30
優李は読んでいた本から目を離した。
ドアの方を見る。
それからすぐに視線を本に戻したが、暫くすると本を置いて立ち上がった。そして自分のベッドまで行ってそこから毛布を取ると、ドアの方へ歩いて行った。
彼女は勇を見下ろした。
勇は目を覚ます素振りも無く眠っていた。
優李は起こさないように注意して毛布を掛けると、彼の眠る姿を黙って見つめた。
少ししてカチャリと小さな音がした。
それからドアが開いてジャンヌが顔をのぞかせた。
「優李?起きていたの。」
それから彼女は勇を見てクスリと笑った。
「片割れはお昼寝タイムなのに?」
「アンドレはわたしの片割れか?」
彼女は苦笑して尋ねた。
「まあ、そんなものじゃないの?一緒にいないと落ち着かないようだし。違うかしら?優李。」
「アンドレがか?」
「おやおや、そう来るのね。」
「なんだ?」
ジャンヌはにやりと笑った。
「まあいいわ。それにしても勇はよく寝るわね。最近暇さえあれば寝ているわね。」
「わたしに付き合って起きているからだ。まったく!いいと言ったのに・・・・」
優李は勇を見つめたままジャンヌに答えた。
「優李、あなたも少しでも眠った方がいいわ。」
「奴は来ていないのだぞ。まだ夕方だが・・・絶対に深夜と決まったわけではないからな。」
「でもそこで気持ちよさげに寝ている子もいる。」
ジャンヌはソファで眠る勇をちらりと見て言った。
優李は苦笑した。
「アンドレは・・・些細な事では大騒ぎするが・・・・」
「肝心な時には動じない。心強いでしょう?」
ジャンヌはにやりと笑った。
「まあな。こちらまで楽天的に・・・何があっても、何とかなるような気分になる。」
優李は微笑んだ。
「それなら、大丈夫でしょ。30分でもいいから横になった方がいい。勇くらいの神経の太さが必要よ、優李。」
ジャンヌは優李に言った。
「ああ、わかっている。」
優李は答えた。
「どうしたの?優李。」
何か聞きたげな優李の様子に気づいて、ジャンヌは尋ねた。
「・・・・・新しいガードのことだが・・・・」
優李はそこまでいうと目を伏せて黙り込んだ。
それを見たジャンヌはいつもより少し優しげな様子で答えた。
「ディアンヌの話だと、もう少し時間がかかりそう。今の仕事があと2・3ヶ月かかるらしい。それからになるから・・・・」
「臨時のガードか。」
「ええ。でもいいのがいないから、勇にもう少しがんばってもらうつもりよ。」
ジャンヌは笑った。
驚いて優李はジャンヌを見つめた。
「アンドレに・・・か?」
「ええそうよ。あと1ヶ月ぐらいなら勇でも大丈夫だろうし。彼には板倉から話が行っているはずよ。」
「そうか・・・」
「どうかしたの?なんだか少しも嬉しそうじゃないけど。」
ジャンヌは怪訝そうに尋ねた。
「ほっとしたら気が抜けた。」
優李はそう言うと笑った。
「あら!珍しく素直じゃない。」
「まあな。本音をいうと・・・心配してた。ガードには期待はしていないが・・・・・」
優李は目を伏せた。
ジャンヌは優李の肩をそっと抱いた。
「大丈夫よ!今度はディアンヌの一押し。イギリス人だから・・・あたしの経験からすると融通のきかない堅物ね。まあ、たまにはいいでしょう。奥さんとは死別して男手一つで7歳になる女の子を育てているらしい。その子も一緒に来るそうよ。マリアも喜ぶわ。誠と同い年だから誠も大騒ぎね。今までに増してうるさくなる!」
ジャンヌは笑いながら言った。
「そうだな。きっと・・・賑やかになるな。」
優李も笑った。
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