塔の鐘が鳴り響き、日没を告げた。
リオン・フランソワは4日目を生き残った。
 『今日で4日目、小童とはいえなかなかの力量。殺すには欲しい。利き腕をよこせ!それにてこの勝負、免じてやろう』
 「そなたが片翼よこすというならその願い聞き入れよう!」
リオン・フランソワは銀龍に返答した。
 『愚か者が!我が好意無にする気か。もはや止める術は有らず。無残に屍を晒すがいい!』
(ジャルジェ家覚書ヨリ)

 アランが不機嫌そうに電話を切ったのを見て、彼の同僚達は面白そうに顔を見合わせた。
 「どうした?アラン。優李お嬢様似のブロンド美人から今夜のデートのお断りか?」
シャロンが楽しそうに言った。
アランは彼を横目で見ると平然と答えた。
 「どこも似てないぜ。」
シャロンはそれを聞くと他の同僚達に声をかけた。

 「聞いたかみんな!今アランが攻勢かけてる例の美女は!優李お嬢様にはどこも似ていないそうだ!」
部屋にいた10名ほどの同僚は囃し立てた。
 「へえ、あのブロンドのクールビューティが?」
 「モデルのように、スレンダーで背も高い美女が?」
 「気も強そうなのに?」
 「それなのに似てないか!」
 「そういや毎度この手のタイプだよな、アラン?」
 「お前もいい加減にして素直にだな・・・・」

 「うるさい!おれはガキには一切興味なぞない!」 アランは彼らを怒鳴りつけた。
 「お前が初めて会った4年前はそうだろうが、今はどうだ?そしてあと3年もしたら・・・」
 「あと3年経とうとガキはガキだ!俺よりずっと年下のな!」
アランは同僚達一人一人をしっかりと睨みつけて言った。

 「分かった分かった!まあ、後で泣くのはお前だからな。それよりよかったじゃないか!断りの電話で。これでめでたく今日もまた夜までしっかり休日出勤で書類整理だ。」
シャロンは書類を見せながら言った。
 「誰が断りの電話だと言った?俺は夕方までに全部仕事を片付けて帰るからな!必ずな!」

 「なんだ、彼女じゃないのか?それでは誰からだったのだ?」
 「ディアンヌだ。」
 「日本で何かあったのか?」
ミシェルが不安げに尋ねた。
 「今、龍にケンカ売っている馬鹿がいないかどうか調べてくれだとさ。この4日ほど銀龍の影すらないらしい。」
皆顔を見合わせた。

 「またか?最近多いな。」
 「仕方ないさ、冬は日が沈むのが早いからな。」
 「それにしてもいい迷惑だな。なんだアラン、もう行くのか?」
立ち上がったアランにジュールが尋ねた。
 「ああ。とにかくすぐに調べて、もし日本人のガキだったら大至急連絡寄越せとの命令だ。」
アランは不機嫌に答えた。
 「命令?ディアンヌがお前にか。」
ジュールが不思議そうに尋ねた。
 「ジャンヌだ。」

 「それは・・・急いだ方がいい。急いで行って来い!」
 「もし誰かいたら・・・・そいつはきっと泣きじゃくっているぜ。頭を撫でて抱っこしてやらんとな、アラン。」
シャロンが面白そうに言った。
 「女ならな。場合に寄っちゃやってやらんでもない。」
アランは言った。

 「お前には気の毒だが・・・それは絶対ないぞ。」
 「分かっている。とにかく、これで夜の予定がつぶれたら・・・・」
 「たとえガキでも説教して蹴りの2・3発は入れてやれ。俺が許す。」
同僚の一人が言った言葉にアランは頷いた。
 「俺もそのつもりだ。」

 「ボスの子守にガキの面倒。アランお前、この仕事やめてもすぐに保育園へ再就職が出来るぜ?」
 「まったくだ。そうだ!もしボスがのこのこ現れたら・・・シャロン、子守りは頼むぜ。絶対、逃がすんじゃないぞ!」
アランは薄手のマフラーを首にかけ、ステンカラーのコートを着ると襟を立てながら言った。
シャロンは返事をした。
 「ああ、分かっている。椅子に括り付けて未決済の書類に目を通させて5枚は・・・・」
 「10枚だ、シャロン。最低10枚!でないとボスの子守りは勤まらないぜ。」
アランはそういい残し、部屋を出た。

 何か起こっていればいいのだが・・・
アランはセーヌ川沿いの国道を車を走らせながら考えた。
あれの最中は恐ろしく平和だからな。

ラ・デファンスのオフィスからベルサイユまでたいした混雑もなく、アランは30分程でジャルジェ邸へ到着した。
入り口で守衛に話を聞くがやはり異常はない。周囲に注意を向けるが龍達の気配はなかった。
屋敷に入ってみないと分からないが、これは最初の凶報だ。
アランは駐車場に車を止めると、警備室へ向かいながら龍たちの気配を探ったが・・・やはり皆無。
アランは一層不機嫌になった。
警備室へ行くと、そこにいた男達は彼の服装がスーツでないのを見て気の毒そうな顔をした。

 「またも休日出勤か?悪いがボスは来てないぜ。」
 「そうではない!いや、もしボスが来たら捕獲だけはしておいてくれ!引き取りに来るからな。」
 「その件は了解した。それにしてもお前等ホントによくやるぜ。俺は死んでもボスの直属だけはお断りだな。」
その男の言葉を聞いてアランは彼を一瞥した。

 「ボスにお前を推薦してやろう。」
 「ア、アラン!悪かった!本当に悪かった!だからそれだけは勘弁してくれ〜〜」
 「それよりどうした?ボスを探しに来たのではないとすると、もしかして・・・」
他の男が聞きかけたのを遮ってアランは尋ねた。
 「何か異常があったはずだ!小さな事でもいい!あっただろう!」
その言葉を聞いて彼等は顔を見あわせて、心底気の毒そうにアランを見た。

 「アラン、非常に言い難いのだが・・・何もない、まったく何もなくて異常なしで平和だ。」
 「・・・応急処置の準備もするか?アラン。」
アランは男達の言葉に苦虫を潰したような顔をして黙って頷いた。

一人が箱を持って来た。
それは取っ手の付いたピンクのプラスチック製で、側面には赤の十字を挟んでクマとウサギのシールが貼られていた。そしてその下には大きな字で “よいこのきゅうきゅうセット” そして小さく “ご注意:本製品は実際の怪我の処置には絶対に使用しないでください。対象年齢5歳〜”と書かれていており、箱には遠くから見てもはっきり分かるほど大きく・・・・

 「“アラン専用” 誰が書いた!何だこれは!」

アランの怒鳴り声を聞いて、箱を持ってきた男は肩をすくめた。
 「前の箱が壊れたから新しいのに替えた。分かると思うが・・・俺達ではないぞ。」
 「クレマン・・・あのくそじいい!」
 「心配するな。中身はちゃんとした物が入れてある。ボスではなくて俺が入れたからな、アラン。」
アランは怒りを押し殺して救急箱を受け取ると「呼ぶかもしれない、よろしく頼む。」と言い残し、一人中庭へ向かった。

彼は歩きながら腕時計を見て時間を確かめた。
10:48、決闘はまだ始まっていない。今なら中へ入れる時間だ。
そして、再度龍達の気配がないか探るがやはり皆無だった。

中庭へ着いた。 そこはいつもと寸分変わらぬ光景だった。一面の白いばらと葉の鮮やかな緑。花は今まさに開かんとする一番美しい状態。しかし花の開くことはない。花のきつい香りだけがむせ返るようにこの中庭だけを包む。

気を削ぐような光景に目を奪われないようにアランは空を見上げた。 どんよりとした鉛色で覆われて暖かさの微塵の感じられない空に現実を確認すると、ばら園の狭い通路を塞ぐように花を咲かせるばらを掻き分ける様にして、中央の古い井戸のある場所に向かってアランは進んだ。

アランは井戸の所まで来ると見回して扉を探した。 毎度の事だが揺れ動く扉は見つけ難い。

少し時間をかけて扉を見つけ出すとそれに左手を置く。問い掛けの為の特殊な単語を頭の中で組み合わせて唱えると、扉はキィと軋んで答えた。
そして聞く、お決まりの言葉。心の中で扉が開かないのを願いながら・・・・

 「愚者は何処」

彼の願いも空しく、扉は音もなく開いた。
アランは舌打ちした。

まったくいい迷惑だぜ。またしても身体の一部を失って泣き叫ぶ馬鹿の世話か?しかし今日が4日目なら、それは今ではなく夕方だ。多分今頃は、自分のしでかした行為を死ぬほど後悔しているだろう。

中に入るとすぐに崩れかけた回廊の端に人が座り込んでいるのが目に入った。アランは足早に近づいた。そこには黒い髪をした少年が、1メートルほどの長さの木の棒を抱えたまま大きな荷物に寄りかかるようにして眠っていた。すうすうと気持ちよさげに。

そしてその側にはランタン。それから食べかけの菓子とビニール袋が2つ、一つにはたくさんの菓子、もう一つは・・・どうやらゴミを入れる為らしい。それから飲みかけのペットボトルが2本。その横にトレーナーがきちんと畳まれていた。

この石畳の上は緩衝地帯で、外と同じ扱いだ。だから龍は手出しをしない。
だがここは龍の住処だ。奴らの気配をこれだけ感じるのに・・・何だ、こいつは?寝るか普通?
それに!何故菓子など持って来るのだ?それもこんなにたくさん。こいつアホか?

アランは呆れたように少年を見た。
顔立ちは日本人にしてははっきりしている。髪は黒く、束ねて後で縛っていた。わざわざ伸ばしているというより長くなり過ぎて仕方なくまとめている感じだ。 服装はデニムのパンツに長袖のTシャツ、それからスニーカー。日本でよく見かけるガキの格好。 13か14歳。アジア系の奴等は年齢不詳だからもう少し年がいっているかもしれない。それでも、どう考えても20歳は超えてはいまい。

そして、見たところ外傷は・・・かすり傷程度で、ほとんど無傷。4日目でこの状態というのはかなりの腕だ。 銀龍は、こいつに何を要求するだろう?
アランは考えた。

足か?腕か?目か?それとも?それなりの腕があれば、いくらガキでも指の2・3本では勘弁してはもらえまい。 日没には久々に救急車の手配がいるかもしれない。
そうなれば・・・・

アランは少年を睨みつけた。
やっとの思いで食事までこぎつけたのだぞ!今日こそは、口説き落とすつもりだったのに!

 「おい!起きな。坊や。」
アランは声を掛けた。
だが目を覚ます気配がない。

 「おい!起きろ!」
アランは少年の肩をゆすった。だが起きない。
アランは思い切り頭をはたいた。
 「起きろ!」

ようやく少年は目をしばたいて、それからアランを見て狐につままれたような顔をした。
こちらを見た黒い瞳が何故か・・・懐かしかった。
優しげで穏やかな瞳・・・だが、違う!違うのだ。こいつ本当は・・・
それから今度は優李の顔が少年の顔とダブった。 何故か酷く苛だたしげな気分になる。アランは理由の分らぬまま少年を見つめた。

少年は寝起きの為か、状況がよく飲み込めないらしく黙ってアランを見つめていた。
だが、挨拶くらいした方がいいと考えたのだろう。彼は立ち上がると、アランに向かってフランス語ではなく英語で言った。

 「おはようございます。あの・・・ご機嫌いかがですか?」
 「こんにちは、坊や。俺の気分は最悪だぜ。」
アランは不愉快そうに英語で答えた。

それを聞いて少年は慌てて腕時計を見て、それからほっとしたような顔をしてアランに、 「起こしてくれてありがとうございます。」 と言うと、アランが手に持っている箱に目を留めた。少年は暫くそれを見つめて、それからちらりとアランの顔を見た。

アランは決まり悪そうな顔をして心の中で悪態をついた。
クソ!急いでまともな入れ物を買ってこなければ!その前に何が何でもボスの奴に・・・
 「あの・・・・」 少年はアランに何か聞きたげに言った。

そうだ、それよりまずこちらを片付けなければ。
 「銀龍とやりあうのは千年早かったろう?坊や。」
少年はそれを聞くと不機嫌そうな顔をした。
 「早くはありません。おじさん。」
 「むかつく奴だな。まあいい。ケツの青いガキは一体どんな願い事を銀龍にしたのだ?女の子にモテますようにか?」
アランはケツの青いガキだけを日本語で言った。それを聞いて少年はアランを睨みつけた。

 「おれは龍とさしで勝負したいだけだ!」
 「ほう?それだけの為に決闘を申し込んだのか?まったくケツの青いガキは身の程知らずだな。」
 「何がケツの青いガキだ!見ず知らずのあんたに、あれこれ言われる筋合いはない!」
 「お前にはなくても、俺にはあるんでな。」
アランは少年を睨みつけた。

 「いいか、よく聞け!4日目が終わって、手足を失くしてピーピー泣き叫んでそこの門から外へ出てこられないようなガキを!ここから連れ出すのが俺の役目だ。それもクソ忙しい仕事の合間にだ。だから俺はお前のようなガキに!これがどれほど愚かな行為かを!叩き込まねばならん。お前のダチが腕試しやお前の敵討ちなど考えないように!お前がそいつらにしっかり話してやれるようにだ!分かったか?」
 「全然分からないな。」
少年は答えた。

 「ほお?そうか。どんなガキでも大抵分かるが、お前には分からんのか?そこまで馬鹿なら・・・・まあいい。夕方もう一度ここへ来る。その時には俺のいう事が分かるだろう。今日で最後の4日目だろう?せいぜいがんばりな。だが、今日は今までと違うぜ。最後だぞ、覚悟しておけよ。」
アランは、言うべきことを全て言うと扉に向かって歩き始めた。

 「最後じゃない!」

少年の声にアランは歩きながら答えた。
 「龍がこれから教えてくれるさ。言っておくが、下手な意地張るんじゃねえぞ。まあ、張れやしねえけどな。」
 「止める気など毛頭ない!」
 「死んだら元も子もないぞ。泣いたって誰も笑やしねえよ、相手が悪すぎるのさ。」

 「泣くつもりもない!意地を張るつもりもない!そして死ぬつもりはもっとない!腕が足が千切れようとかまやしない。身体失くして頭だけになったってそれで十分。1ヶ月生き残れれば、あとはどうでもいいんだ!」

アランは立ち止まって後を振り返った。
少年の黒い瞳には先程の怒りはもはや消えて、だが最初見た時の穏やかな優しげな様子もなかった。
そうだ、あれは見せかけだ。俺にはすぐに分かったのだ。

そしてアランは思い出した。
日本人にしてはえらく長身。大きな目に髪はくせ毛。 1ヶ月ほど前優李に会った時、臨時のガードについて彼女は何と言っていた?
アランはフッと笑った。

 「いくら惚れた女の為でも割が合わないぜ?今日で4日目。片目でも差し出して止めときな、アンドレ。」
 「止めるつもりなどない!それに4日目じゃない、今日で5日目だ!」
少年はアランを睨みつけて言った。

 「・・・・あと26日です。」 おれは言った。
 「あとですか?いいますね、それを言うならまだ!ですよ。まだ!26日もあると言うのです!」

占い師はめちゃくちゃ怒っていた。
そして少し離れた所に、おれを起こしてくれた黒い髪で揉み上げのある目つきの悪い奴がいて・・・こいつがあのアランだった。ジャンヌに拳銃なんか渡したバカヤロウだ。アランは “クレマンを怒らすなんて、俺はしらんぞ!”といった様子でおれを見ていた。

午前中は、このアランにイヤというほど罵倒されて ―こいつ絶対!おれに敵意がある!ケツの青いガキを連発して!なんでそれだけ日本語なんだ!それに!ピンクの救急箱!自分の名前まで書いて・・・変だぞ、こいつ。― 戦いが終わったら扉から出てくるように命令された。
それで、鐘が鳴り終って、5日ぶりに扉から出て来ると夏に会った占い師がそこに立っていて・・・・この有様だ。

 「勇、分かっているのですか!」
占い師の言葉におれは答えた。
 「おれ、どんな事があっても頑張ります。絶対です!」
 「絶対などありません。」
占い師は冷ややかに言った。
 「それでもです!どんな事があってもです。」
そうしなければダメだ。どんな事があっても!そう決めたのだ!

 「君は冴子のことを・・・君の母上の事を考えましたか?それから、亡くなられた君の父上は君に何か言いませんでしたか?言ったはずですよ。大切にしてくれと、自分の分までと!言ったのではありませんか?」
占い師は続けた。
 「フランはどうです?君が自分の為に命を落とそうとしているのを知ったらどうなると思いますか?フランは優しい子です。彼女が喜ぶとでも思っているのですか?」
 「大丈夫です。彼女は何も知りませんから。」

言った途端、彼の周囲を包んでいたものが膨らんだ。それが何なのかすぐに分かった。
怒りだ、周囲を圧倒するくらいの怒り。そしてその対象は・・・
油断した。防御の態勢は取ったが甘かった。怒りが直接頭の中に入り込む、凄まじい重圧。それと衝撃。
くそっ!頭の中を直に・・・殴りとばされた・・衝撃、まただ!

 「君の選択がどれほど残酷で取り返しがつかないか、君は分かっているのか!」

声・・・・気迫・・・追い・・討ち。
もっ・・と、遮・・断・・・
強く、遮断・・・
強く遮断して・・・気持ちを・・・態勢を整える。

まだ、少し・・・押さえつけられる感覚が残る。
ああそうだ、こいつの言う事は・・・あっている、正しい。
だけど・・・どうでもいい!
部外者のおれに出来るのは、これだけだ。
おれがオスカルにしてやれる事なんて他に何もないのだ。

 「大丈夫・・・です・・・彼女は・・・知りません・・・から。これはおれが・・・勝手にしてることで彼女は関係ないし。それに、臨時でガードやってただけですから・・・そんな奴のことなんかすぐに忘れます。」
そうだ、おれのことなんかすぐに忘れる。
きっと・・・・

 「それなのに命くれてやるのか?」
アランの冷たい声。お前なんかに・・・何が分かるんだ!

 「・・・この件について板倉はなんと言ったのですか?」
占い師はおれに聞いた。
 「板倉さんは関係ありません。」
 「・・・・昂では最後の誕生日、フランを護りきれない。ですか?」
 「・・・ジャンヌとの組み手とか見て分かりました。体術としての昂さんの腕はすごい。だけど・・・」

だから板倉さんに確かめた。
見てて分かったのに・・・確かめずにいられなかった。

 「誰も助ける事は出来ない。フランは死ぬ。板倉は君にそう言ったのですね?」
占い師の言葉に、おれは顔をそむけた。

 「お前は大馬鹿だ!!お前は板倉に・・・」
 「止めなさいアラン!昂ではフランを救えません。この決闘が終われば、167年前の約束を果たす為に銀龍は全力を出すでしょう。」
占い師はアランに苦く笑った。

 「おれ、どんな事があっても頑張ります!」
 「間違いなく死にます。あと26日耐えて死ぬならまだ救われます。過去何十人も銀龍に決闘を挑みました。しかし、最後まで生き残ったのは初代だけなのですよ。」
 「分かっています。それでもおれ、どんな事があっても頑張ります!絶対です。」
 「何故私の所へ来なかったのです。止められると思いましたか?それも板倉の指示ですか?」
 「おれが全部決めました。板倉さんにはどうやって決闘するのか方法について聞いただけです。先輩は関係ありません。」
占い師は大きくため息をついた。

 「君に記憶がないのを侮りました。200年も執念深く絵に取り付いていたのを熟考すべきでしたね!!まったくもって狂恋です!危ないにも程がある!正気の沙汰でではありません!まさしく狂気!まったく君は!」
またしても彼を取り巻くものが膨れ上がる。
そうだ、こんなの正気じゃないことくらい分かってる。
でもいい!おれ、どうなったってかまやしない!
オスカルさえ助かればそれでいい!

もう一度頭の中を殴られるのを覚悟して遮断したが・・・何も起こらなかった。
いつの間にか怒りの気配も消えている。
無表情だった占い師は、おれに向かって微笑んだ。

 「でも!それもまた素敵ですよ、勇。」
 「ボス!何を言っているのですか!!それにまた訳の分からん事を!」
 「いいのですよアラン。君にもあとできちんと説明してあげますからね。」

占い師はアランにそう言うとおれを見て一瞬悲しげ笑った。でもすぐに真剣な表情に変わると言った。
 「勇、まだ26日もあります。ですが!何があってもどんな事になっても生き残っていただきます! 死ぬのは許しません。たとえ腕も足も身体のほとんどを失おうと生き残っていただきます!覚えておきなさい!君が死ぬのなど絶対に許されないのですよ。」

ラ・デファンス
高層ビルが立ち並ぶパリの副都心。道路や鉄道などの交通機関が全て地下にある。 ブローニュの森の北側に位置する。