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「ワザと出血しやすい所を狙ったな。」
高橋さんは言った。
「銀龍はよく分かっているから。」
部屋へ入って来たジャンヌは、高橋さんに苦く笑った。
一体何のことだろう?
「銀龍が何を?」
「視覚的な効果を狙った。」 高橋さんは言った。
「ここ4日ほど深夜ではなく明るいうちにしか来ないしね。よく分かるようにね。」 ジャンヌも言った。
「視覚的な効果?よく分かるように?それは一体・・・・」
「痛いところを突いてくるって事!それより傷は深いの?」
ジャンヌはそういうとおれの左瞼の傷を見た。
「全然平気。どうって事ないよ。それより・・・」
「そうね、これなら大丈夫。瞼の上って出血しやすいから。」
「ああ、おかげで服は血だらけだよ、まったく!それでジャンヌ・・・・オスカルは・・・」
「大丈夫よ、ちょっと貧血起こしただけ。最近余り食べてないから。今栄養剤とか薬とか飲まされて、昂に説教されている。」
ジャンヌは笑った。
そうか、よかった・・・
「とにかく、あと1日。もう少しよ!今年のノエルは彼女と過ごす事は出来なくて寂しいだろうけど・・・・・」
「彼女いない歴半年、ただ今募集中。」
「そうだったの・・・いたの彼女。ああ、でもフラレたのね。」
「フッたのかもよ?なあ勇。・・・・えーと・・・図星か?」
「もう触れないでくださいよ、石塚さん〜」
「勇、気をつけろよ。半年以上空くとまずいぞ。そうするとつきが落ちて1年そして2年と長くなるんだ。」
「坂本さん!マジですかそれ?」
「その驚きよう!お前、半年以上空いた事ないな?くそー!この際だ、3年ぐらい空いてしまえ!」
「おれは加藤さんと一緒はごめんです!どうしよう?速攻で見つけないと!」
「つまりこれが終わったら最初に彼女だな。どんなのがタイプだ?」
「それは・・・えーと・・・優しい子だったらそれで十分。贅沢は言いません!」
「何だ、えらく控えめじゃないか。お前ならそこそこかわいい子が捕まえられるだろう?」
「でも高望みしていたらできませんよ。分相応です。」
「それはそうだ。だが、かわいい子に越した事はないだろう?」
「そりゃそうですけど・・・・」
「あ、有紗みたいな子は・・・ど、どうだ?」
「それはもう!最高ですけど・・・年上だし、いくらなんでも本当に高望みでしょ。」
「いけるかもよ。お前そんなに悪くないぞ。」
「ほんとですか!」
「でも有紗は無理だろう?昂を見慣れているからな。彼を基準にされるとキツイよな。というより無謀か。」
「昂と張り合うのはな。でも血の繋がった弟というのは救いだな。勇?どうかしたか。なんか痛そうだぞ。」
「・・・ぐさぐさっと胸に刺さりましたよ。期待させといて!酷いじゃないですか!」
「いいじゃないか、所詮弟だ。あいつと女取り合うわけじゃない。取り合うなら話は別だぞ。万が一の勝ち目もないがな。」
「万が一どころかそれ以前の問題だ。」
「そう考えると有紗はやっぱ無理でしょう。あれ、勇?勇?」
「・・・・・」
「お前、マジで落ち込んでないか?」
「なんだ!本当に有紗の事が好きだったのか!」
「・・・・・・・・」
「高橋さん、年長者!ここは一つフォローを。高橋さん!」
「あっ?ああ。そうだなあ、それでは・・・“蓼食う虫も好き好き”ということわざがある。 蓼のようにまずい草を好んで食べる虫もいる。だから人の好みは様々で、どんなにどうしようのない奴でもいいという人間もいるから・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「高橋さん、ダメですってそれじゃ!」
「えっ?そうか。・・・それでは・・・・」
「だめね高橋!それじゃ効果はない。こうやるのよ!勇いい?よーく!聞きなさい。有紗なんて絶対に無理!不可能よ!そこら辺にコロコロっと転がってる子、あんたに似合うのはその程度よ! 」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「勇!おーい!浮上しろ!おーい!勇!・・・・ダメだ。深海の底まで落ちた。」
「それじゃ、あたしはもう一度優李を見てくるから。ああ勇!人間諦めが肝心よ!」
「ジャンヌ・・・・・・容赦なし。」
明日1日で終わりだ。
そして、オスカルとはもう会えなくなる。
きっと2度と・・・・
オスカルのベッドの方を見る。
多分今も眠ってなんかいない。
オスカルは、こんな事をあと3年も続けなければならないのだ。
もっと攻撃が酷くなって・・・そして、もしかしたら・・・・死
身体中が悲鳴を上げる。
そんなのだめだ!絶対に!絶対に・・・嫌だ!
畜生!
どうして?
どうしてこんな風になったのだろう?
4ヶ月だけ、それで終わり。
彼女作るぞ!って決めた事を実行して、優しくてかわいい子と付き合うはずだった。
でも、そうじゃない。
本当はそんな子いらない!欲しくない!
嘘ばっかりだ!有紗さんなんて・・・
オスカルが動く気配・・・寝返りを打った。
そう、欲しいのは・・・オスカルだ。
オスカルが欲しい。
オスカルじゃなきゃ嫌だ。
違うって、何度も否定しようとした。
逆に思い知らされるだけだった。
この4ヶ月、いつもオスカルの事を考えていた自分に気づく。
いつも、いつも、オスカルの事を・・・・痛くて切なくなるくらい・・・・思っていた事に。
気づかなければよかった!!
オスカルには、他に好きな奴がいるのに・・・・・
辛い、こんなに・・・辛い。
いくら辛くても、逃げられない。
どうやっても・・・
どうして前はあんな風に考えられたのだろう?
どうして本気で思えたのだろう。
逃げればいい、逃げてしまえば楽になる。
馬鹿だ!
逃げる事が出来るのは好きじゃないからだ。
本当に好きなら、逃げる事なんて出来ない。
逃げても楽になんかならない!もっと辛くなるだけだ!
自分の事なのにどうする事も出来ないなんて。
こんなことって・・・・・
オスカルに気づかれないようにそっと・・・溜息をつく。
おれは、何も出来ない・・・
オスカルは1人で苦しむだけ、耐えるだけ。
代わってやりたい!代われるものなら絶対かわってやりたい!それがどんな酷い事でも!!
でも、板倉さんのいう通りオスカルの一番大切な、好きな奴しか助けられない。
おれがどんなにオスカルを好きでも・・・
いつも無力だ
そう、おれじゃダメだ。どんなに頑張ったってどうしようもない。
ほんとに、昂さんみたいなのが側にいたら見向きもされないよな。
万が一の勝ち目どころか・・それ以前の問題。
おまえの目に映るのは他の男
もう!いい・・・・
オスカルには大好きな奴がいて!
おれは・・・嫌われている。
畜生、来なきゃよかった!
最初に板倉さんに断れば!そうすればこんな思いしなかったのに!
知らなければ、そうすれば!
愛してる
だけどもう、どうしようもない・・・・
おれ、この先・・・どうすればいいのだろう?
オスカルと会えなくなって・・・どうしたらいいのだろう?
おれ、もう・・・最悪だ。
オスカルはおれの事などすぐに忘れてしまうだろう。
おれはオスカルには必要の無い人間で、何もしてあげられないし、嫌われてるし・・・
板倉さんの言う通り、おれは関係のない人間で、部外者だから。
板倉さんの言う通り・・・おれはオスカルの命を危うくしただけだ。
浅慮
板倉さんのいう通り・・・
板倉さんの・・・・・・
先輩のいう通り・・・だ。
多分・・・・
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