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「これでいいかな?」
「だめだよ。曲がってる。」
「ちょっと!電飾のコードが届かない!木をもっとこっちへ!」
「延長コードは?」「去年誰かが足引っ掛けてとんでもない事になったのを忘れたのか?」
「オーナメントは?もっとあったはずだよ!」「ちょっと待って!見てくるから。」
クリスマスの準備で石井家は大騒ぎだ。
マリアさんと有紗さんは、台所でケーキを焼いているし、残りの3人−オスカルと零と誠−は、先ほど花屋から届いたモミの木の飾り付けにおおわらわだ。
飾り付けを手伝いながら・・・おれはまた先日板倉さんから聞いた話について考える。
最近この事ばかりだ・・・先日聞いた話が気になって・・・何か棘でも刺さったようにちくちくする。
“しかし、最初の2人は・・・彼女らも辛い境遇だった。で、殺す事にした”
“彼女の両親は自分たちの命を捨ててまでも彼女を護ろうとした。ここでルールが出来た”
命を捨ててまで守ろうとした−つまり愛されていた。幸せだった。−だからルールが出来た?
“両親から大切に育てられ、誰からも愛され本当に幸福な女性だった。だから助かったのさ。他の2人もそうだ。皆幸せだったからね”
救いの手を差し伸べる為に?
つまり・・・皆に愛されて幸せな人は助けられる。
その人を助ける為にルールがある。
そして愛されていない辛い境遇の人は助けられない。
最後の誕生日に護る人がいないから、どうしようもないから・・・不幸な人を助けない為のルール。
そうじゃない、誰も助けられる人がいないから・・・・助ける為に、殺す?
どちらにしろ残酷なルールだ。
「まだ終わらないの?フラン。」
「あともう少し。それより・・・ドライフルーツケーキ出来たみたいだね、有紗。ブランデーは?」
「かけたわ。フラン、残念ですけど!今回ブランデーは全部使ったから残ってないわよ。」
「別にいい。」
「あら!珍しい」
「だってケーキにたっぷりかかってるから・・・」
「ダメッ!」
「痛っ!有紗、手を叩く事ないじゃないか!」
「食べようとしたフランが悪いのよ!」
ここへ来る前、家庭環境が複雑で大変かなと考えてたけれど・・・全然違ってた。
石井家はみんなとても仲がいい。
血が繋がって無くてもそんな事は関係ないんだ。
外では距離を置いているオスカルも家では違う。
寛いでる・・・笑ったり、時には怒ったり、ふざけたり、本当に楽しそうだ。
でも、辛いとか、悲しいとかは一言も言わない・・・・
前に言ってた事、
“家族が一番大切”だって・・・・・
多分オスカルは家族がいるからここまでがんばってこれたんだ。
みんなオスカルの事愛してる。
オスカルも愛してるから・・・心配かけたくないんだ。
おれは、龍のルールをオスカルの事に置き換えてみる。
オスカルは・・・・龍さえ居なくなれば幸せになる!
だから助かる。だって皆に愛されてる。皆大切に思ってる!
それでいいんだよな・・・間違ってないよな。
「完成だ!」
「電飾入れるよ!皆集まって!」
「あら!きれいに出来たわね!」「綺麗!」「電気入れようよ!」
「カーテン閉めて!」「そっちも早く」
「入れるよ!」
みなツリーを見つめた。
ツリーは暗がりの中とても美しくきらきらと色を変えた・・・・
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