15日目、塔の鐘が鳴り止んだ。ついにカストールは倒れ、絶命した。
従者が用意した馬は5頭。しかしカストールには到底及ばず。
 「プランタ・ゲニシダの野生馬、連れて参ります。」
幼馴染の従者はリオンに言った。
 「だがあれは黒き龍ですら手を出せぬと聞く。いくらお前でも・・・」
従者はまっすぐにリオンを見た。
 「策はあります。ですからリオンさま、どうかそれまで5頭の馬でお待ちください。プランタ・ゲニシダの野生馬、必ず連れて戻ります。」
従者の言葉にリオンは黙って頷いた。
(ジャルジェ家覚書ヨリ)

■決闘開始から23日目

着歌が流れた。
おれはソファから立ち上がり、少し離れた机の上に置いてあった携帯を取ろうとしたが音は鳴り止んでしまった。仕方なく携帯を持ってソファに座り直すと着信履歴を見る。
知らない番号だ。前にもかかって来たことがあるような番号?考えたがはっきり覚えが無い。多分間違い電話か何かだろう。おれはかけ直さず携帯を閉じると、そのまま目の前のテーブルの上に置いた。

少しするとアランが部屋に戻ってきた。
何故か不機嫌そうだ。携帯に出た時は機嫌がよかったのに。

 「彼女と何かあったの?」
そう聞くとアランはおれを睨みつけた。
 「彼女?一体誰がだ。」
 「携帯の相手。」
 「俺はガキには興味はない!」
 「つまり相手は年下なんだ。その言い方からすると・・・かなり年下?20歳ぐらい?そうか!だからいつもと違って優しかったんだ。年下の彼女ってやっぱかわいい?アラン。」
 「馬鹿か!女はな、年上に限る。ガキはダメだ!ガキはな!」
そういうとアランはおれを睨んだ。

 「へえ、アランは年上がいいんだ。でもアランより年上ってことは・・・」
40過ぎのおばさんか。でもまあ若く見える人もいるしな。
俺が考え込んだのを見て、アランは不愉快そうに言った。

 「・・・俺はまだ27だ。」
 「27歳!そ、そうなんだ。いや、べ、別にふけてるとかじゃなくて、クレマンの補佐役だし、思ったより年がいってるかもと・・・」
 「ボスと一緒にするな!俺は普通だ。」
 「そ、そうだよね。そうすると2つぐらい・・・じゃないよね!」
おれはアランの様子を見て慌てて訂正した。

 「えーと・・・5つ6つ年上の32、3歳。かな?」
 「何か文句でもあるのか?」
 「いや全然。大人の女性だね。」

おれがそういうと、アランは当然だというようにおれを見た。
それにしてもアランが年上好きとはね。でも、どんなわがままも許してくれる落ち着いた大人の女性の方がアランにはあってるかもな。
おれはそう考えて納得しかけたが・・・・待てよ?今かかってきたのはガキだから、つまりずっとアランよりも年下だ。でもあの様子からすると・・・
ああ、なんだ。そういうことか!

 「何だ?」
 「別に。なんでもないよ。」

おれがそう言うと、アランはおれを睨んで、ぷいとそっぽを向いた。
おれ、ちょっとだけクレマンの言う事が分かった気がした。ふてぶてしい態度で口が悪くてどっから見ても強面のいかにもな感じだけれど、意外と・・・・

 「いい加減にしろ!さっきからニヤニヤと・・・」
その時、着信音がした。

アランは携帯を取り出すと、相手を確認して怪訝そうな顔をした。それから先程と同様に 「絶対喋るなよ、絶対だ!黙っていろ。分かったな!」 とおれにクドいくらい念を押してから携帯に出た。

アランは扉を見ながら立ったままで携帯に話した。どうやら先程と同じで、おれには聞かれたくないらしい。おれにはフランス語はほとんど聞き取れないことぐらいアランも知っているのに、また外で話すつもりだろうか?アランが話すのを聞きながらおれは考えた。

だけど一つだけ分かる事があった。さっき電話に出た時と同じ。いつもと声が違う、なんか優しい。多分相手は同じだな、やっぱ彼女だよな。いいよなあ。ちょっとうらやましい・・・いや、かなりうらやましいかな?

おれがそんな事を考えていると、今度はおれの携帯の着歌が鳴った。
おれは慌てて携帯を手に取って出ようとして思い出した。絶対喋るなと言われたのだった。アランを見ると、話しながらこちらを睨みつけている。そうしているうちに携帯は切れてしまった。急いでマナーモードに切り替えて履歴を見ると先程と同じ番号だった。まったく。

それから携帯を閉じてアランを見ると、アランはおれに背を向けてドアの方へ歩きながら話をしていた。
まずかったかな?向こうにも聞こえちゃったかな?女の声だもんな。まさかと思うけど変な誤解されてないよな。

アランはドアの取っ手に手をかけたが開けずに話し続けた。そして、いつものアランからすると信じられないくらい優しく 「Bonne nuit 」 と言った。“おやすみ” だよな。でも、今はまだ昼間だぞ? 夜勤とか、看護婦さんとかだろうか?ありえるな、うん。

 「だから歌なんて止めろといったろうが!それとボリュームもだ!」

アランは携帯を切るとこちらを向いておれを睨んだ。
 「ごめん。やっぱ向こうにも聞こえちゃった?変な誤解とか、されなかった?」
 「するか馬鹿!誰だって知ってる、ジョス・レイスだろうが!まったく!携帯の着信音に歌なんてガキのすることは!!」
 「ごめん。もうマナーモードにしたから。でもよかった!これでアランが彼女とケンカなんかしたらおれの所為にされちゃうもんな。」
 「誰が彼女だと言った?」
 「だって、さっきの電話の相手と今の電話の相手は同じだよね。今の電話は、もう一度アランの声が聞きたかったからかけてきたの?」
 「だから!ガキは趣味じゃないと言ったろうが!今のはなあ、言い過ぎたからとわざわざ・・・・」
 「ケンカしたの?」
 「・・・仕事の件だ!お前は・・・信じてないな!」
 「うん少しも。ケンカしたけどすぐ仲直りしたんだ。それも彼女の方から謝ってきて!優しい彼女でいいよな。愛されてるよね、アラン。自分でもそう思ってる?」

 「いい加減にしろ!人の事より自分はどうなんだ?え?」
アランは思い切りおれに顔を近づけて、睨みつけながら言った。思わずおれはソファの上を後ずさりした。
 「ア、アラン!おれ、彼女いないからさ。優しい彼女でいいよなと。だ、だから!」
ふいにオスカルの顔が浮かんだ。

 「だからなんだ!」
 「だから・・・」
 「さっさと言え!」
 「うらやましいなあと思って・・・・」

言葉にしちゃいけない。こういうのって口に出した分だけ余計そう思うのだ・・・
その時、アランがいきなりおれの頭をくしゃくしゃとした。おれは驚いてアランを見た。

 「な、なんだよ!」
 「髪!だらしないぞ。そもそも長いのは似合ってない、切れ!」
 「ああ、分かってる。劇が終わったらね。」
 「劇?」
 「白雪姫。3年生の送別会の為の寸劇。」
 「髪伸ばして何の役だ?」
 「・・・・・・白雪姫。」

アランはまじまじとおれを見た。
 「・・・お前、立候補したのか?」
 「まさか!小人が、ちゃんと小人に見えるようにという理由だけで選ばれたんだよ!」
 「なるほど。お前が姫のおかげでかわいい小人が出来上がるか?それは見物だな。白雪姫の余りの美しさに・・・クラスメイトの女の子が面白がって喜ぶぞ。嬉しいだろう?」
アランは面白そうにおれを見た。

 「嬉しくない、うちは男子校。」
 「そういやそうだったな。すると王子は女の子ではなくて・・・」
 「男だよ、オ・ト・コ!そりゃ共学だったら王子が女の子って事もあって・・・そっか。共学だと女の子か〜そうだったら姫役は・・・めちゃくちゃラッキー?」

 「逃避するな、現実は男だけだぞ。この際、潔く諦めて野郎の王子から熱い口付けを貰え。」
 「貰うわけないだろう、気色悪い!だけどそうすると絶対!先輩達から野次飛ぶんだよな〜。あー!もーやだやだ、やりたくないよ。」
おれは思わず溜息を付いた。

 「どんな野次が飛ぶかは想像はつくが、それはお前の為に言わないでおいてやろう。で、劇はいつだ?」
 「2月の確か・・・18日だったと思う。」
 「そうすると、これが終わって日本へ帰ったらまず劇の練習か?」
 「ああ、台詞覚えるのが大変だよ。それが終わったら・・・テストじゃん!マズイ!学年末テストだから・・・範囲は全部だ!勉強しないと古典と物理は・・・もう赤点間違いなし。古典は1学期も赤点だったし、進級かけて追試かも〜」

 「物理は大丈夫だ。ボスが喜び勇んで頭の中へ叩き込んでくれる。」
 「ア、アラン!いい!そ、それだけは絶対!いい!クレマンには教えて欲しくない!アラン絶対言わなくていいから!絶対に・・・」
 「分かった、分かった!俺はそこまで人でなしではないからな。」
アランは笑いながら言って、それからついでのようにおれに聞いた。

 「会わないのか?」

それが誰なのかすぐに分かった。それなのに、すぐに答えられなかった。
考える事などないのに、ここへ来る前から決めていたのに。

 「優李だ。会わないのか?」
アランはもう一度おれに尋ねた。おれはアランと目を合わせないようにして答えた。
 「・・・ああ。これでおれの出来る事は何もなくなるしね。」
そしてオスカルは龍から開放されて幸せになる、昂さんと。一番好きな人と。いっぱい笑えるようになる。

 「それでいいのか?」
オスカルはおれなんかに会いたいなんて思ってない。それどころか・・・きっと逆だ。
 「最初からそのつもり。200年前のこともこれでけじめつくと思うし、もうすべて終わり。」
だから・・・我慢する。いくら会いたくたって我慢する。200年我慢したんだ。50年や60年くらい・・・きっとすぐだ。

 「忘れられるのか?」
大丈夫、ちゃんと我慢する。
それに・・・オスカルはおれのことなんてすぐに忘れてしまうだろう。

 「本当に忘れられるのか?」
 「ああ。」
だけど、おれは無理。

 「諦められるのか?」
 「勿論。」
絶対無理。

 「ふざけるな!そんな事はこれっぽっちも思ってもいないくせに!」

突然アランが怒鳴った。見るとアランはおれを睨みつけている。
 「さっさと諦められるくらいなら何故ここまで来た?惚れた女の為に命捨てて!200年も忘れられなくて!コリもせずに命がけで闘う馬鹿が何ぬかすか!」
「それでもダメなものはダメなんだ!」

どんなに愛しても・・・他の男のもの

そうだ。どうしようもない、どうしようもないんだ!
おれはアランを睨みつけたが、アランは何故か小さく溜息を付いた。

 「だからなんだ?それでもお前は諦められないだろう。」
 「・・・・」
 「違うのか?諦められるのか?そうか!それなら昂と優李の結婚式には是非招待してもらえ!それとも・・・優李は俺が貰ってもいいな。よし!俺が貰う!俺の女にする。優李は俺のものだ。」

 「駄目だ!」

思わず叫んで・・・後悔したが遅かった。おれは顔をそむけた。
 「ほらみろ馬鹿野郎が!ガキがやせ我慢などするからだ!お前には10年早いんだよ!」
アランはそう言って右手でおれの頭をくしゃくしゃっとした。
 「無理しやがって。俺にカッコつけてどうするんだ?え?ケツの青いガキはこれだから!」
アランはおれの顔をのぞきこむと面白そうに言った。
 「大体あのジョス・レイスも・・・ボリューム目いっぱい上げやがって!そうすると音が割れて優李の声に似るからだろう。図星だろうが?」

 「うるさい!」
 「仕方ない。馬鹿でガキのお前の為に!俺がジャンヌからの最新情報を教えてやる。」
アランはおれに偉そうに言った。

 「よーく聞けよ!今優李の一番のお気に入りは・・・・ブルーとピンクのちょっと変わった毛並みの熊のぬいぐるみだ。後生大事に家中抱えて歩いているらしいぞ。学校へ行く時だけは、仕方なく置いて行くそうだ。」
おれはアランの顔を見た。

 「おれの・・・あげたやつ?」
 「俺が知るか!日本へ帰ったら自分で確かめろ。」
アランは不機嫌そうに言い放ったがすぐに表情を変えると“まったく困った奴だ”というような顔をしておれを見た。

 「アラン、おれ・・・」
 「なあ勇、200年前の事なぞ何も関係ないのだぞ。もう昔みたいに我慢する必要ない、お前分かっているのか?」
 「そんなこと分かってる・・・」
 「それなら、まず優李にはっきり自分の気持ちを伝えろ!お前何も言ってないだろう?いいか、日本へ帰ったら絶対優李に会え。それで言う。たとえ嫌だと言われても引くんじゃないぞ。もし優李に他に好きな奴がいても、そいつから取り返せ!奪い返せ!」

 「でも!」
 「でも?何だ。」
 「・・・・それでもダメだったら?」

少しだけ間があった。アランは言った。
 「勇、それでもお前は愛しているのだろう?」
いつもと違う。優しい。
辛くなっておれは俯いた。

 「まったく!ケツの青いガキは!」
アランは、おれの頭をぽんぽんと叩いた。

 「アラン。」
 「何だ。」
 「おれのこと・・・どうしようもない馬鹿だと思ってる?」
おれはそう言ってから顔を上げてアランを見た。

 「当たり前だ!」
アランはきっぱりと言い切るとそれからまた・・・さっきと同じだ。優しい顔をして、それから照れくさそうに少しだけ笑った。

 「だがな、一生一人の女を思うってのも悪くはない。」

そう言うと、いつも以上に不機嫌そうな顔を作って言った。
 「まだ時間があるから休め。目は慣れるまで思った以上に疲れるらしいからな。少しでも休んだ方がいい。時間が来たら起こしてやる。」

 「・・・ありがとう、アラン。」
アランはむっとした顔をすると「さっさと休め!」とだけ言ってそのまま部屋を出て行った。
おれはアランの出て行った扉を暫く見つめていたが、目を伏せた。

オスカル・・・・
ホントにおれのあげたぬいぐるみ、大事にしてくれているのだろうか?
もう怒ってないだろうか?口聞いて・・・くれるかな?
おれ・・・

 「会いたいよ、オスカル。」

おれ、おまえに会いたい!声が聞きたい!
“ホントはずっと一緒にいたかった”
そう言ったら・・・嫌な顔しないかな?笑って許してくれるかな?
もしそうだったら・・・・

おれは包帯の巻かれた左目に手をやった。
そうじゃない、そうじゃないんだ。
もう・・・無理、駄目だ。
おれもう・・・会えない。

アランがドアを閉めると、そこにはクレマンが立っていた。
アランは歩きながら横目で彼を睨みつけて言った。

 「立ち聞きですか?いつもながらいい趣味だ。」
 「扉はしっかり閉まっていましたよ。」
クレマンは言った。

 「あなたには扉などあってもなくても同じでしょうが。」
 「それはそうですが・・・これでも気を利かせたのですよ、アラン。いつもならあんな所で突っ立って君が出てるくのを待っているとでも?」
 「それは言えてますね。いつものあなたならもっとたちが悪い。」
 「酷いですねえ。そういえば “ガキ・馬鹿” から “勇” に格上げでしたね。」
アランは何も言わず、クレマンは言葉を続けた。
 「一生一人の女を思うのも悪くはないですか?」
アランはクレマンを睨みつけた。

 「余計なお世話だ!」

 「アラン、君は本当に素直ではありませんねえ。」
クレマンはくすくすと笑った。
その様子を腹立たしげに見てアランは尋ねた。

 「・・・・それより検査の結果はどうだったのです?」
 「左目の傷は網膜にまで達しています。手の施しようがないそうです。」
 「左目は・・・失明ですか。」
 「右目もです。」

クレマンは目を伏せた。アランは驚いたようにクレマンを見た。
 「普通の傷ならば右目には・・・多少の影響はありますが問題はありません。ですが左目の傷はあの方によるものです。今の所は問題ありませんが、右目におかしな兆候が見られるそうです。左目の傷が直ってからもう一度精密検査してみないとどの程度の影響が出るかは分かりませんが・・・状況はよいとは言えない。」

その言葉にアランも視線を落とした。
二人の歩く音が廊下に響いた。

 「先程優李から電話がありました。」
 「決闘の件ですね。何か不審な点は?」
 「ありませんでした、打ち合わせ通りに。」
クレマンは前を見た。
 「あと9日です。何とかこのまま気づかずにいていただけると助かるのですが。」

 「クレマン。」

アランは名前を呼ぶと歩くのを止めた。クレマンはそれに気づきやはり足を止めた。アランはクレマンを見つめた。
 「なんですか?アラン」
 「・・・・闘い抜けると思いますか?」
クレマンは小さく溜息を付いた。

 「難しい所です。あと9日、城の状態はいい。そして銀のお方は飛べない。ですが勇には肩と目の傷があります。特に目は負担が大きい。よくありません。」
 「傷はどうなのですか?」
 「先ほど話しましたが・・・聞いていなかったのですか?」
 「あなたのです!勇があれほどの傷を追った。シールド張っていたあなたも・・・」
 「かすり傷ですよ?」
 「ですが!」

クレマンはアランを見つめ、優しく言った。
 「大丈夫ですよ、アラン。勇も私もです。」
 「・・・・“絶対に勇を死なせない、もしもの時は私が何とかする。”ですか?」

アランは言った。
それを聞いてクレマンは微笑んだ。

 「ジャンヌですね。ええ。勇にはどんな事があっても生き残っていただかなくてはなりませんからね。」
 「闘いに水を差すつもりですね?」
アランの言葉にクレマンは優雅に笑った。
 「今日の闘い次第ですが。」
 「最初からそのつもりでしたね。」
 「保険は必要ですよ?アラン。」

 「何が保険です!リスクだらけで・・・こんなふざけた保険がどこにあります!」
アランはクレマンを怒鳴りつけた。
 「ですがこれが最後の方法です。やはりこれは銀のお方と一番懇意な私にしかできないと思いませんか?」
 「懇意?ふざけた事を!ただの年寄りの冷や水でしょうが!」
 「いいますね。ですが私も伊達に2度もガードを勤めた訳ではないのですよ。」
 「ずるいですよ、ボス。こんな楽しい事を俺にさせないで独り占めですか?あんたは本当に性格が悪い。」
クレマンは困ったものだというように笑った。

 「やれやれ。少しは年長者を立てるものですよ、アラン。」
 「ボス!俺にさせてください!もしもの時は、必ず決闘を無効にして見せます。」
 「アラン、こういうことは年の順ですよ?」
 「何が年の順です!関係ない!」
 「では責任を取らねばならない立場にいる。これでどうですか?大失態を演じていますからね。板倉を、千秋を抑えられなかったというね。」
クレマンは微笑んだ。

 「・・・勇は嵌められた。」
アランは吐き捨てるように言った。
 「“黒い髪の男の絵”は誤算でした。公開には危険が伴う事が分かってはいたのですが・・・まさか千秋の後輩が勇とはねえ。よからぬ事を考えぬように千秋には何も話さずにいたのも裏目に出ましたし。話したところで同じかもしれませんが・・・・嫉妬もあったのでしょうかねえ?フランでは致し方ないところはありますが。私ですらもう少し若ければ・・・」

 「もう少し若くても親子どころか祖父と孫です。」
 「アラン、恋に年齢差など関係ありませんよ。3日で押し倒すと言った人物もいますしね。」
 「あれは・・・ジョークです。」
 「おやおや!ジャンヌから聞いた時はてっきり本気だと思いましたが・・・」
 「冗談だと言ってるでしょうが!」
クレマンは慌てるアランを見て微笑むと、それから静かに言った。

 「アラン、勇は必ず助けます。」
 「ボス!俺にさせてください!」
 「先程話したでしょう?こういうものは年の順ですよ、アラン。」
占い師は微笑んだ。