「これほど楽なのは初めてよ。“監視の必要はない” 報告書にもそう書こうかしら?」
ジャンヌは楽しそうに言った。
 「昼はともかく、夜は駄目だ。夜は・・・特に龍との戦いの後は・・・過去のトラブルは大抵その時発生してる。」
板倉はジャンヌを叱責するように言った。
 「今までだったらね。そうね、おなじみのセリフが聞ける、聞き飽きたね。」
ジャンヌは冷笑した。

 「“何故だ?何が気に入らない?お前の為に!愛してるのに?” 馬鹿な奴ら!呆れるわ!自分が護ってやっているという驕りが、優李には全部見えているのに!結局優李の外側しか見ていない。初めから感謝どころか信頼すらされてない事にやっと気づいた頃には・・・・・仕事だという事すら忘れてる!」
ジャンヌは切り捨てた。

 「仕事を忘れてしまうくらい優李の虜になるんだ、仕方ないところはある。だから、勇でも・・・」
 「大丈夫、優李が勇を信頼してる。」
 「信頼?今まで一度だってガードを信じた事なんて・・・・」
 「今まではね。でも今回は違う。」
ジャンヌは楽しそうに板倉を見た。

 「・・・・勇の性格もあると思うよ、ああいう奴だから。確かに優李がもう少しガードを信頼してくれればとは思う。しかし、それでも絶対無くなるわけではない!必要だよ、ジャンヌ。」
板倉は不機嫌そうに答えた。
 「でも勇は別、優李をよくわかってる。優李にとって一番重要なのは “強い力がある” ではない!という事も・・・これまでの馬鹿とは違ってね。」
 「強い力があるからといって良いガードではない、むしろ逆だ。君の言う通りさ、ジャンヌ。力を過信するから驕りが出る。だが!それでもやらせなければならない。判っているだろう?」
板倉は強い口調で言った。
 「判っているわ。勇は、本当に良いガード。」
 「ああ、勇は良いガードだ。正規の龍のガードをするだけの力の無いな。」

板倉の言葉にジャンヌは目を伏せた。
それを見て彼は小さく溜息をついた。
 「勇が問題起こす事は無いとはぼくも思うが、やはり念の為だ。監視だけはしっかり続けてくれ。ぼくが君に言いたいのはそれだけだ。」
 「ウィ。」

 「・・・・ジャンヌ。」
暫くしてから、板倉は突然彼女の名を呼んだ。

 「何?」
 「優李は・・・そんなに勇の事を信頼しているのか?」
 「ええ、勇を側から放さない。“行くぞアンドレ!” “アンドレ早く来い!”いつもアンドレ、アンドレ・・・・」
 「アンドレ?」
 「勇のあだ名よ。優李がつけたの。“オスカル”と呼ばせる代償にね。」
板倉は苦笑した。

 「代償・・・か。気の毒に・・・ところで、二人はどこ?部屋?」
 「2人だけでサッカーの試合を見に行ってる。」ジャンヌは答えた。
 「2人きりで出したのか!」
 「まさか!顔が割れてないのを2名つけた。たまには優李にも息抜きは必要だから。」
 「ならいい。危険を避けることが最優先だからね。」
 「たとえ優李の自由を奪っても。」

 「当然だろう?対人間用のガードは永遠に必要だ。そして、龍に関してはあと3年。」
 「もし勇が正規のガードが出来るだけの力を持っていたら、あと3年させられたのに!」
ジャンヌは残念そうに言った。
 「あと2年だよ、ジャンヌ。たとえ勇に力があったとしてもそこまでだ。」
板倉は冷ややかに言った。

 「どきどきする。」
オスカルは冷たい缶コーヒーを両手でしっかり握り込んで、嬉しそうに言った。
 「おれだって!なんかさっきから危なくって!いつ点入ってもおかしないじゃないか!」
 「それもそうだが・・・付いてこないのなんて初めてだから・・・」
ああ、そういうことか・・・・

 「おれ、付いて来てるんだけどな。」
おれは笑いながら自分を指差して言った。
 「すっかり忘れてた。」
 「ひどいな〜」

オスカルは笑った。
だが、すぐに真顔にもどると言った。
 「昔から・・・必ず誰か大人が付いてきた。そうじゃないと周りにも迷惑が掛かる。まあ、当然だがな。」
おまえの所為じゃないって言いかけてやめた。
そんなの気休めだ。

おれが来てから、友達が遊びに来たことも電話がかかってきたこともない。学校の話もしない。
他の人が巻き込まれないよう距離を置いて、それなのに誤解されたり・・・・楽しいわけないじゃないか!
おれは何も気づかないふりをして関係ないことを言う。

 「なんとか防ぎきった!よかったな!オスカル。」
 「ああ!」
 「あのさ、今度はもう少し早く来てサポーターの側で見よう。サポーターの近くって面白いんだぞ。」

そう言って、おれはオスカルに笑いかける。
そうすると・・・オスカルも笑う。
おれの出来るのは・・・・こんな事ぐらいだ。
なんか情けない。