33
「君はガードだろう!自分のやっている事が分っているのか!」
昂さんはおれを睨みつけた。
「分かっています。それが何か?」
「なら何故、フランに戦わせる?」
お前・・・・なんでオスカルの考えてる事が分からないのだ!
オスカルが危ない橋を渡るなら一緒に渡ってやればいいんだ!
おれは彼を睨みつけた。
12月も4週目に入った・・・・誕生日まであと5日のことだ。
オスカルが心配していた通り・・・いや、ここまでばれなかったのは運が良かったのだろう。
オスカルを学校へ送って行って戻ってくると板倉さんと昂さんがおれを待っていた。
聞きたい事があると・・・・・・
「もうこれ以上オスカルが傷つくのを見たくないからです。」
言った途端、おれは胸倉をつかまれた。
「ふざけるな!君のやっている事がそうなのだぞ!」
「昂!やめるんだ!」
板倉さんが間に入っておれから彼を引き離した。
「昂、悪いが少し席を外してくれないか。ぼくから勇に話をする。」
おれを睨み付けたままで動こうとはしない。
「昂!」
ようやく彼は板倉さんの方を見た。
「後はぼくがやる。席を外してくれ。」
板倉さんはもう一度言った。
彼は再度おれを睨みつけてから部屋を出て行った。
「勇、これは仕事だ。遊びやボランティアではない、仕事なのだ。」
彼が出て行くと板倉さんはすぐにおれを見て言った。
「わかってます・・・・でも!オスカルは護って欲しいんじゃないんです!」
オスカルの事すごく大切なのはわかる。
危険を避ける為に囲い込むようにして・・・でも!それは、逆にオスカルを苦しめるだけなんだ!
どうやったら分かってもらえる?それがどんなにオスカルにとって辛い事か!
どうやったら分かってもらえるんだ!
「オスカルは強いです。信じてください。大丈夫です。」
「確かに優李は強い。十分龍と戦えるほどな。だが、優李にもしもの事があったらどうする?勇、仕事で一番大切なことはわかるか?責任だ。お前に責任が取れるのか?責務が負えるのか!」
「おれ、どんな事があっても護ります。絶対に!どんな事になっても必ずです!」
「お前の命と引き換えにしてもか?」
「ええ。」
板倉さんは呆れたようにおれを見た。
「お前って奴は本当に・・・・」
それから小さく溜息をついた。
「昂が切り札だという事を知っているか?」
板倉さんは言った。何だ?突然。
「・・・ジャンヌから聞きました。」
「ガードをさせるのを、できるだけ先延ばししたい、という話は?」
「はい、聞いてます。」
「今まで優李を除いて7名の女性がいた。3人は助かって、残りの4人のうち2人は銀龍が自ら手を下し・・・他の2人、5人目と7人目は自殺した。いずれも20歳の誕生を迎える目前に。話したな、前に。」
板倉さんはそう言って黙り込んだ。いつもと様子が違う。
暫くしてやっと口を開く。
「何故だか分かるか?耐えられなかったのだ。龍はどんな事をしてでも殺そうとするから必然的に最後のガードへの攻撃は劣悪だ。だから・・・・一番大切で愛する人の命を護る為に彼女等は自ら命を絶った。」
龍はどんな事をしてでも殺そうとする?最後のガードが・・・いるのに?
「どうしてですか?護る人がいたのでしょう!彼女を愛している人が!力がなかったからですか?だって助かった3人の女性には護ろうとする人がいて・・・」
「勿論いたさ。だか、凄まじい力があった訳ではない。つまり最後の確認といった所だろう。それでも半端な覚悟では戦えないが。」
「どういうことですか!じゃあ残りの2人だって助かったっておかしくない!」
板倉さんは黙っておれを見ていた。
助からない?なんで・・・助からない?
助けようとする人がいたのに・・・どうして?
不幸なんかじゃなかった。
不幸なんかじゃない、だって!護る人がいる。
その人を愛している人が、護りたいって人がいる・・・・・人が・・・いても?まさかそんな・・・
「・・・・護る人がいても幸せじゃなかった?」
「その通りだ。不幸だから、辛い境遇だから龍は殺す。護ろうとする人間はいた。しかし・・・」
「龍は絶対殺そうとする・・・・・」
「だから護る者に強い力があっても護りきれない。」
「・・・・だけど!!」
オスカルの周りにいる人間は皆オスカルを大切に思ってる!!
オスカルもその事を知ってるから・・・我慢して、何でもないふりして・・・外では距離を置いているから、友達もほとんどいなくて・・・オスカルは・・・オスカルは・・・・
「優李が望みもしないのに言い寄る男たち。ストーカーや誘拐。そして、ジャンヌや高橋達がいなければならない一番の理由は・・・・・勇、分かっているだろう?オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェの相続人は優李だ。彼女の死を願っている人間は腐るほどいるのだぞ!」
「だけど、それは!財産放棄すれば!」
「ムシューは優李にジャルジェ家を継がせるつもりだ。相続放棄など絶対させない。」
「だけどそんなの!」
「聞け。」
板倉さんはおれを低い声で制した。
「血は消せない。お前なら分かるだろう?」
「ですが!」
「真のジャルジェ家の当主はリオン・フランソワの力を引き継ぐものだ。力のある者が家を継ぐ。力は血によって引き継がれるのだぞ!」
「だけど!」
「どうしようもないのだよ、勇。」
そんなの、そんなの・・・
「地位・名誉・財産・権力、ありとあらゆるものが彼女の手に入るだろう。そして優李は今まで以上の束縛を受ける。」
オスカルは、絶対継ぎたくないって・・・嫌だって・・・
「この4ヶ月、ジャルジェ家がらみのトラブルがいくつあった!今ですらこんな状態だ。たとえ龍の件がなくなったとしても優李は一生このままの生活が続く!それでなくとも上に立つ者は絶えず孤独だ。孤独と引き換えに得られるものが彼女を幸せにできると思うか?ああ、そうさ。それらを何より必要とする女もいる。だが優李に必要か?それで幸せになれるのか?優李はジャルジェ家に永遠に縛り付けられるのだぞ。」
「オスカルは・・・幸せじゃない。」
「ああそうだ。優李は不幸だよ。どうしようもないくらい不幸だよ。」
酷いよ!そんなの、そんなのって・・・
「・・・ だから龍は優李を絶対殺そうとする、もうこれ以上辛い思いをしないように、酷い目に遭わないように。」
「だけど!オスカルは強いです!」
そうだ!オスカルは強い。それに・・・あれがある。心からの願い。オスカルは秘密兵器だって言っていた。
「ああ、優李は強い。他の娘とは違う。だから最後の1年は、昂と共に戦いたいと願えばきっと優李も共に戦えるだろう。」
「それなら!」
「それなのに優李は昂に最後のガードをさせたくないのだ。分からないのか!」
「オスカルは・・・一人で?」
「他に何が考えられる!きっと優李は銀龍に願うだろう。初代の血を引く力のある者の願い。最後のガードは自分一人にしてくれと!ぼくだけじゃない、他の者もそう考えている。」
秘密兵器、あれはそういうことなのか!
だけど!いくらなんでもそんなの!
「勇、今は所詮17歳の誕生日前だ。最後の誕生日とは比べることも出来ないほど龍は力を押さえ込んでいるのだよ。お前なら分かるだろう?いくら優李が強くても一人で戦えると思うのか?二人で戦わねばならない。それは絶対条件だ。それほど龍の力は強大だ。それなのに優李は昂にガードをさせたくないから馬鹿なことを考えている。分かるか?お前に優李の本当の気持ちが?」
「昂さんが・・・傷つくのを見たくないからです。」
昂さんだけじゃない、ムシューにも誰にもさせない・・・・大切な家族。
「そうだ、昂が傷つくのを見たくないからだ!一番大切で、一番愛する人が自分の為に苦しむのを見たくないからだ!」
「オスカルの・・・一番愛する人?」
「話したはずだぞ?最後のガードは家族か恋人だ。確かに昂は兄だ。だが血の繋がっていないな。優李も昂も兄妹などとは思っていない。分からなかったのか!」
板倉さんはおれを怒鳴りつけた。
オスカルが好きなのは、愛しているのは・・・・
「いいか!それでなくともあの二人はお互いが大切な余り、一人で何とかしようとする気持ちが強い。それなのに優李に一人で戦えるなどという自信を持たせてみろ!どうなると思う?銀龍の力は余りにも強大だ。昂がいて初めて勝機がみいだせるのだ!それなのに一人で戦おうなどとは無謀どころか死に急ぐだけだ!」
オスカルは昂さんが好きだから、ガードをさせたくない。
オスカルが好きな奴、一番好きなのは・・・・昂さん。
「勇、昂の気持ちも考えてやれ。昂はすぐにでも優李のガードをしてやりたいのだ。だがそれは出来ない。先程話したろう?5人目と7人目は耐え切れずに自殺しているのだぞ。優李は強い、だけど優しい子だ。お前だってよく分かっているだろう?」
オスカルは優しい、あいつほんとに優しい。もし一番愛しているならきっと・・・
「いいか、19歳の誕生日前までガードを繋いで自殺のリスクを少しでも減らしたい。勇、ぼくらがしなければならないのは少しでも龍の危険から遠ざけることだ。分かるか?ぼくらはどうがんばってもただのガードなのだ。ぼく等では最後のガードは出来ないのだ!分かっているのか!」
おれはただのガード?ああそうだ、おれは・・・
いつも・・・無力だった
そうだ、おれじゃ駄目だ。
助けられるのは・・・昂さん
「勇、それでも納得できないのなら、」
板倉さんは言葉を切ると無表情で言った。
「今すぐ辞めてもらう。後任は決まっている。」
「・・・・・分かりました。」
助けられるのはオスカルが好きな奴。
おれじゃない。
「あと5日だ。がんばってくれ。」
「はい・・・」
おれじゃ出来ない。
何もしてあげられない・・・
オスカルを・・・助けてあげられない。
「勇、お前は本当によくやってくれている。それはぼくもよく分かっている。あと5日、この契約が終われば・・・そのあとは今までのように友人として付き合うなり、それこそ銀龍に決闘でも挑むなり、何をしようとお前の自由だ!だが、これだけは覚えておけ。二人の関係がお前の浅慮によって悪くなるような事になるなら、ぼくはお前を許さない。優李の命が関わっているのだ!それだけは忘れるな。」
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