光が幾筋も落ちる、次に腹の底に響くような音!またしても雷撃だ。
まだパワーが残っているのか?
稲妻の後に音が続く。1つ、2つ、3つと避けるが次・・・だめだ!避けきれない。

しかし、光が消えたあとに音は無かった。
いつの間にかオスカルがおれの前に立ちふさがっている。
次々と襲う雷撃。
オスカルは剣を水平に構えると、次々と来る稲妻を剣で受け止め往なした。

シュッ!という音と共に雷撃は剣に吸い込まれる様に消えていった。
『これで終わりか?』
オスカルは不敵な笑みを浮かべ銀龍に問いかけた。
挑発はきいたようだ。

だが、雷撃は2回で終わった。どうやららい雷撃のパワーを使い尽くしたようだ。
チャンスだ。おれは間合いを詰め懐へ飛び込み切る。だが・・・浅い。
奴の牙のような三本の爪が迫る。

かなりきわどい所で攻撃をかわす。
3本の爪はおれの目の前の空気を裂いただけだった。
しかし、裂かれた場所は真空になって・・・・刃に代わる。
左腕に激痛、かまいたちだ。

今度は奴の右腕が迫る。
その時僅かだがおれの方へ神経を集中させた。
瞬時の隙、左側へ移動していたオスカルがつかさず奴の右脇腹に打突。
それと同時に銀龍は消えた。
・・・・部屋はいつもの空間に戻る。

 「腕は?」
 「大丈夫、服が破れただけだ。」おれは笑いながらオスカルに答えた。
 「・・・そうか。」オスカルはほっとした様子で言った。

 「早かったじゃない。」
ジャンヌが、戻って来たおれ達に向かって言った。
 「これからという時に逃げるからな。」
オスカルは不機嫌そうに答えると、剣をシャッ!とひと振りして鞘にしまった。

 「いいじゃないか。本番は12月に入ってからなんだろう?それまでは・・・・」
 「分かっている!・・・もう寝るぞ。」
オスカルは脇へ剣を置くと、さっさとベットに入った。
ジャンヌは、やれやれというように肩をすくめておれを見た。
おれは苦笑した。

 二人で戦うようになってから半月近くが過ぎた。
本音を言うと、一番最初はすごく心配だった。
龍がどう出るかもわからなかったし、やはりうまくいくかどうか不安だった。

けれど実際やってみると・・・・コンビネーション、ばっちり息が合って・・・・
龍が消えてから、二人で顔を見合わせて・・・
それから笑って、手をバシッとたたき合わせた。

こんなにうまくいくとは思わなかった!
それからずっと、一緒にやってる。
だけど、このことは秘密だ。

 「もしわたしが戦っている事がわかったら・・・・ガードは総入れ替えだ。おまえはすぐに辞めさせられる。だから絶対にばれたらダメだ。」
 「でも・・・部屋には監視用のモニタがあるぞ。」
 「銀龍が来る時、空間が歪むだろう?その所為か監視用のモニタには映らないんだ。だからこの場にいない限り気づかれないだろう。」
 「だけど、ジャンヌは?」
 「大丈夫だ。これはジャンヌの仕事の範囲外だ。彼女は他人の仕事に口を挟んだりはしない。」
オスカルは言った。

 「どういうことだ?他人の仕事って・・・だってジャンヌの仕事はおまえの身を危険から護る・・・」
 「人のな、龍じゃない。龍のガードはアンドレ、おまえの仕事だから。」
おれは考え込んだ。確かにあのジャンヌが何も言わない。

 「それより問題はわたしの剣だ。これをどうにかしないと・・・」
オスカルは手に持っている剣を見ながら言った。
剣は・・・毎朝練習の際使うフェンシングのものとまるで違っていた。
細身の反りのない両刃の―象牙のような白い剣身―雷撃を吸収する不思議な剣だ。
これは、オスカルに剣を教えた(勿論気を操る事も)2番目のガードがオスカルにくれたものらしい。

 「おれがあまりにも頼りなさげだから護身用に側に置く。というのは?」
おれがそう言うと、オスカルは暫く考えこんだ。
 「・・・そうだな。それでいこう。あと、問題は・・・12月に入ってからだ。」
それからオスカルは小さく溜息をついた。

 「難しいのか?」
 「12月は昼夜関係なしのほぼ毎日だ。いつもよりハードだぞ。だから、よほどうまくやらないと多分隠しきれないだろう。」
オスカルは爪を噛んだ。
 「少しでも長く戦いたいんだ。19歳になるまであと2年しかない、その前に奴と戦えるチャンスは多分これが最後だろうから。」
19歳?以前、板倉さんも言っていた。

 「なあ、オスカル・・・・」
 「なんだ?」
 「19歳になると・・・何かあるのか?」
オスカルはおれを見た。

 「ああそうだ。汚いやり方だ、最低のな。」
オスカルは自分の手をぎゅっと握りしめた。
 「奴の思い通りにはさせない。絶対、絶対にだ。」
まるで自分に言い聞かせるようにオスカルは言った。

何かある。
だけど・・・・・話してはくれないだろう。
おれはオスカルの様子を見て思った。

 「とにかく!ばれないように!だな。」
 「ああ、そうだ。それに・・・・」
オスカルは言いかけて目を伏せた。
これは分かった。

 「みんなに心配かけたくないのか?」
オスカルはおれを見て微かに笑うと、頷いた。
 「昔から迷惑ばかりかけてる。」
オスカルは言った。
 「誰もそんな風に思ってないよ。」
 「財産目当ての馬鹿に龍だぞ。その上家族だけでという生活がない。絶えず他人が出入りする。全部私の所為だ。」
 「だけど!それは・・・」
 「事実だ、そうだろう?」
 「何言ってるんだ!一番大変なのはおまえじゃないか!」

おれはオスカルを睨みつけた。
オスカルは驚いたようにおれを見つめた。
 「わたしは大丈夫だ。」
オスカルは笑った。
いつだってそうだ。
出来るだけ迷惑かけないように、悲しませないように、心配させないように・・・・
だから、どんな事があっても泣かない、辛いなんて絶対言わない。
いつも・・・・大丈夫だ!

  「・・・大丈夫じゃない。」
  「だから、大丈夫だと言ってるじゃないか!」
 「家族にはそれでもいいさ。だけど!友達にぐらい本当の事言えよ!」
 「アンドレ・・・・」
 「おれ、おまえの事友達だと思ってる。おまえはそうじゃないのか?」
オスカルは俯いた。

  「・・・友達だ。」
  「だったら・・・・」
言葉を続ける事は出来なかった。
オスカルはおれの首に手を回しておれの肩に頭を乗せて言った。

 「・・・・家族が一番大切なんだ。」
少し掠れた声でオスカルは言った。
 「オスカル・・・・」
 「だから・・・大丈夫だ。」
おれは何も言えず、そっとオスカルの肩を抱えた。

ベッドで眠るオスカルを見ながらおれは考える。
なんとかしてやりたい!
どうやったら?少しでも・・・どうやったらオスカルが楽になるのだろう?
おれのできる事って・・・何かあるのだろうか?

左腕が痛む。
おれは服の切れ口から傷を見た。
傷口は少し深かったが出血はほとんどなかった。
これくらいなら縫うほどの傷じゃない。気づかれなくてよかった。
傷の手当てをする為に、おれは部屋の明かりを消してからそおっとドアを開けて部屋を出た。