今度こそやさしくてかわいい彼女を作ろうと心に決めていたのに・・・
新学期早々なんて間が悪いんだ!

 「木村〜何で教えてくれないんだよ!」
 「家に電話したけどお前いなかったじゃん?今回は、夏休み家にいるよーなかわいそうな奴優先にしたからさ。」
 「おれだってな、好きで家にいなかったわけじゃないんだぞ!夏休み中フランスで探し回って・・・・・」
 「夏休み中フランス!お前・・・そんなぜーたくしてたのか!やっぱ声掛けなくて正解だな。」
 「違う!遊びに行ったんじゃない!おれが向こうでどんな大変な目にあったか・・・」
 「ああ!分かった分かった!どっちにしろ人数揃ったからさ、また今度な!」

ああ畜生!合コンなんてうちの学校じゃめったに話こないのに!
 「そんなにがっかりするなよ。ほら!さっきの話。板倉さんチェック厳しいだろ?女のさ。だから、ほんとにめちゃくちゃ可愛いんだぜ。だってストーカー付くぐらいなんだろ?俺も見てみたいよな。」
木村はちょっと羨ましそうにおれに言った。

 「おれもそれは、すごっく!期待してる。でもボディガードっていうのがちょっと・・・・」
 「大丈夫だろ?板倉先輩だからさ。庭山さんや篠原さんが持ってきた訳じゃないんだからさ。」
 「そりゃまあそうだけど・・・」
 「だろ。それに無理だったら断ればいいじゃん。もしかわいい子だったら絶対俺に教えろよ、見に行くからな!」
 「ああ勿論。でもワタルや望ちゃん達には言うなよ。」
 「分かってるって!合コン、今度は声掛けるからな。じゃあ!」
 「ああ、絶対だぞ!頼むな!」
 「おう!」 そう言って木村は部屋を出て行った。

おれはボディガードの件をもう一度考えてみる。
木村の言う通り・・・どうしても無理なら先輩に正直に言うしかないよな。だけど板倉先輩からだからなあ。
おれはちょっと憂鬱になる。

板倉さんは5年先輩、おれが入学した時に寮長をしていた人だ。特別親しいわけではないが、2年前ある事でとても世話になった。それ以来頭が上がらない。
その先輩から1週間前(まだフランスにいる時)急に連絡があって、新学期早々バイトの話が舞い込んできたのだが、そんな訳でなんか断りにくいんだよな。

でも、めちゃくちゃかわいい女の子というのはいいよな。同い年の、めちゃくちゃ可愛い、きれいなお嬢様。
あんまり気が強くないといいな。とにかく!気の強い女だけはごめんだ!もうたくさんだからな。
できれば、大人しくて、控えめで、はじけないような子がいいよな。でもあんまし大人しい子もつまんないしやっぱちょっとぐらいは・・・

おれは考えかけて苦笑した。
おれって何考えてるんだか、彼女にする訳じゃあるまいし。それに!めちゃくちゃ可愛いきれいなお嬢様なんて、付き合うのはきっと大変だ。そういう子は目の保養で十分。やっぱ彼女にするなら・・・・
 「気が強くなくて!優しくて!そこそこかわいい普通の子だよな。」

板倉さんは待ち合わせのきっかり10分前にやって来た。相変わらずだよな。
先輩はコーヒーを注文すると 「久しぶりだな勇、皆元気か?庭山や篠原も変わりないか?」 とおれに尋ねた。

 「ええ、あの二人はあいも変わらず・・・」
 「暴君ぶりを発揮しているか。」
板倉さんはおれの後を受けて言った。
 「先輩達は受験生の自覚なしですよ。」
 「しょうがない奴らだなあ。まあいい。それより早速だが用件に移ろう、急いでいるのでね。」
 「先輩、出来るんですかおれに?さんざ考えたんですけどおれなんかじゃ無理のような気がして。」
板倉さんはおれを見て笑った。

 「おいおい、出来ないことを頼んでも仕方ないだろう?大丈夫だよ。それにガードはお前一人じゃない、他にも大勢いるんだぞ、話したろう?」
 「それは分かってますけど。」
 「依頼主はとてつもない資産家だからバイト料は破格だよ。勿論護衛だから多少の危険はあるし、半端な気持ちでやられちゃ困る。詳しい契約の内容は、この書類を読んでくれ。そして納得したらサインして欲しい。仕事内容は 『16歳のめちゃくちゃ可愛い、きれいなお嬢様のガード』 つまり護衛だ。勿論学校へ行ってる間はない。彼女は女子校だからね。」

おれは板倉さんから渡された書類を読んだ。バイト料は・・・ホントだ!確かに破格だ。内容は電話で聞いたとおりだった。ストーカーからの臨時の護衛、学校が終わってからだけで、期限は12月26日の0時を以って終了。

 「何か質問は?」
暫くして、おれが書類から目を離して顔を上げると先輩はおれに尋ねた。
 「何故12月26日の0時を以って終了なのですか?」
 「ストーカーがそう言ってきているからさ。12月に入ってから26日の0時まで特に注意するようにね。ぼくに聞くなよ、勇。ぼくはストーカーが考えていることなど分からない。うちの学校は12月から休みに入るからちょうどいいと思ってね。」
先輩はコーヒーを一口飲んだ。
 「それと警察は動かない。つまり警察が動くほど事態は深刻ではない。そうでなければお前になど頼まないよ。他には何か?」
 「そのストーカーですけど、何者なのですか?」
 「肝心の事を話してなかったな。なんといったらいいのか・・・変わった奴だ。そうじゃなきゃこんなことはしないだろうしね。お嬢様のそばをうろついているから、その目で見たほうが早いだろう。」
 「そいつを止めさせる事は出来ないんですか?」
 「止めさせることが出来ればストーカーなんて呼ばないよ。勇」
確かにそうだよな。

 「そこの書類に書いてあるように、勇が無理だと思ったらいつでも契約解除できる。どうする?即答して欲しい。」
先輩はコーヒーカップを置いておれを見ると言った。
おれはもう一度書類に目を通しながら考えた。
どうしよう?大変なのは確かだよな。だけど先輩はめちゃくちゃ可愛いとか、きれいだってほんと言わないからな。お嬢様には会って見たいよな。それにどうしても出来なさそうだったら、すぐに辞められそうだし・・・・まあいいか。

 「板倉さん、おれやります。」
 「よし、勇ならそう言ってくれると思ってたよ。それじゃここにサインして。そうOK!」
おれがサインすると、彼は立ち上がって言った。
 「では会いに行こうか!めちゃくちゃ可愛い、きれいなお嬢様に!」