っぽい視線を投げかけた。
 「丁度いいんじゃない?隣で勉強ができる。明日は英語で15分間スピーチのテストとか言ってたでしょう?」
 「げっ!忘れてた・・・話す内容全然まとめてない。マズイよ・・・・徹夜じゃん。」
 「今日は日本語吹き替えで見よう、アンドレ。」
オスカルはニヤッと笑った。
 「オスカル〜それだけは止めてくれ〜」

おれの周りの女って・・・揃いも揃って!どうして意地が悪いんだよ!!!!