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「腹膜炎ってことは・・・お袋さんは向こうで入院しているのか?つまり今は・・・・」
坂本は高橋に尋ねた。
「そうだ、勇は今フランスだ。」
「タイミングの悪い!で、いつまで向こうにいると?」
坂本は額を押さえながら聞いた。
「3日前に手術したばかりだそうだ。昨夜の電話からすると、勇本人にもまだよく分からない様子だった。」
「確か勇は・・・親一人子一人だったな?」
「だから話さなかった。無理は言えん。」
高橋はポケットから煙草と使い捨てライターを取り出して、煙草をくわえると火をつけた。
「そうすると・・・やはり、我慢・忍耐・辛抱か!だがな、あのジャンヌですら凄まじく耐え忍んでいるが一体いつまで持つやらだぞ?それからこちらもだ。あの変態、骨の折れる音を聞くのが何よりも楽しいらしいからな。」
坂本は包帯の巻かれた左腕を上げて苛立たしげに言った。
「本部には交代要員を新たに5名頼んできた。家部(いえべ)本部長には嫌味を山のように言われたがな。」
「将軍閣下にか!」
「将軍閣下?」
「知らないのか?あのふさふさした変てこりんな口髭が偉そうだろう?」
坂本の言葉に高橋は思わず頷いた。
「高橋、将軍閣下はまずいぞ!警備部統括本部長自らなんて!どうするのだ?千秋(ちあき)君、板倉は何と?」
坂本は聞いた。
「“もう少しの辛抱だ。それまでなんとか我慢しろ”と。」
「なんともならんぞ!」
坂本は叫んだ。
「心配するな、交代要員はいくらでも補充出来るようになった。」
「どういうことだ?」
坂本は怪訝そうに高橋を見つめた。
「警備部と調査部の権力争いの余波だ。前任者のガードが優李に手を出しかけて首になった時、相当揉めだろう?」
「警備部からではなく調査部から龍のガードを入れるとか入れないとかいうやつか。でもあれは決着がついたのだろう?」
「だが千秋君には後がなくなった。これでしくじったら後継者争いから脱落する。」
「そして調査部の連中が押すもう一人のお坊ちゃまが板倉の家を継ぐか?どうせ俺には関係ないさ。」
「そうとも言えん。例の組織用に来ている妖魔対応のガードがどこからか知っているか?」
坂本は怪訝そうに高橋を見た。
「うちの、警備部の法人1課からだろう?まさか・・・調査部?でもあそこは正真正銘、とんでもなく危ない化け物専門だぞ。そりゃまあ、相手は龍だから相応しいといえばその通りだが、警備部から派遣させられた龍のガードであのざまだ。奴らにガードなどさせられるか!そんなことになったら俺達全員過労死するぞ。」
「だが、警備部から出した龍のガードは全滅だ。だからこれ以上失態が続くようなら調査部がここを仕切る事で話が進んでいるそうだ。」
その言葉に坂本はぶるっと身震いした。
「つまり何か?今回変態を抑えられなかったら、将軍閣下が俺達に龍のガードの責任も押し付けて・・・全員左遷か?」
「それだけでは済まない、警備も調査部担当になるそうだ。“警備部の威信をかけて!どんな事があっても死守せよ!調査部には絶対につけ込まれるな。もし奪取されたら・・・分かっているな!”家部部長の自らのありがたいお言葉だ。」
「ダメなら俺達全員首か?ええい!千秋君自身はどうなのだ?」
「2・3日ならばな。だが21日間だ、無理だろう。」
「部下より我が身が大事か。あの臆病者が!では昂君は?やはり駄目か?」
「優李の今の状態では無理だ。点滴はしなくてよくなったが相変わらずほとんど食べない。1ヶ月も昂君がガードなどしたら、それこそ龍の思う壺だ。」
「でもな、1週間くらいならどうだ?」
「彼が4日前からインカレの為の合宿で今月いっぱい戻らないのが幸いしているのだぞ、もしこれが知れたらどうなると思う?」
坂本は考え込んだ。
「・・・・変態を殴り殺して自分がずっとガードすると宣言するな。それじゃアランは?ディアンヌの兄貴の?」
「最悪の場合彼が来るだろう。でもそれは、調査部が俺達の代わりに来てそれでもダメな場合だ。」
彼は吸殻で一杯の灰皿の縁の部分で煙草の火を消すと、吸殻をその中に積み上げた。
「となると残る道は1つだけ。あと21日間、何十人も怪我人出して辛抱しろと?」
坂本は高橋に言った。
「うちから派遣された龍のガードの依願退職組を使う。変態を急病にしてな。」
それを聞いて坂本は考え込んだ。
「・・・難しいぞ、千秋君が絶対許可しないだろう。彼は自分の信頼を裏切った人間は絶対使わない。」
「千秋君を通さず家部部長に直接打診して内諾を取った。上は何としてでも部長に抑えてもらう。西村、吉岡、内藤の3名には話をつけた。」
自分を見つめる坂本に高橋は頷いた。
「例の組織の件がある、調査部よりこちらに付け込まれる方が厄介だ。・・・今の状況はどうなっている?」
「今日はまだ怪我人は出ていない、優李も無事だ。加藤、と応援の4名、内村・山崎・松井・鈴木の計5名が優李に付いている。あと残りの応援の3名は家の見張り。それから例の組織用の対魔の連中はいつもと変わらずだ。」
高橋はポケットから煙草を取り出して火をつけた。
「一つ朗報がある。例の組織だが実行者が上層部と連絡を取った。」
「それでは、実行者の潜伏先も?」
「まだそこまでは分かっていない。だが、11名も日本に潜伏だ。資金繰りの問題が出て来たらしい。」
「長引けば長引くほど向こうにも焦りが出て、その分計画はずさんになるな。」
「ああ。」
「では調査部の連中は当分、番犬として居座り続ける訳だな。」
嫌そうに坂本は言った。
「そう言ってやるな。彼らも好きでここにいるのではない。どうした?彼らと揉めたのか。」
「いいや。だがな!暇だ暇だとうるさくて!化け物相手に好き勝手にやっている連中には苦痛だろうが!俺らの身にもなってくれ、だ!こちらはそれどころではないのにだぞ。」
坂本はイライラして答えた。
「分かった。後で彼らの愚痴を聞いてこよう。」
高橋は苦笑して答えた。
「・・・・・・なあ、高橋。」
「なんだ。」
「奴らを優李の警備に回したら・・・楽だろうな。」
坂本の言葉に高橋は思わず彼の顔をまじまじと見つめた。
「毒を持って毒を制す!奴らならきっといい勝負になると思うのだが?・・・・いや、勿論冗談だぞ。」
高橋は深く頷いた。
「21日後、変態が辞めてからなら・・・それなら俺も止めはしない。」
高橋は答えた。
「まったく“スゲーむかつくぜ!”だ!」
「加藤と同じ口の聞き方などするな。そういえば・・・少しは大人しくなったか?」
「加藤でなくとも誰だって切れたくなるさ。」
坂本は投げやりに言った。
「お前にそれをされると困る。」
坂本は押し黙った。
高橋は煙草の火を消して、またしてもポケットから煙草を取り出してくわえると火をつけた。
「あと21日、お前以外は持たない気がするぞ。」
暫くして坂本は口を開いた。高橋は吸い込んだ煙を吐き出した。
「・・・優李が我慢をしている。」
それを聞いて坂本は溜息をついた。
「おい!1本くれ。」
高橋は坂本に煙草を差し出した。
坂本は箱から1本とってくわえると机の上にあったライターで火をつけた。
それから煙をまるで溜息でもつくかのように吐き出した。
「なあ。これが普通だったよな?」
高橋は坂本を見た。
「多分な。ここまで酷くはないが。」
坂本は高橋を驚いたように見つめた。それから苦笑すると
「この4ヶ月で前の記憶が飛んじまったのは俺だけではなかったのだな。」
と言った。
「石塚も田口もそうらしい。」 高橋が答えた。
「情けないなあ・・・」
ぽつりと坂本は呟くと、手に持った煙草の煙が立ち昇って消えてゆくのを黙って見つめた。
「部屋中煙っているな。これでは吸っている煙草の煙すらよく見えない。」
高橋は立ち上がった。
「窓を開けるぞ。少し寒いが我慢してくれ。」
「ああ。」
「高橋・・・」
部屋の窓を開けながら高橋は返事をした。
「何だ?」
「俺がここへ来たのは、ジャルジェ家から出る特別手当が目当てだ。最低1年務め上げればマンションのローンが繰り上げ返済出来るだけの金が手に入るからだ。その為には多少の危険も、ろくでもない姫君も我慢出来ると思っていた。」
「ろくでもない姫君か?」
高橋は椅子に座りながら苦く笑った。
「ああ、ろくでもない姫君だ。ガードなど替えのきく消耗品程度の存在で、人を人とも思っていないどうしようもない姫君だ。酷いものだ!俺は・・・情けない。」
「坂本・・・」
「1年で辞めさせようとするのも特別手当も優李なのだろう?考えてみりゃすぐ分かる事なのに・・・ジャルジェ家は会社と契約している。それなのに現場の人間にそこまで気使いする理由がない、違うか?」
坂本は目を伏せた。
「ああ、そうらしい。」
それから高橋は坂本に少し微笑んだ。
「優李がワザとそう見せている。なかなか分からないさ。」
「勇が来るまで見抜けなかった自分が腹立たしいのだ!その上、優李は姫君どころか騎士だったのに。」
それを聞いて高橋は苦笑した。
「騎士か。確かにそうかもしれん。」
「騎士は、愛馬と共に死を恐れず勇敢に龍と戦う。必要なのは剣と馬のみ。戦うのが騎士の生き様だ。」
「それが騎士の存在価値か。」
高橋はぽつりと言った。
「ああ、そうだ。だから・・・ええい、くそっ!」
「どうした?」
「本当に優李は助かるのか?これは・・・間違いないのか?」
坂本は心配そうに尋ねた。
坂本の言葉に高橋はため息をついた。
「俺はそう聞いている。彼女は特別だから大丈夫だとな。」
「何が特別だって?」
坂本が口を開こうとしたその時、2人しかいないはずの部屋から突然声がした。
二人は驚いて声のするほうを見ると、そこには3人の男達が立っていた。
「お前らいつの間に・・・」
信じられない面持ちで坂本は言った。
「オレ等の専門は妖魔だぜ。気配を消すくらい簡単さ。」
男達の一人が答えた。
「流石は調査部!人離れしたその才能。さてはお前ら・・・わが社最強の対妖魔のスペシャリスト集団、企画立案課!それも1課の所属だろう?」
坂本は嫌味を言った。
「よく分かったな坂本!おいどうした?変態に折られた腕が痛むのか?」
「お前ら・・・本当に企画立案1課だったのか!高橋〜もうだめだ!こんな奴ら力を揮わせたら・・・あたり一面焼け野原が広がるぞ!いや!それどころか血の海だ!!2年前の四谷の件!聞いているだろう!こいつらの所為で死者1000名を出したのだぞ!」
「坂本、桁が違っているぞ?流石にそこまでやるとオレ等でも、ちいっとまずいからな。」
平然と一人の男が答えた。
「何が桁が違うだ!!高橋〜ああ!もう俺達の首は決まった!!!」
「多少の被害は仕方あるまい。だが心配するな。今回は出来るだけ大人しくするように言われている。出来るだけだがな。」
「出来るだけというのはどのくらいだ!え?」
「それより!男二人で何を話していた?女の話か?え?」
「お前らには関係のない話だ。さっさと持ち場に戻れ!しっしっ!」
「犬扱いか?酷いねー。」
「高橋〜隠さないで教えろ!もう退屈で、退屈で・・・何でもいい、面白くない話でもいいぞ!彼女は特別って何だ?教えないと・・・暴れるぞ!」
高橋は少し困ったような様子をしたが 「優李の・・・20歳の誕生日の件だ。どうなるのかと思ってな。」 と正直に答えた。
それを聞いて3人はそんなことか!というような顔をした。
「どうせ助かるさ。彼女は特別だからな。」
「そりゃ分かっている。だがな、変だろう?俺でも分かるくらい銀龍の攻撃がだんだん酷くなってきているし、考えれば考えるほど何かおかしな気がして・・・」
坂本は言った。
「では一つ面白い話を聞かせよう。」
「何だ、それは?」
「何故彼女の名前がオスカル・フランソワなのか、知っているか?」
「ご先祖に勇敢な女性がいて、それにあやかってつけた。そのくらい知っている。」
「それは表向き。本当の理由は別にある。」
「ほお・・・それはなんだ?大層な理由があるのか?え?」
「聞かせてやるからオレ等をお嬢様の警備のガードに回せ。変態はしっかり押さえ込んでやるぜ。」
「本当か!」
「坂本!」
高橋はたしなめる様な口調で言った。
「・・・・わかっている。」
坂本は渋々返事をした。
高橋は3人の方を向くと言った。
「それより朗報だ。近々奴らが動き出す恐れがある。」
高橋の言葉に彼らは嬉しそうに声を上げた。
「やっと退屈から開放されるか!」
「ああ。だからこれ以上厄介ごとを増やさないでくれ!」
「分かった、分かった。変態がオレ等に手を出さん限り安心しろ。」
「出しても我慢してくれ。」
「それはちょっとな・・・」
「それよりさっきの続きはどうなのだ。退屈もしなくなりそうだし、けちけちせずに話せ!」
坂本は言った。
「そこまで聞きたいなら話してやるが、真偽は定かではないからな。外へは漏らすなよ。オレらのような仕事をして多少なりともジャルジェ家に、龍に関わりのある連中なら大抵知っている噂話だ。」
彼らの一人は言った。
「噂か、まあいい!で、どんな面白い話なのだ?」
「今から250年程昔の話だ。当時のジャルジェ家の当主には男子の嫡子がおらず、この当主はとうとう自分の末娘を男として育て、後を継がせる事にした。名前までオスカル・フランソワという男名にして。」
「何だそれは?そいつはどこかおかしかったのか?」
「まあ聞け。とにかく彼女は父親の期待にこたえて近衛連隊長の地位にまで上りつめたんだが・・・結局父親の思い通りには行かなかった。」
「当然だな。馬鹿な事をするからだ!」
「坂本!まったくお前は一々煩い奴だな。黙って聞け!おりしもフランス革命の前夜、激動の時代だ。何があったのかは分からんが、結局彼女は地位も名誉も財産も総て捨てる。そして1789年7月14日にフランス衛兵隊の指揮を取り、民衆と共にバスティーユを襲撃した。有名なフランス革命の発端というやつさ。そして彼女はその戦闘中に戦死した。確か享年33歳。そして父親は腹を立てて娘の痕跡を片っ端から消して回った。だから記録では彼女は存在しない人間になっている。」
「それが面白い噂か?俺はムカついたぞ。いくら噂でも、同じ人の親として許せんものがある!」
坂本は不機嫌に言った。
「怒るな、それにこれは噂ではなくて実話だ。問題はここからだ。」
「・・・酷い話だな。」
高橋が呟いた。
「まあな。女を男として捻じ曲げて育てた挙句だからな。龍達もそう思ったらしい。」
「なら助けてやればよかったのに!」
坂本が呆れたように言った。
「彼らは家を護るものだ。だがもし初代の血を引く力を持つ者が願った場合は・・・・その願いが彼らの心を動かすものであるならその願いは叶えられる。残念な事に彼女には力がなかったから何も願えなかったし、龍達も助けられなかった。」
「うまくいかないものだな。それにしても・・・そんな女性に因んで名づけなくともいいのになあ。そりゃ意思の強かったのは分かるが・・・・」
「因んでではない。本人だからだ。」
彼らを暫く見つめてから坂本は言った。
「お前ら、何を言っているのだ。それでは・・・・・・・・」
坂本はそこまで言って絶句した。
「そう、転生だ。だから17年前彼女が生まれた時に龍達は言った。 “ジャルジェ家最強の娘オスカル・フランソワの生まれ変わりで、今度はジャルジェ家初代リオン・フランソワの力も受け継いでいる” とな。最強の娘だぞ?つまりそれは、167年前の約束には縛られない。」
「そうなるのか?」
「龍は助ける必要のない、したたかな娘は覚悟を試して殺さない。そして、浮世では生きられない繊細な娘は、助けなければならないから全力で殺す。つまり最強の娘なら、助ける必要がないから覚悟を試して殺さないだろう?助けなければならないから必ず殺すではないだろう?」
「それは分かっているが・・・・・・」
高橋が言いかけたのを坂本が遮って先に言った。
「納得いかない!俺は1年程度しかここにはいないが、試すだけならあそこまでの攻撃は必要ないはずだ!」
「それに2年ぐらい前から急に攻撃の力が増した。」
高橋も言った。
「鍛えるつもりじゃないか?このままいくとジャルジェ家の財産も権力もすべて彼女のものだ。あの家を継ぐのは、欧州で絶大な力・・・表も裏もだ、それをまとめ上げて総てを支配する力を得るのだぞ。男だって並の神経ではあそこの当主は務まらないぜ?」
「相続放棄という手もある。」
「どうかな?リオン・フランソワの力も受け継いでいるからなあ。」
「どういう意味だ?」
「力は血によって受け継がれるのさ。だから、たとえ相続権を放棄したとしてもハイエナどもが放って置かないということさ。何とか利用しようとして酷い事態になるのがおちだ。それならば全部継いでしまったほうが間違いないだろう。その為には何が必要だ?」
「では何か?立ち向かえるように鍛えているとでも?」
「そこまではオレ等にも分からんさ。あくまで噂話だからな。」
「では、結局分からないではないか!いい加減な事を!」
坂本は言った。
「だが考えてもみろ。今まで相続がらみでどれだけ誘拐とか暗殺とかされかかっているのだ?それもほとんどが彼女の身内によるものだ。つまりだ、なんとかしなければジャルジェ家の財産も権力もすべて彼女の手に渡るからではないのか?絶対助かる確信があるとしか考えられないだろう。」
「それは確かにそうだが・・・・」
坂本は考え込んだ。
「そして20歳の誕生日を過ぎれば・・・今度は龍が彼女を護る。彼女はジャルジェ家を継ぐ者、家を護る者となるからな。」
「若しくは龍に願う事も出来る、あらゆる物から自分を護ってくれるように。彼女の望みのままにな。」
「それが真実だとしても・・・あと3年、優李はこの状態を耐えねばならないのに変わりはない。」
「しかし最後のガードはそれほど厄介ではなくなる。必ず殺すでなく覚悟を試すだ。彼女の兄だったか?彼の腕ならまず問題はないだろう、必ず殺すではないのだからな。それに彼女の剣の練習を見て分かったが、あれだけの腕なら一人で戦っても十分過ぎるくらいだろう?それを龍が許すかどうかは分からんが。」
「優李の腕はそんなにすごいのか?」
「ああ、うちへスカウトしたいくらいだぞ。」
「ならば・・・もしその話が本当なら、勇が最後のガードをしても?それでも大丈夫だろうか?」
坂本はあっけに取られて高橋を見た。
「高橋お前・・・何を言い出すかと思えば・・・」
「教えてくれ、覚悟を試すなら彼でも最後のガードが勤まるのか?」
高橋の言葉に3人は顔を見合わせた。
「勇ってのは背の高い・・・千秋君の後輩で、誕生日まで臨時でガードしていた奴だな?」
「そうだ。やはり勇の力では無理か?」
「まさか!あいつなら必ず殺すの条件でもなんとかなるかもしれん、かな?」
「なんだ?その最後の“かな?”というのは!それじゃまるで勇が信じられんような力でも持っているかもしれないが・・・やはり分からない、つまり?やはり力はないということか!お前ら、そんな回りくどい言い方をしなくてもはっきり力が無いと言えば・・・」
「そうではなくて!千秋君の後輩については今一つよく分からんのだ。あそこまできれいに隠されるとな。だが逆を返せばきれいに隠せるだけのしっかりとした力がある、分かるか?それに、うちの課長が喉から手が出るほど欲しがっているのだぞ。自分の相方にな。」
高橋と坂本は顔を見合わせて、それから3人を見た。
「課長って・・・企画立案1課長の・・・あの木戸さんが!何でまた勇なんか・・・」
「だから、それだけの力があると言っているだろう?」
「でも!それなら何故?何か問題があって使えないのか?」
「さあな、それは警備部の問題だろう?千秋君があれほど啖呵切ったのに、何故ガードを続けさせないかオレ等だって不思議さ。」
「おい!止めとけ。それは・・・」
3人の一人が慌てて止めた。
「どういうことだ。千秋君が何をした?」
高橋が尋ねた言葉に、3人は気まずそうに押し黙った。
「・・・それは調査部の秘密か?ここまで話しておいて!」
坂本は彼らに冷ややかに言った。
「それもそうだな。それでは・・・」
「駄目だ!この話は・・・」
「どうせ遅かれ早かれ知れるだろう?あの変態がガードだぞ?千秋君は後がないぜ。」
その言葉に反対していた男は黙った。
「よし!そうと決まれば早く話せ!」
「坂本、本当にお前はせっかちだな。まあいい。それでは、まず最初に・・・何故オレ等調査部がここに来たか?それは知っているな。」
「醜い権力争い、若しくは板倉の後継者争い。」
坂本が答えた。
「その通り。では昨年の3月の取締役会で次に板倉から龍のガードを出す場合には・・・警備部からではなく調査部からで決定していたのは?」
二人は顔を見合わせた。
「それは初耳だ。だがそうならなかったのは・・・」
高橋は考え込みながら続けた。
「つまり、勇が臨時のガードをするということで覆ったということなのか?」
「千秋君は、“臨時のガードは大木勇にさせます。彼の腕は調査部の方がよくご存知ですね。ご心配なく!”そう言って取締役の連中全員を納得させた。」
「ちょっと待て!お前らが何でそんな話を知っている?調査部は現場の人間にもそこまで話すのか?」
「確かにこれはオレ等が知るべき話ではない。だが今回は特別だ。何故なら臨時のガードは俺等3人の内の誰かがする予定だったのさ。」
「打診が来たから間違いない。納得したか?」
「・・・勇が・・・信じられん。」
坂本は言った。
高橋は返事もせずに何か考え込んでいた。
またしても坂本が口を開いた。
「やはり信じられん!勇は・・・怪我もよくしていたし、俺が見ても明らかに力なんて無かったぞ。やっとこさ頑張って戦っている感じで・・・・」
「それは少しでも寄せないようにする為だろうな。」
3人のうちの一人が答えた。
「何を寄せないようにだ?」
突然ドアが開いて田口が転がるように部屋に飛び込んできた。
高橋は煙草の火を消しながら急いで立ち上がった。
「か、か、か、か、か、か、か・・・」
「落ち着け!田口。何があった。」
「か、加藤が・・・・」
「あの馬鹿!変態は無事か?」
坂本が叫んだ。
「ま、まだ・・ぶ、無事です。ち、違うんです。そそそうじゃなくて!い、いやその・・チ、チビです。」
2人は顔を見合わせた。
「田口、まず落ち着け。加藤がどうした?チビがどうした?」
「と、とにかく!玄関です。今、い石塚が止めています。と、とにかく来てください!」
「悪いがその話、後でもう少し詳しく聞かせてくれ。」
高橋は彼らにそういうと急いで部屋を出た。
坂本も続いて 「お前らは来なくていいぞ!」 と言いながら後を追う。
「面白い事がありそうなのにそれはないだろう!」
彼らも一斉に部屋を飛び出した。
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