「優李、1週間の辛抱だよ。」
 「分かっている、いつもの事だろう。」
板倉の言葉に優李は冷ややかに返した。

 「だが今回はちょっとだけ厄介だからね、学校以外の外出は控えてもらうよ。」
 「チビの散歩も駄目で・・・庭へも出るな。か?板倉。」
 「そうしてくれると助かるけれどね。」
優李は不機嫌そうに板倉を見たが、彼は優李に微笑んだ。
それを見て彼女は目を伏せて答えた。
 「わかった、1週間だけ我慢する。」
 「ありがとう、優李。」
それから昂の方をちらりと見てからくすりと笑った。

 「何がおかしい?」
 「いや、昂が帰国したのはいいタイミングだったなと思ってね。」
彼女は怪訝そうに板倉を見た。
 「お兄さんがいれば、1週間と言わず2週間でも3週間でも我慢できるだろう?」
 「さあ、どうだろう?僕はあまり役に立たないかもしれない。」
板倉は昂の言葉に驚いて彼を見つめた。
昂は板倉に苦笑してみせた。
 「当たり前だ!わたしは1週間以上我慢する気はないからな。」
優李はそういって席を立つとドアの方へ歩いていった。

 「多分詰所だよ。」

板倉が優李に声を掛けた。
その言葉に、彼女は板倉を一瞬にらみつけたが諦めて答えた。
 「メルシ。」
板倉は微笑んだ。
優李はドアを開けると部屋を出て行った。
昂は、ドアが閉めるのを見届けてから板倉の方を向いた。

 「僕が帰ってきてからもずっとあの調子だ。片時も側から離さない。側にいないと・・・・」
 「勇を探し回るか?」
板倉の問いに答えず昂続けて尋ねた。

 「君の後輩だって?」
 「ああ、そうだよ。で?それが何か。」
 「どうして彼を連れてきた?フランは腕も悪くないと言っていたが、早朝の剣の練習を見る限りではとても信じられない。」
板倉は苦笑した。

 「勿論だ、優李や君には到底及ばないよ。だが臨時のガードとしては十分だろう?フランもそのつもりで言ったのではないかな。」
 「誕生日前なのにか?」
 「所詮17歳の誕生日だ。それより重要な事がある、勇は我慢強くて辛抱がきく。それはもうね!」
不服そうな昂に板倉は笑って答えた。

 「なるほど。我慢強くて辛抱がきくか。もう一つあるな、フランに優しい。」
 「優しいのはフランだけじゃないよ。よく気がついて誰にでも好かれる見た通りの奴だよ、裏表のないね。臨時のガードだ。多くは望めないから・・・優先順位が必要だよ、昂。」
 「腕はやはりよくないのだな。」
 「昂、腕がよくないのがそんなに不満か?臨時のガードにしては十分だろう。」
 「だが、フランはご覧の通りだ。」
 「昂、何を言いたいのだ?」

昂は板倉を見据えた。それから徐に口を開いた。
 「彼に対して我侭のしたい放題だろう!それに腕もよくないと聞けば・・・分かるだろう?あれでは何かあった時、とてもフランを抑えられない、無茶するのを止められない!考えただけでも恐ろしい!」
 「君は・・・相変わらず心配性だな。」
 「僕はフランを他の男に任せておいて平然としていられるほどできていない。」

昂は板倉をまっすぐに見据えた。
板倉は目を伏せて少し苦笑するような表情をして答えた。

 「腕は確かに劣る。だが勇は、たとえどんな事があっても優李を守る。どんな事があってもね。」
 「・・・えらく自信有りげじゃないか。一番信頼できる後輩か?」
皮肉を言った昂に、板倉は伏せていた目を上げて答えた。
 「ああそうだ。勇は命を捨てたって優李を護る、絶対ね。」

 「・・・・・君達二人の意見が合うなら・・・もう少し我慢して様子を見るか。」
昂の言葉に板倉は少し考え込んでから苦笑いして言った。
 「ジャンヌか?だが、総てが同じではないよ、ぼくとジャンヌでは・・・少し考えが違う。」
 「だが信頼という点では同じだ。クレマンも同じ意見だって?」

板倉は手を前で組むと、暫く黙って手を見つめていた。
 「勇が、優李を甘やかすのは・・・はじめから分かっていた。今回のガードの一番重要な点はそこでね。そういう奴だからこそ連れてきた。はっきり言うとそれが一番の理由なのだよ。」
 「どういうことだ?」
 「多分優李は君には何も言ってないと思うが・・・聞いていないだろう?君が家を出た4月から8月までの状況は?」
板倉の問いに昂は不機嫌に答えた。
 「聞いてない、だが家族やジャンヌや君から聞いている。いつもと同じだろう。」
 「ああそうだ、いつもと同じ。結局前任者は・・・」
そういいながら板倉はまた自分の手を見た。

 「ぼくとしてはもう少し頑張ってくれると思ったのだが・・・いや、すまない。どう言い繕うともぼくの人選ミスに変わりはない。とにかく最近毎回これだから・・・うちの方でもかなり揉めてね。最終的に今回の臨時のガードは優李の為に人選をするという事で決まった。だから今回腕はよくないが・・・勇を連れて来たのだよ。」
 「つまり、フランの気晴らし用の人選か?」
それを聞いて板倉は苦笑した。
 「君もキツイな。だが、はっきり言うとそうだ。今から精神的に参られると先が長い。本番は2年後だからね。」
 「そう、あと2年だ。」
昂の言葉に板倉は頷いた。

 「2年間はぼくの役目だ。何としても優李を護ろう。ぼくに出来るのはそこまでだけれどね。あとは君に任せるしかない。君が最後の切り札なのだから。」
 「僕はそのつもりなのだけれどね。」
昂は少し悲しげに笑いながら板倉を見た。
 「昂、心配する必要など何もない。ぼくは君と違って冷静に見られるからね。ぼくには優李の気持ちがよく分かるよ。彼女は嫌なのさ、君が傷つくのを見たくないのだよ。ただそれだけ。それくらい君が大切なのだよ。」
板倉は優しく昂に言った。

おれは銃から身を守る方法をうんざりするほど練習させられたあと、生まれて初めて防弾ベストというものを着させられた。
 「これはだな、アラミドファイバーという防弾性能を持つ特殊繊維で作られていて、胸部には鉄板も・・・これは1ミリの厚さだ、これが入っているから刃物はおろかマグナム弾でも貫通出来ない優れものだぞ。」
坂本さんの説明によると、ちゃんと着てさえいれば安全のようだ。
だけど・・・・

 「重いですよね、これ。」
 「おいおい、たかが2キロそこそこだぞ勇。」
石塚さんは呆れたように言った。
十分重いと思うけど・・・慣れれば気にならないのだろうか?
そういえばオスカルはこれを受け取ってもなんともない様子だった。
それに、今回の話を聞いても顔色一つ変えなかったし。

 「とにかくだ!1週間の辛抱だ。日本じゃ普通の銃はともかく、ショットガンやマシンガンは簡単に手に入らないからな。大事にはならないさ。」
坂本さんは言った。
 「それじゃあ日本でも普通の銃ってやつは簡単に・・・手に入るんですか?」
 「勇、新聞読んでるか?ちょっと前までは暴力団やマフィアがらみで中国製トカレフが定番だったが、今じゃインターネットなどで素人でも簡単に手に入れられるご時世だぞ。なんだ怖いのか?大丈夫さ。」
 「そうそう、心配するなって。」
加藤さんが言った。

 「分かってますけど・・・加藤さん、大丈夫ですか?」
 「勇、俺って信用ない?」
 「日頃のお前じゃな。勇、こう見えてもこいつは元自衛官だぞ、俺もだけどな。」
石塚さんが面白そうに言った。
 「ええ!ほんとですか!へえー」

おれは思わず加藤さんと石塚さんをまじまじと見詰めた。
加藤さんはニッと笑って右腕を前に出して親指を立てた。

 「うちの警備担当は警察官とか自衛官上がりが多いのさ。まあ、警備会社には何処にでも少なからずいるようだがな。」
 「そうなんだ。それからあの・・・オスカルは学校はどうなるんですか?休みですか?」
 「いや、学校は大丈夫だ。銀龍が彼女を護るそうだからな。」
 「護る?手を出さないではなくて?おれ、そこの所がどうもよく分かんないですよ。板倉さんにも考えてみろと言われましたけど。」
 「二律背反、龍も迷っているのかもしれん。本当の所は俺にも分からんが。とにかく!何人たりとも・・・妖や物の怪の類もだ!学校には手が出せない。それから、暫くはチビの散歩もなしだぞ。学校だけだ、外出は。」
 「そうですか・・・それと・・・」
 「他にも何かあるのか?」
 「オスカルはその・・・初めてですか?誘拐じゃなくてつまり・・・」

 「命を狙われるのは7度目だ。」

おれは高橋さんを見た。
高橋さんは黙ったまま、おれを見つめた。
そうだ、オスカルは・・・話を聞いても顔色一つ変えなかった。

 「勇、心配するな。俺達はガルト・フランセーズなんだぜ。」
加藤さんがおれに言った。
おれは加藤さんの方を向いて・・・・考え込んだが、その意味が分からなかった。

 「加藤さん、ガルト・フランセーズって・・・フランス衛兵隊ってなんですか?」
 「フランス衛兵隊?何言ってるんだ、違うって!優李の・・・つまりフランのガードだろう?だからガルト・フランセーズ!」加藤さんは威張って答えた。
 「加藤さん、それ違ってますよ。」
 「勇、まあいいじゃないか。こいつが言いたいのはだな!俺達が優李の為の警備のガードだってことだ。」
他の警備の人が言った。

 「そうそう!」
 「龍ではどうしようもないが、人間相手ならきっちりやらせてもらうぜ。」
と、坂本さん。
 「俺達は俺達の出来ることをしてやることしか出来ないけどな。」
石塚さんの言葉に続けて田口さんも言った。
 「で、でも、ぜ、全力を尽くすぞ。」
 「そういうことだ。」「俺達はプロだぜ。」「任せておけって!」
他の人たちも口々に言った。

 「勇、お前のすべき事は分かっているな?」
高橋さんが最後に言った言葉におれは頷いた。
おれはおれの出来ることをしてやるしかないのだ。

扉がノックされた。そして少しだけ開いて、そこからオスカルが顔をのぞかせた。
オスカルは一番近くにいた石塚さんに尋ねた。

 「入っていいか?」
 「ええ、防御の練習も打ち合わせも済みましたからどうぞ。」
石塚さんが笑いながらおれの方を親指で差して答えた。
オスカルは中へ入ってくると・・・まじまじとおれを見つめた。

 「オスカル似合う?」
 「変だぞ。」
オスカルは腕組みをして値踏みするように言った。
それを聞いた警備の人達は一斉に笑った。まったく!

 「そりゃないよオスカル!映画に出てくるみたいだったらかっこよかったけど、これじゃあ・・・」
 「分かってないな、アンドレ。あんな目立つものを着たらかえって危ない。それにこれは、アンダーガーメントだ。」
 「アンダーガーメント?」
 「教えなかったのか?」
オスカルは警備の人達を見て言った。

 「おっと、すっかり忘れてた。勇、こいつは服の下に着るタイプだ。身に着けているのが分からないようにな。」
坂本さんがおれに言った。
 「なんだ、そうだったのか。」
 「上から洋服着ると胸とか肩とか厚くなるから、お前でもちょっとだけゴツく見えるぜ。」
 「そうすれば、もうちょい!女にモテるようになるかもよ?」
 「そうですか!それはいいかも・・・」
 「よくない!そもそもゴツいアンドレなぞまるで変だ、全然似合ってない。おかしい!」
オスカルはおれの言葉を遮って言った。
周りからは 「そりゃいえてる!」 の声が上がる。

 「ひでー!みんなして!」
 「事実だから仕方ないな。」
オスカルの言葉に反論しようとした時、高橋さんがオスカルに聞いた。
 「優李、ジャンヌはまだ警察から帰ってこないか?」
 「ああ、まだ板倉が待っているからそうだと思うが・・・何か用でも?」

オスカルは高橋さんに尋ね返した。
おれにも分かったが・・・なんだか高橋さんの様子がいつもと違っておかしい。
高橋さんはちょっと迷ったような様子をして、それからオスカルに尋ねた。

 「昨日アランがここへ来た時に、その・・・・つまりだ。彼は何か・・・持ってきたか?」
その質問に急に周囲が静かになった。
オスカルは高橋を見つめた。
 「大丈夫だ。前の件があるからアランもちゃんと考えたようだぞ。」
オスカルの返答に周りの誰もが一斉に安どの声を上げた。
 「M92FS 1丁だけだ。」

一瞬で周囲が静まり返った。
高橋さんの顔色も・・・変わった。 何?一体。

 「と、取り上げないと・・・・」
そう言って、坂本さんが縋るような目で高橋さんを見つめる。
 「警察への打ち合わせに持って行ったぞ。」
オスカルは言った。
 「も、持って・・・行った?」

おれは初めて高橋さんがうろたえるのを見た。
 「あ・・・あの馬鹿女!」坂本さんが叫ぶ。
 「ど、どうするんですか。捕まりますよ!」 石塚さん。
 「馬鹿!警察ごときに捕まえられるとでも思うのか?」 加藤さん。
 「お、俺・・・し、し、し、死ぬかも!こ、こ、こ、今度こそ・・・し、死ぬかも・・・」 田口さんも。
 「で、でもM92なら前よりはまともに・・・」
 「馬鹿!ここは日本だぞ〜」
 「あの女には法律などない!阿呆!」 他の人達も。
おれは訳がわからずオスカルを見た。

 「オスカル、あの・・・何で皆?おれはさっぱり・・・」
 「1年前・・・色々あったからな、皆心配しているのだろう。」オスカルは答えた。
 「色々って、何か・・・あったのか?」おれは不安な気持ちになりながらオスカルに尋ねた。
 「ジャンヌが武装した外国人強盗団7名を捕まえた。」
 「なんだ!そんなことか。」

 「何がそんなことかだ!」
加藤さんが俺を睨みつけたので、おれは言った。
 「だって!ジャンヌならそのくらい平気でしそうじゃないですか?」
その時坂本さんが叫んだ。
 「ショットガンをぶっとばして捕まえたんだぞ!!」
 「ショットガン?ぶ、ぶっとばしたあ?」

 「そ、そ、それだけじゃない!ほ、ほ他にも色々持っていて・・・」
 「田口!喋るな!お、思い出させるなー!!!」
 「もう勘弁してくれ〜〜〜」
悲鳴のような声を上げる警備の人達を見てそれからオスカルに目をやると、オスカルは黙って頷いた。
マジ?おれは恐る恐る聞いた。

 「さ、坂本さん?さっき言ってましたよね。ショットガンやマシンガンは簡単に手に入らないって・・・ち、違うんですか?」
 「ジャンヌは特別だ!普通に手に入ってたまるか!」 坂本さんは叫んだ。
 「実は銃密輸団の黒幕だとか!」
 「そ、そうだ!在日米軍基地のお偉いさんをたらしこんで手に入れるとか!」
 「ジャルジェ家のツテで大使館の2等書記官から手に入れたと聞いたぞ。」
オスカルは言った。

 「勇!心配するな。アランが来て全部!すべて処分した。そうだ、全てだ!」
高橋さんがまるで自分に言い聞かせるように言った。
 「でも、ジャンヌは日本人でなければ持っていてもいいといったぞ。」
オスカルの言葉に坂本さんは真っ青になって詰め寄った。
 「優李!ジャンヌの言う事は全て嘘だ!信じるな!信じちゃいかん!いいか?ここは日本だ。日本なんだぞ!日本国内ではな、何人たりとも!拳銃や刃を持つ事は許されない。法律で決まってる!なんでわざわざグアムまで射撃の練習に行ってると思ってるんだ〜」
 「そ、そうか・・・そういえばそうだな。」
オスカルは坂本さんの剣幕に少したじろぎながら答えた。

 「射撃の練習?オ、オスカル?撃った事あるの?」
 「当たり前だろう?なんだ、お前はないのか?面白いのだぞ!それに、弾に気を込めて使うと遠方にいても攻撃できるから便利なのだ。よし!わたしが教えてやる。ジャンヌが戻ってきたら借りて練習しよう。サイレンサーもあるから・・・」
 「ば、馬鹿!優李!駄目だからな!絶対駄目だからな!警察が来ているのだぞ!分かってるな!」
 「ああ、そうか・・・」
 「オ、オスカル?それって・・・M何とかってひょっとして・・・それって・・・」

 「あら?どうしたの皆で集まって。」

 「ジャンヌ!」

皆が一斉に声の方を振り返ると叫んだ。
ジャンヌは怪訝そうにおれ達を見た。

 「ジャンヌ!話がある。」

高橋さんがジャンヌに声を掛けた。
それはもう真剣な・・・いや、いつもそうだけどそれ以上真剣な表情でだ。
ジャンヌはしょうがないわね、という顔をしてポケットを探った。
それから煙草とライターを取り出すと高橋さんに渡した。

 「2ヶ月も頑張ったからいいじゃない。ストレス溜める方が身体によくないわよ。」
 「あっ、ああ・・・ありがとう。それよりもジャンヌ、君が持っているM92は・・・」
ジャンヌは高橋さんに流し目をくれたあと楽しそうに言った。

 「ワイロは渡したわよ。高橋。」
 「ワイロ?」
 「高橋さん!煙草とライター!」
 「あっ・・・」
 「そんなの関係ないぞ高橋!さあ、ジャンヌ!さっさと渡せ、渡すんだ!」
 「ジャンヌに銃は似合い過ぎて迷惑だ!」
 「そうだ、そうだ!」
 「さっさと出せ!」
 「ジャ・・・ジャンヌ!殺さないで〜」

ジャンヌは上着の左脇に手を入れると、いきなりそれ取り出してこちらへ向けた。
一瞬にして部屋中静まり返った。
やっぱ拳銃だ!!!!!ジャンヌ〜〜〜

 「たかがセルフディフェンスガン1丁にがたがたいうんじゃないわよ!これじゃ向こうが撃って来たら撃ち返す程度しか出来ないのよ!」
 「何がセルフディフェンスだ!そいつは米軍の軍用モデルの改良型だ、バカ!」
 「か、加藤さん!おれの後ろに隠れながら言わないでください!ジャ・・ジャンヌ!おれじゃない!お、おれじゃないって!!!!」
 「ジャンヌ!アンドレに銃口を向けるな!」
 「あら?アーマーの性能チェックが出来るわよ、優李。勇!へたに動くと死ぬわよ?」
 「わあ〜!!!ジャンヌ〜!!!や、やめて!加藤さんだって!おれじゃない!!おれじゃないって!!」
 「わたしのアンドレに当ててみろ。いくらジャンヌでも絶対に許さないからな!」
 「ジャンヌ!わ、わかった!わかったから・・・・落ち着け、落ち着くんだ〜」
 「次はお、俺かも、俺かも!・・・し、死にたいくない!死にたくないよ〜」

 「いい加減にしろ!」

高橋さんの一喝。
 「ジャンヌ!外には私服の刑事がいるのだぞ!」
ジャンヌは冷たい目で皆を見回してから銃をしまった。
 「板倉は何処?」
 「お、応接室だ。居間の隣の・・・」オスカルが答えた。
それを聞くとジャンヌは一同を横目で見て部屋を出て行った。
おれ達は皆、高橋さんを見た。

 「た、高橋さん、どうするんですか?」 「まずいっすよ!絶対マズイ!」
高橋さんは暫く考え込んでから、手に持った煙草の包みを開けかけた。
 「た、高橋。それを開けると・・・」

高橋さんは坂本さんのそれには答えず黙って包みを開けると煙草を1本取り出し、箱を坂本さんに渡して言った。
 「皆にまわしてくれ。」
 「た、高橋さん〜」
警備の人達は一斉に叫んだ。
 「発砲だけは!俺が責任を持って、絶対にさせないようにする!」
高橋さんはそう言うと、煙草をくわえてライターで火をつけた。