「先輩!もういい加減にしてください!」

車に乗り込んでからずっと笑いっぱなしだ、この人は!

 「悪い、勇。つい思い出してしまって・・・・くっくっく・・・大抵の場合は、言葉を忘れてしまったかのように呆然として立ちすくんで、しばらくは見とれて声も出ないんだが・・・・いや、優李に対してお前みたいな反応した奴は・・・ぶはははは!」
そこまで笑うか!くそー!

 「ほっといてください!」
 「開口一番 “あっ、動いた!” はないだろう!おまえは本当に!そのあとの反応がまた・・くっくっくっ・・・」
仕方ないじゃないか!だって動いたんだから・・・・ずっと動かない絵しか知らないから・・・・
そりゃあおれも言ってしまってから、まずい!とは思ったけど・・・・

 「とんでもない事を言ってしまった!というのがはっきりと分かる、あのうろたえ方がまた・・・くっくっくっ・・・・あそこにいて、おまえの心が読めなかった奴は誰もいないだろうな・・・・くっくっくっ。」
 「もういいです・・・・・」

 そのあと、オスカルは・・・いや優李だった。
彼女にも思いっきり笑われた。
絶対変な奴って思われたに違いない。
話してても、おかしくて仕方ないといった感じだったし・・・

 「最悪の第一印象ですよ。」
 「まあいいじゃないか。それがおまえの地なんだから。ところで・・・・」
板倉さんの口調が変わった。なにが言いたいか分かっていた。
 「見てました。ずっと・・・銀色の影のような・・・・多分、本体じゃないと・・・思いますけど」
フランスで見た黒い龍じゃない。銀色の・・・龍?もう一頭の?

 「相変わらずよく見ているな。その通り “銀龍” だ、そう呼ばれている。ジャルジェ家の2頭の守護者の内の1頭だ。もう1頭は・・・この件にはまったく関与していない、傍観だ。つまり相手は銀龍1頭のみ、本体はフランスから動かない。だからといって侮れるようなものじゃない、忘れないように!」
 「分かってます。」

かわいそうだ。あんなものが生まれた時からずっと付き纏っているなんて!
とにかく!4ヶ月間がんばろう!おれのできる事をしよう。
オスカルの為に・・・・・じゃなくて優李だった。
だけど優李は・・・・・・やっぱりオスカルだ。

そうとしかいえない。だって同じだ、想像してた通りだ。
絵よりも大人びた感じだけれど・・・そっくりだ!雰囲気も。
そして、声。懐かしいような・・・・低くてよく響く不思議な・・・・・ずっと聞いていたいような・・・・
それにしても!
会った途端恋に落ちるとかいうのは、所詮小説やドラマの中だけの話だよな。
本当によかった、何事もなくて・・・・・もしそんな事になったらアンドレの二の舞だ。

とにかく!おれは、4ヶ月間あの影みたいなのをオスカルに近寄らせないようにする!
そして、これが終わったら今度こそ優しくてかわいい彼女を作る!これで決まりだ!

車が止まった。
 「それじゃ勇、明日からよろしく頼む。」
 「分かりました。」
おれは送ってもらった礼を言って車を降りた。

・・・面白い奴。
背は高い。わたしより・・・・少し高かった。
髪は真っ黒・・・少し癖っ毛だ。わたしほどじゃないが。
それから真っ黒い目、大きくて・・・優しい。

笑ったら・・・きっと笑うと・・・・もっと優しい目になる。
きっと優しい笑顔・・・

優李はベットの中でくすくす笑った。