おれは授業が早く終わったのでいつもより30分以上早くオスカルの学校の側にある駅へ着いた。
何か食べようかなと考えながら歩いていて、様子がおかしい事に気づく。
オスカルの学校の制服を着た子達だ、何故か沢山いる。
部活はまだ終わる時間じゃないのに?

おれは慌てて校門へ急いだ。
校門の方向から洪水のように女の子。でも!すぐに見つけられる。
金色の・・・黄金の髪。
いた!

“オスカル” って名前を呼ぼうとしてやめた。
ここからだと聞こえない。
それに “オスカル” はないよな。
じゃあ・・・“優李”。
でも、彼氏と間違えられたら・・・オスカル困るよな。

おれがあれこれ考えてるうちにオスカルもおれに気づいた。
驚いたような顔、それから笑って・・・・大急ぎで走って来るのがわかる。
そんなに急がなくてもいいのに・・・・
おれは思わず微笑んだ。

 「どうしたんだ!まだジャンヌにも連絡入れてないのに!」
オスカルは言った。
 「おれも早く終わった。で、何か食べようかと思ったら・・・・」
 「そうか。じゃあ・・・迎えに来るまでわたしも付き合う!」
オスカルは嬉しそうに言った。

なんかデートみたいだ。
不意に馬鹿なことが頭に浮かんだ。
おれはそれを打ち消そうとして、残りのハンバーガーを急いで頬張った。

 「そんなに急がなくても時間はまだあるぞ。」
オスカルは呆れたように言った。
 「いや・・・腹減ってるから・・・」
 「昂や零もよく食べるが・・・・アンドレ、おまえ本当によく食べるよな。」
オスカルは笑った。
 「昂?」
誰だろう。
 「兄だ。」
オスカルは言った。
 「でも・・・みんなこんなものだよ。」
おれはそう言って、コーラを飲んだ。

・・・・話し難い。
理由はわかってる、制服だ。
なんで毎日見てるのに・・・どきどきするんだろう?
大体ここのセーラー服!オスカル似合いすぎなんだよな。

 「どうかしたのか?アンドレ、なんか変だぞ。」
オスカルは怪訝そうに尋ねた。
 「い、いや・・・これだけ時間があるなら来週じゃなくて今日買いに行ってもよかったかなって。」
 「ああ、スケートシューズの事か。そうだな・・・・早く気づけばよかったな。」
 「だろう?」
 「そうだな。でも・・・」
オスカルはジンジャエールの入った紙コップを持つと
 「一度来たかったからいいんだ。」
そう言ってジンジャエールを飲んだ。

おれもコーラを飲んだ。
周りではオスカルと同じ制服を来た女の子達が楽しそうにしゃべっていた。
本当に楽しそうに・・・・

 「それにしてもさ!やっぱ雰囲気違うよな。」
おれは明るい口調で言った。
 「どんな風に?」
 「だって!店に女の子いるもん。」
 「なんだそれは?」
 「学校の近くにもあるんだ、同じ店。でさ、近くの学校も男子校。だから時間帯によるんだけど・・・女の子なんてまず入って来ない。」
 「・・・・異様な光景だな。」
オスカルは眉をしかめた。

 「そうなんだけどさ、学校じゃそれがふつーだし、違和感ないんだよな。」
 「慣れというのは恐ろしいな。」
オスカルはちょっと呆れたような様子で言った。
 「まあね。」

その後オスカルは、何か考えてる様子で・・・それから、ふっと笑って言った。
 「アンドレ!さっき様子が変だったのは、その所為だな。」
 「そ、それは・・・・」
オスカルは面白そうにおれを見た。
 「おまえは・・・・」

「石井さんじゃない!めずらしー!どうしたのこんな所で。」

見上げるとテーブルの横にオスカルと同じ制服の女の子が立っていた。
かわいい子、だけど・・・タイプじゃない。
その子はちらっとおれを見た。

 「また新しい彼?今度はいつまで?いーな石井さん、見つけるの上手くってうらやましいな。」
くすくす笑う。
こいつ・・・嫌味だ。
 「でも、こういう大人しそうなのが一番危ないよね。あっごめーん!そんな事石井さんが一番知ってるよね。前の事もあるし。」
また・・・くすくす笑った。
こいつ・・・・ だけど、オスカルは・・・何も言わない。

 「前のは酷かったよね。確か・・・元ボディガードでしょう?石井さんてすごいよね。あんな風に付きまとわれたらさ、普通はね・・・・」
オスカルは、話すつもりもない氷のように冷たい顔のまま。
そいつは相変わらずくすくす笑う。
もう・・・・いい。
 「でも遊ぶんだったら相手を選ばなくっちゃ!それとも付きまとわれるって楽しい?」
もういい!
 「女王様になった気分?それとも・・・・」

バン!

おれが机を叩いた音で、周りは静まり返った。
そいつは・・・もう笑ってなかった。
おれとそれからオスカルを睨んで、そいつはおれ達の席から離れた。
おれはオスカルを見た。
オスカルはおれを見ると笑って
 「大丈夫だよ。」
と言った。

 「・・・・・で?」
ジャンヌは机に片肘で頬杖をついて “まだ他に何かあるの?” といいたげにおれを見た。
 「それでおしまいだよ!」
おれが腹立たしげに言うと、
 「どうせ彼氏が優李に惚れこんで、その子は捨てられて逆恨みって所でしょう。嫉妬よ、たいした事じゃない。無視が一番。」
ジャンヌは気にするなという様子で言った。

 「大したことだよ!酷いよ!」
 「いい女は妬まれる。あたしもよく言われたものよ。」
 「ジャンヌは何言われても全然へーきだからいい。だけどオスカルは・・・・」
 「勇、あたしに喧嘩売りたいよーね?」
ジャンヌはおれを横目で睨んだ。
 「そ、そうじゃなくて!」
おれが慌てて弁解すると、ジャンヌはフンというように鼻で笑ってそれから・・・小さく溜息をついた。

 「ジャンヌ?」
 「付き纏うような馬鹿!とか、ガードとかがいるのが一番の原因!でもね、優李が自分の側に近寄らせないように一線引いているのも誤解される一因。」
近寄らせないようにって・・・・
オスカル・・・おまえ、馬鹿だぞ!

 「勇みたいな珍獣が回りにたくさんいればよかったんだけど。」
ジャンヌはおれの顔を暫く見つめてから、面白そうに言った。
 「珍獣って・・・そりゃなんだよ!ジャンヌ!」
 「あら、褒めてるのよ。普通は外見に惑わされて中身の判断ができなくなるから。どれだけ純粋で無垢かなんてね。勇みたいに外見に惑わされないのは、まさに珍獣!」

 「飲む?」
おれはオスカルにカップを渡した。
 「ありがとう。」
オスカルはそういってカップを受け取った。
それから、一口飲んで言った。

 「やはりショコラか。」
 「ショコラ?ああ、これか。ホットチョコレートだよ、我が家秘伝の味。」
おれは笑った。
 「どこら辺が秘伝なんだ?作るのが見えたが・・・・温めたミルクにチョコレートを溶かしただけだと思うが。」
 「チョコの種類と量が秘伝。だから飲みたい時はおれに言ってください。」
オスカルは笑った。
 「よくわかった、今度からそうしよう。」
そういってオスカルはショコラを口に運んだ。

しばらく黙って、オスカルはショコラを飲んでいた。
ふと飲むのをやめる。

 「アンドレ・・・・店での事・・・・」
何が言いたいのかはわかった。
 「気にする事ないよ。いい女は妬まれるんだ!」
 「わたしが、いい女・・・か。」
オスカルは目を伏せながら・・・フッと笑った。
 「ああ、そうさ。最高にいい女!スカートはいてる時は。」

オスカルは伏せた目を上げておれを見た。
 「では、そうでない時は?」
 「最高にいい男。」
おれがそう言うと、オスカルは吹き出した。
 「一応、褒め言葉と受け取っておこう。」
暫く笑ったあとでオスカルはそう付け加えた。

それから・・・・小さく溜息をついた。
 「わたしは好かれるか、嫌われるかどちらかだ。好かれるにしても・・・・こちらが望みもしないような好かれ方だ。特にガードは・・・」
オスカルは笑った。
 「呆れるのを通り越して笑えるぞ。」
でも、そうじゃないことはわかった。

 「見えざるものは、負の力の塊で負の力を引き寄せる。力が強ければより一層引き寄せるんだ。連鎖反応みたいに・・・・全部龍の所為だよ。」
おれはオスカルに言った。
お前のせいじゃない、お前は何も悪くない!
 「いなくなったら・・・変わる・・・か?」
オスカルがカップを見つめていった。
 「ああ!絶対にね。当たり前だろう。」
おれは断言する。

 「そうしたら・・・・・」
次の言葉はなかった。
オスカルは残りのショコラをだまって飲んでいた。
何を言うつもりだったのだろう?
誤解されない?ストーカーなんかいなくなる?皆と同じようになれる?
それから・・・・・・・・・

畜生!なんだよ!
どうしてわからないんだ!!
オスカルは本当にやさしくていい奴なんだぞ!
どうしてわからないんだよ!!