「だから!悪かったってば!」
おれは、枕をかわして言った。
 「それなら伸ばしてみろ!どんなに大変か思い知れ!」
バス!今度はクッションが飛んで来る。
 「そんなうっとおしいのはやだね。」
また一つ。これも避けた。
 「もっと長く伸ばして、後で1つに縛ればいいじゃないか!リボンをプレゼントしてやるぞ!“おりぼん アンドレ”だ。いいネーミングだろう!」
すごい勢いで飛んできた。サッカーボールだ。
何が “おりぼん アンドレ” だ!そんなことしたら、絵のまんまのアンドレになるじゃないか!心の中で叫びつつ、ボールはしっかり手で止めて足元へ。
でも甘かった。ボールは2個あったんだ。それをよけて・・・・まずい!さっきボール!
足元を取られてひっくり返った。
バス、バス、バスとクッションが当たる。
そして最後に布団が・・・・もう一つのもっと重いものと一緒に降ってきた。

 「オ、オスカル・・・く、苦しい・・・謝るから!もう絶対言わないって!下手とか・・・いや違うって!大変なのはすごっく分かってる。だからおれが言いたかったのは・・・とにかく、どけって!重い〜」
おれは布団の中で叫んだ。
 「髪を切りに行かないならすぐに止めてやる!」
オスカルはおれが身動きできないように馬乗りになって、ついでに枕かクッションを布団の上からおれの頭に乗せて押さえつけて言った。何でこんなにうまく押さえ込むんだよ!
じたばたするが、逃げられない!

 「わたしはな、おまえみたいに一人っ子じゃないんだ!4人の敵とずっとやりあって来たんだぞ。それに!格闘術はジャンヌ直伝だ、なめるなよ!」
 「わ、わかったから!枕だけでもどかして。く、苦しいって!」
 「じゃあ切らないか?」
 「もう3ヶ月も切って無いんだぞ〜〜」
 「あと2ヶ月くらいでわたしと同じ長さになるな。」
 「これ以上伸びると収拾付かなくなるんだぞ!おれの髪はなあ・・・・」
 「思い知れ!そうしたらあんな発言2度と出来なくなる!毎日どんなに髪を直すのが大変なのか・・・・」

突然オスカルが枕を持つ手を緩めた。
おれはやっとの思いで布団から顔を出して・・・・オスカルを見た。
オスカルは何か・・・気まずそうな顔をしてドアを見ている。
おれもドアを見た。
そこにはジャンヌが腕組みをしてこちらを見て立っていた。

なんか・・・まずい。
非常に機嫌が・・・・
オスカルも察したらしい。
オスカルは慌ててジャンヌに言った。

 「す、済まないジャンヌ。ちょっと・・・・騒がしかった?」
それから彼女が手に持っている紙を見て言い直した。
 「とても騒がしくて・・・報告書作成の邪魔でした。」

 「わかってるなら静かになさい!じゃないと・・・・」
ジャンヌはいつもの色っぽい流し目でおれ達を見ながら言った。
 「しめるわよ!返事は!」

 「はい!」

おれとオスカルは同時に返事をした。

 「まったく・・・こういう具合だから報告書がどんどん厚くなる。」
ジャンヌは額を押さえて、溜息交じりに言った。
 「こんなことまで報告書に書くのか?」
オスカルが嫌そうな顔をしてジャンヌに聞いた。
 「当たり前でしょう。クレマンへの報告書よ。」
  「・・・・・だから嫌なんだ。クレマンは何でも面白がる。そして絶対会った時に・・・・・」
オスカルは不機嫌に言った。
  「ま、気持ちはわかるけど、抱き枕事件もちゃんと入れといたから。」
  「抱き枕事件?何だそれは。」
オスカルは怪訝そうに聞いた。
 「忘れたの?勇に抱かれて気持ちよさそーに寝てたじゃない。」

 「ジャンヌ、その言い方は誤解を招くって!」
おれは慌てて言った。
 「あら、朝マリアの声を聞いて部屋に行った時は誤解どころか了解した。一体どこまでいったのか・・・・」
 「だから!あれはオスカルがTV見てたらソファで寝ちゃって!・・呼んでも!ゆすっても!起きなくて!それで・・・・」

“・・・もう眠い。このままでいい”って!抱きついてきて・・・
おれは何とかしようとしたんだけど動けば動くほどオスカルの奴!
余計ぎゅうって!しがみついてくるんだぞ!
だから仕方ないからそのままにしといて・・・・

大体!坂本さんと加藤さん!なんで来てくれないんだよ!職務怠慢だ!
“問題が起こればすぐ行ったが、なかったろう?” 
“なかったろう?”何がなかったろうだ!
どんなにおれが大変だったか!監視モニタ見てたんだから分かるだろう!それなのに・・・・
マジでやばかったんだぞ!ほんとにほんとにやばかったんだ!もう少しで・・・おれ・・・おれは・・・・

 「勇、もういい。よーく、わかってるから。そう、この事件の全責任は優李にある。」
ジャンヌは苦笑いしながら言った。
 「わたしの何処に責任が?ソファは狭くて落ちそうだったから引っ付いて寝ただけだろう?確かにベットで寝なかったのは風邪を引いたりするからよくない。だが!それのどこが事件なのだ?」
オスカルは憤然とした様子で言った。
  「マリアにあんなにお説教されたのにやはり分ってなかったようね?」
ジャンヌは “どうしようもないわね” といった様子でオスカルを見た。

 「ママンの言ってる事は変だったぞ。 “もう何なの!!何もなかったなんて!何も!何もなし!もうすぐ17なのに!私があなたの年には!” とか、アンドレにも “どうして?どうしてなの?何も感じない?全然魅力が無いの〜” とか言って、そのあと妙に落ち込んで・・・なんだ?あれは!」
 「普通は諌める立場なのに、そんなことを言わなければならない母親のマリアにあたしは心から同情するわ。」
 「で?一緒に寝たのが悪いと?それの何処が悪いのだ!」
ジャンヌはオスカルの言葉を聞いて溜息をついた。

 「今までのガードだったら?」
 「気でも狂ったか?ジャンヌ。」
オスカルは凍りつくような冷たい声で言った。
 「では、どうして勇ならいいのかしら?」
 「ジャンヌ!どうして奴らとアンドレを一緒に考えるのだ?アンドレが奴らと同じだと?奴らとアンドレが?アンドレは・・・・アンドレはな、奴らとは違う!奴等みたいな事は・・・・

絶対にしないんだ!!

オスカルが叫んだ。
それを聞いておれは思った。
おれは喜んでいいのだろうか?
そうだろう、ここまで信頼されてるんだから喜ぶべきだ。
だけど、今一つ・・・落ち込むんだけど・・・・

ジャンヌは肩をすくめた。
 「ま、分かってはいたけれど・・・・ここまでお子ちゃまだと何だわね。」
 「誰が“お子ちゃま”なんだ。何が言いたい?」
ジャンヌの自分を子供扱いした言い方が癪に障ったらしい。
だけどオスカル、いいたかないけど!おまえって・・・お子ちゃまだぞ。
 「理論が破錠してるのがわからないの?勇、教えてあげなさい。」

矛先がこちらへ向いた。
ジャンヌ〜冗談じゃないよ!!!
オスカルがおれを見た。

 「アンドレ、私の言ってることはおかしいのか?」
 「・・・それは・・・あの・・・・・・・」
 「理論が破錠してると?」
 「いや、だから・・その・・・・・・」
 「わたしはお前を奴らと同じなんて考えた事は一度もない!それがおかしい事なのか!」
 「えーと・・・・ありがとう。すごく・・・うれしいです。」
 「当たり前じゃないか!」
オスカルは言った

ジャンヌは大きく溜息をついた。
 「まあいいわ。所詮勇に説明は無理ね。そうね・・・あら、そうだった!すっかり忘れていた!」
ジャンヌはにやりと笑った。
何か企んでいるのはすぐに分かった。

 「優李、この件に関しては一度高橋に相談なさい。彼はね、よーく分かってるから。」
それから楽しそうに監視カメラに微笑んで言った。
「高橋!ちゃんと優李に説明してあげるのよ!分かったわね!」
しかし・・・・

高橋さんは珍しく1週間ほど休みを取った。
警備の人達が協力してまとめて休みを取れるようにしてくれたそうだ。
ジャンヌは怒ってたけど・・・・・
そんなもん、何にもわかって無いオスカルに説明なんかできるわけないじゃないか!