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「オスカル、短い間だったけれど色々ありがとう。勉強とかも教えてもらって、おれすごく助かった。それから・・・何も出来なくて・・・本当にごめん。」
分かっていた。だけどもしかしたらって思ってた。
微かな期待。でも、オスカルはおれを見ない。
「おれ、おまえに会えてよかった。おれ・・・」
このままずっと一緒にいたかった。
ずっとそばに・・・いたかった。
「本当にありがとう。あの・・・」
オスカルは何もいわず、背を向けて本を読んだまま。
「・・・・さよなら、オスカル。」
おれは、オスカルから離れて扉の方へ歩いた。そして扉の脇に1日遅れのプレゼントを置いた。
もう一度オスカルの後姿を見つめる。
最後にもう一度だけ、声が聞きたかった。
オスカルの声が・・・・・
おれはそのままドアを開けて外へ出た。
「色々ありがとうございました。」
おれはそう言うと頭を下げた。
「こちらこそ!ありがとう、勇。いつでも遊びに来て頂戴ね。」
「ありがとうございます。マリアさん。」
「勇兄ちゃん、またね。」 「もう来なくていいよ。」 「勇君!こんなシスコンの言う事気にしなくていいからいつでもいらっしゃい。」
おれは返事をする代わりに笑って頷いた。
それから、昂さんと目があった。
「勇、色々言ったが・・・感謝している。ありがとう。」
彼はまっすぐにおれを見て言った。
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。」
おれは本当に言いたかった事を飲み込んで、頭を下げた。
言わなくてもこの人はするのだ。
そうするつもりなのだ。
だって!この人だけが・・・オスカルを護れるのだから。
おれが前を通ると、いつものようにチビが吼えた。
おれは足を止めてチビに近づいた。
チビはいつものように首を傾げておれを見た。
おれが手を出すと、チビはペロペロと手を舐めた。
警備の詰め所へ行くと高橋さんと坂本さんしかいなかった。
「石塚には会ったか?」
坂本さんは言った。
「ええ、さっき。ジャンヌと一緒だったから挨拶して来ました。」
「そうか、それと加藤から伝言だ。“きれいなおねーさんのいる彼女が出来たら、是非俺をよろしく!”だそうだ。」
坂本さんは面白そうに言った。
「それはこっちの台詞じゃないですか!加藤さんに言っといてください。“かわいい妹がいる彼女が出来たら是非おれをよろしく!”と!」
「分かった。加藤に伝えるが・・・あいつじゃ無理だぞ。」
坂本さんは期待するなという様子でおれに言った。
「とにかく!元気でやれよ。さ来年は受験だろう?彼女よりそっち優先にしろよ!それからいつでも遊びに来い!待っているからな。」
「ありがとうございます。」
「勇、お前は今までで最高のガードだった。」
ずっと黙っていた高橋さんはおれに言った。
おれは高橋さんを見た。
「千秋(ちあき)君が中で待っているよ。」
高橋さんはそう言って微笑んだ。
ドアをノックして部屋の中へ入ると、板倉さんは書類から目を離しておれを見て満足げに笑った。
「勇、4ヶ月間よくやってくれた。本当にありがとう。」
「いえ、おれは・・・・・何もできませんでした。」
オスカルががんばったのだ。
おれは何もしてやれなかった。
結局おれは・・・・何も出来なかったのだ。
だから、聞かなくちゃいけない!いや、聞いた所で・・・どうにもならないのは分かっている。
それでも・・・聞かなくちゃいけない。
「勇、お前は本当によくやってくれたよ。そうだ、残りのバイト料は明日には全額振り込まれる。それとムシューからボーナスが出ているぞ。金額見て驚くなよ。そうだ、明後日空いているか?昼食を一緒にしよう。勿論ぼくのおごりだ。お前何が食べたい?」
どうでもいいんだ、そんな事は!
「板倉さん、どうしても教えて欲しい事があります。」
多分、逆に思い知らされるだけだろう。それでも・・・・
「どうした?」
聞かなくちゃいけない!でないと前へ進めない。
「最後のガード、昂さんは・・・・・オスカルを護りきれますか?」
板倉さんは少し驚いたようにおれの顔を見つめた。
「なんだ突然、そんな事を聞いて・・・・」
「絶対護りきれるのですか!」
板倉さんは小さく溜息をついた。
「この前話したろう?一人では駄目だが二人でならと。」
「ですから!危険だけど何とかなるのか、それとも・・・・・」
おれはそれ以上続けられず俯いた。
「心配するな、昂を信じろ。彼は優李の為ならどんな事でもする。」
板倉さんの優しい声。
「ですけど!おれ、昂さんにどれ位力があるか分からないし・・・」
板倉さんはおれを見つめると苦笑して言った。
「昂の実力が分からないのか?分かったよ、勇。教えてやるから・・・そこへ座れ。」
おれは黙って頷くと椅子に座った。
板倉さんは話してくれた。
おれの質問に何もかも全部・・・
分かっていた。
・・・見てて分かっていたのに!それなのに確かめずにはいられなかった・・・・
馬鹿だ、おれは。
おれは、部外者だ。
部外者に出来る事は一つだけ。
おれの出来る事は、やはりそれしかないのだ。
「お前は友人として優李を助けてやる事が出来るだろう?」
板倉さんは言う。
だけどおれには無理、もう・・・だめだ。
結局そういうことなのだ。
今日からまた今まで通り、元の生活に戻る。
そう、それがいい。
それが一番なのだ。考えたってどうしようもないのだ!
おれ、分かってる。
ちゃんと分かってる!
オスカルは・・・昂さんが好きなのだ。
どんなに頑張ったって・・・おれには最後のガードは出来ないのだ。
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