オスカルは“気”が操れると思う。
銀龍の気配をあれほど敏感に察するのは、いくら生まれた時から付きまとわれているとはいえ“気”を読めないと難しい。つまり、読めるという事は使える可能性があるという事だ。それにもう一つ、毎朝の剣の練習でオスカルの見せる凄まじいまでの気迫、闘気。
これは武術を極めようとする人間が持たねばならないもの―戦う為に不可欠なもの―で“気”と同質のものだ。
ただし、“気”を操って霊的なエネルギーに変えるのは持って生まれた特殊な力が必要だ。
(おれのように遺伝―父方の家系にはちょくちょく出るらしい―による力がある場合は、武術の達人でなくても“気”は操れる。)
だから武術の達人だからといって龍と戦える訳ではないが、オスカルの言動を考えるとオスカルは気を操って戦えるんじゃないかと思う。

前はちょっかい出すだけですぐ消えてたのが、最近の龍の攻撃というのはしつこいのだ。
オスカル曰く “気に入られたな”ということらしい。
どうしておれが気に入られなくちゃならないんだ!臨時なんだぞ!まったく・・・・
・・・ボヤいても仕方ないのだが、問題はオスカルだ。

 「もっとうまくかわせるだろう」とか「間合いの取り方がいまいち」とか「素早く動け」とか・・・・“自分ならこうやって戦うのに!”といった気持ちが手に取るように分かる。
そしてそのあと、決まって機嫌が悪くなる。

理由は多分おれが考えている通りだろう。
どうしようか考えたんだけど、剣の相手を引き受けた時試してみることにした。
一体どれくらいの力があるのか?

 「おまえ・・・ガードなんて全然必要ないじゃないか!」
おれは思わず叫んだ。
 「そう思う?」
 「ああ、すごいよ!龍と差しで戦えるじゃないか!」
思ったんだけれど・・・きっと、そういって欲しかったんだ。

 「やっぱりそう思うだろう!」
オスカルはすごく嬉しそうに言った。
 「どうしてわたしが戦ってはいけないのだ!わたしの問題なんだぞ!それなのに・・・いつもノン!剣を教えてくれたアーロンだって、毎日欠かさず鍛錬すれば誰にも負けないくらい強くなると言ったのに・・・・四六時中ガード付きだ!」
やっぱり自分が戦えない事が不機嫌の原因だったんだ。

 「オスカルの事が心配だからだと思うけど・・・」
 「警備のガードはな。わたしに何かあって責任問題になるのが嫌なのさ。龍のガードは違う。あいつらはな!」
吐き捨てるように言って、それから・・・・
表情が変わった。

 「龍のガードは誰も同じだ。わたしは何も出来ないと―わたしが龍に命を狙われて怯えている可哀想な女だと―憐れんでる。このわたしをだ、分かるか?アンドレ。」
ガードが嫌いなオスカル・・・・
 「“あなたは隠れていなさい!私の後へ!お前は引っ込んでいろ!護ってやる!護ってやる!護ってやる!”」
オスカルは笑った。

だけど目は・・・少しも笑ってない。
いつもと違う、全然違う!
ぞくぞくするぐらい冷たい笑い、凍りつきそうなくらい・・・

「護ってやる?何から?」オスカルは尋ねた。
違う!ガードを嫌ってるからじゃない・・・・
瞳の色が暗く沈む。感情を押し殺した低い声。
 「“護ってやる” だから何だ?それでわたしが喜ぶとでも?喜ばねばならないのか?・・・・わたしはガードの代価?」

怒りは・・・・どこに隠してあったのだろう?
どうして隠さなきゃならない?

 「たいした力も無いくせに・・・・ふざけるな!何もわかってないくせに!誰も・・・何も・・・」
信じてないから?ガードの事。
一番信頼しなければならない人間なのに・・・・信じられない。
少しも・・・信頼してない。

 「わたしは自分で戦える!自分で護れる!ガードなんて必要ないんだ!」
“泣き言一つ言わない、いつも 『大丈夫です』 だ” 板倉さんの言葉を思い出す・・・・

おれ、その言葉の意味をわかっていなかった。
全然わかってなかった。
オスカルはたった一人でがんばっていたんだ・・・
本当にがんばってきたんだ。

 「おまえ・・・なに泣きそうな顔しているのだ。」
気がつくと、オスカルが困った様な顔をしておれを見てる。
 「べ・・別に泣いてなんかいない。」
おれは慌てて言った。

 「でも、これからは違う!」
オスカルは気持ちを切り替えるように・・・楽しそうに言った。
 「今日から、わたしも一緒だ!攻撃は任せてくれ!絶対お前よりわたしの方がいいぞ。」
ちょっと・・・待ってくれ!それって・・・・
 「がんばろうな!」

それはだめだ!って言わなきゃ・・・・・
絶対駄目だと・・・・
 「ああ!一緒にがんばろう!おれさ、おまえをすごく頼りにしてるからな!」
おれの言葉を聞いて、オスカルは嬉しそうに笑った。

誰かにすぐ頼るような弱い子の方が楽なんだ。
強い子はがんばって・・・自分で何とかしようとするから大変で・・・辛いんだ。
それって無茶かもしれない。
でも、悪い事じゃない!それのどこが悪いんだ!
オスカルが戦いたいのなら、戦えばいい!
そうしたいなら、それがオスカルのしたい事なら好きにすればいいんだ!
それなら、おれは一緒に戦って・・・護ってやるんだ!