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オスカルがヴァイオリンを弾く。
だけど曲が・・・みんな悲しく聞こえる。
全部そういう曲だから?それとも、ただの気の所為?
「勇、どうした?」
「いえ。なんでもありませんよ、石塚さん。」
おれは怪訝そうな顔の石塚さんに笑う。
「それならいいが・・・・ああ、聞いていたのか。」
石塚さんはヴァイオリンを弾くオスカルを見て言った。
「ええ、まあ。」
ヴァイオリンの音が響く。
泣いてるように・・・・
「曲名は何だったか・・・・昂が好きな曲だぞ、ええと・・・勇、お前分かるか?」
「いえ、まったく!クラシックなんておれダメですから。」
「そうか。それにしても・・・いい曲だよな。」
「ええ、そうですね。」
おれはオスカルを見て答える。
昂さんが好きな曲。
昂さんは・・・
昂さんは、オスカルが一番好きな奴・・・・
どうでもいい!そんな事は!
オスカルが誰を好きだろうとおれには関係ない。
だっておれは・・・
愛している
違う!愛してない!
おれは好きだけど・・・・好きなだけだ!友達として!
そうなんだ!
絶対にそうなんだ・・・・・
だから、辛くなんかない。
痛くない!悲しくなんかない!
ヴァイオリンの曲が悲しいから悪いんだ。
扉を思い切り閉めると、ジャンヌは机で書類に目を通す板倉をにらみつけた。
「次のガードが来るまで1ヶ月近くあるのよ!」
書類に目を通しながら板倉は言った。
「そうだね。急いでこれからの警備方法について詰めなければならないね。臨時のガードは性格に問題が有るそうだから。でも腕はいいそうだ。君もディアンヌから聞いたろう?」
「ええ!これまで来た中で一番最悪だということもね!何故勇に続けさせなかった!」
ジャンヌは板倉に強い口調で問いただした。
その言葉に板倉は顔を上げてジャンヌを見た。
「続けさせてどうする?優李に戦わせるのか?言うつもりはなかったが、聞かせて欲しいね。何故ぼくに黙っていた?」
板倉はジャンヌを睨みつけた。
「クレマンにはすべて報告しているのよ!あたしは当然!彼から連絡がいっているものだと思っていたわ。」
「高橋も同じ事を言っていた。ジャンヌ、君はクレマンから派遣された監視役だ。当然クレマンに逐一報告する義務がある。だが!高橋はぼくの部下だ。高橋に話を通す前にぼくに話してくれるのが筋じゃないのか?」
「上で話が通っているなら、あとは現場サイドの問題よ。そうじゃなくて?それに!いつもあなたに相談しているわよ。板倉、違うかしら?」
「では今回の件は?」
ジャンヌは肩をすくめた。
「こちらが聞きたいくらいよ!!不幸な行き違いとしか言いようがないわね。とにかく二度とこういう事が起こらないようにあたしも注意するわ。」
「是非そうして欲しいね。この不幸な行き違いで!ぼくはこれ以上ないくらい悪役をやらされたからね。知っていれば優李に嫌われずにすんだのだから。」
「知っていたら、やはり反対して・・・どちらにしろ、優李には嫌われていたわね。」
ジャンヌは冷たく言った。
「優李に何かあったら総て板倉の責任なのだぞ。つまり!ここの責任者であるぼくの責任だ。悪いが、たとえクレマンが許可してもこんな危険な事はさせられない。第一この件はムシューも渋々だったそうじゃないか!昨夜彼から直接連絡が入ったよ。ぼくは優李の体調の件も話したよ。とにかく!優李が龍と戦うのは今は絶対に駄目だ。2年先の話で決定した。」
「そして、史上最悪の龍のガードの登場ね。」
その言葉に、板倉は溜息をついてジャンヌを見つめた。
「ジャンヌ、ぼくだって本当は勇にあと1ヶ月させた方がいい事ぐらい分かっている。勇はいいガードだ。ちゃんと責務を果たすだろう。」
「ならあと1ヶ月何故優李を押し切れなかった?ボスもムシューですらそれは望んでいたわ!いつもの調子でやれば何とでも出来たでしょう!」
板倉は苦く笑った。
「君の一番はいつも優李だね。」
「当然でしょう?何が悪いの。」
「では勇は?」
「何が言いたいの?」
「勇はね、誰にだって優しい本当にいい奴だよ。」
「それが何よ?」
「今回ぼくは半ばそれに漬け込んだ形でガードをさせた。危険だと分かっていたのにね。だが、怪我について高橋から報告を受けた時、ぞっとしたよ。これ以上続けさせて取り返しのつかないことになったら?とね。君らは優李が一番だからそれでいいさ。でも勇は?あいつはまだ17歳で普通の高校生だ。多少の力があるだけのね。それでも勇は1ヶ月なら出来るとぼくに言ったよ。あんな怪我したのにね。ぼくはもうこれ以上続けさせない。ガードをさせるつもりはない!昨日は勇にかなりきつい事を言ったよ。かわいそうだったが、そうでも言わなければ・・・アイツは本当に優しい奴だよ。」
ジャンヌは溜息をついた。
「・・・あなたのかわいい後輩だったわね。悪かったわ。」
「ぼくも次のガードが来るまでは、勿論優李にさせないのが前提だが・・・考えた。だが、やはりこれ以上はガードは続けさせられない。勇には正規のガードが出来るだけの力がない。ただの臨時なのだから。」
「でも、最後の1年だけなら?」
ジャンヌはぽつりと呟いた。
それを聞いて板倉は苦く笑った。
「勇では命がけだ。君には分からないだろうが、勇では話しにならない。そんな恐ろしい事をよく君は・・・」
「だけど優李は特別なのよ。」
「ああ、彼女はオスカル・フランソワ・ド・ジャルジェだからね。勇がせめて昂くらいの力があれば別だろう。それに、勇が好きなのは優李じゃない。どちらかと言うと・・・有紗だろうな。」
「それはどうかしら?有紗に対してさほど特別な感情を抱いているようには見えないわ。」
「そうは言っていない。どちらかというとだよ、ジャンヌ。でも優李に対してはどうだ?」
板倉は尋ねた。
「・・・友達よ。」
ジャンヌは答えた。
「つまりそういうことさ。勇は優李をそんな対象として見ていない。こればかりはどうしようもない。」
ジャンヌは押し黙ったままだった。板倉は続けた。
「今は優李も感情的になっている。例の組織の件もある、年が明けて落ち着いたら勇の件を話してみよう。ガードはもうさせられないけれど、友人としてはこれからも付き合えるからね。ムシューもクレマンもそれは強く望んでいる。」
「・・・そうね。」
「とにかくあと4日、これは何の問題もないだろう。問題はその後だ。多分警備のガードは増やさなければならないだろう。次の臨時のガードの詳しいプロフィールは明日には手に入る。検討して今後の予定を決めよう。」
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