板倉さんは、オスカルはガードが嫌いだと言った。
だが、龍のガードであるおれはどう考えても嫌われてはいない。
今までのガードならこんなことはありえなかった、と誰もが言う。
板倉さんは “第一印象があれだからな” と言って笑った。
警備の人達には、“遊び相手だからだ” と言われた。

 ずっと考えていたけれど・・・・・・・
結局オスカルは、おれをガードだと思っていないのだ。
きっと今までのガードのような力がないからだと思う。
でもそれは仕方ない、だっておれは臨時だし。
だけど・・・・・
オスカルの不機嫌な様子を見るたびに、情けない気持ちになる。
どうしようもないと分かっているのだが・・・・・
その上最近、それに拍車をかけるような事が毎日あるようになった。
剣の練習だ。

剣というのはフェンシングのようなものだ。
オスカルは、毎日練習を欠かさない。
護身用として、以前ガードを務めた人が教えてくれたらしい。
とにかく!オスカルはめちゃくちゃ強い。
それはフェンシングをよく知らないおれにでも分かった。

まずは・・・攻撃!
どこから来るか分からない剣先から繰り出される鋭い突き。
剣道とは突きのスピードが全然違う、信じられないような速さだ。

それから・・・・見切ること。
つまり、こちらがどう動くか予測して、剣が当たるように仕向けて正確に急所を突いてくる。

強いなんてものじゃない!
恐ろしいくらいだ!
そうなのだ、最近おれはいつも相手をさせられてる。
当然、結果はいつも・・・・・

カシャーン

おれの使っていた剣は、いとも簡単におれの手から離れて地面に突き刺さった。
 「アンドレ、いい加減にしろ!防御!防御!防御!反撃は?どこにしまい込んだ!」
オスカルは怒鳴った。
 「そんな事いったってかわすのがやっとなんだぞ!それに、オスカル!おまえ身が軽すぎ!」
 「おまえ、よくそれで龍と戦えるな!」
 「おれは “突く” んじゃなくて “切る” だよ。フェンシングじゃない!」
おれは地面に刺さった剣をやっとの思いで引っこ抜いて言った。

 霊や龍のようなもの、妖怪とでも呼べばいいのか・・・そういうものには通常の攻撃は通用しない。
一般的には “気” つまり霊的なエネルギーを使って戦う。
直接 “気” を操り戦ったり、拳銃や剣などの道具を媒体にしたり・・・・人それぞれだ。
おれは剣を媒体に使う。(剣といっても木刀だ。おれの場合、棒状の物であれば何でもいいのだが。)

「もういい!」
オスカルはそう言うと、おれの持っていた剣を返せと言うように手を差し出した。
機嫌が悪くなった。
龍と戦う話が出たからだろう。
最初は龍が怖いからだろうか?そう思っていた。
でも違う、おれがこんなだから・・・・

 「どうかしたのか?」
 「いや、別に・・・」
 「別にって感じじゃないぞ!何だ?」
 「何でもない・・・・」
 「話せ。」
 「別に話す事なんか・・・・」
 「いい加減にしろ!言いたいことがあるならはっきり言え。」

オスカルはおれを怒鳴りつけた。
おれはオスカルを見つめた。
オスカルに聞いて、本当の所をちゃんと知っておいた方がいいのかもしれない。

 「おれ、ガードじゃないよな。」
おれは言った。
 「・・・・・何故そんなことを?」
オスカルは怪訝そうにおれを見た。
 「きっと今までのガードと違ってなってないだろうし。頼りないし。だから・・・・・ガードじゃない。」

オスカルはしばらくの間、黙っておれを見つめていた。
そして口を開いた。
 「そうだな、お前をそのように考えた事はなかった。今までの奴らと同じなどとはな。」
思いっきり落ち込みかけて・・・気がついた、言い方が変だ。

 「お前の前に18人が来た。だが本当のガードは2人だけだ。あとは・・・・・奴らはガードじゃない。」
 「ガードじゃない?」
おれは思わず聞き返した。
 「名前がガードなだけだ。奴らは・・・・自分の力を誇示したいだけだ。」
オスカルは冷笑した。

皮肉っぽく笑う事はよくあったが、これはそうじゃない。
凍りつくように冷たい。
いつものオスカルではない、何か・・・・変だ。

 「だが、そのおかげで楽しめる事もある。」
オスカルは続けた。
 「銀龍は、ガードが変わると最初のうちは頻繁に来る。つまり腕試しだ。奴らは自分の力を誇示したいから・・・この期間はそれなりに面白いものが見られる。そして、銀龍は決める。こいつとは、どの程度の力で遊んでやればいいかを。」
 「遊んで・・・やれば?」
 「19歳の誕生日前まではそんなものだ。それがもし、わたしの・・・・」
オスカルは言いかけて・・・・フッと笑った。

 「まあいい。とにかくもう3週間だ。銀龍はいまだにおまえの力を図りかねてる。おまえが力を使うのは一瞬、ほんの一瞬だから。おまえは本当によく見てる。銀龍が現れるか現れないかで斬るからな。剣道というより居合いだ。だから出鼻を挫かれて、奴も今回は・・・・いつになく慎重だ。」
全部・・・わかってたんだ。

 「生まれた時からだ。気づかないとでも思ったのか?」
オスカルは苛立たしげに言った。
 「何故そこまで隠そうとする?わたしに銀龍が来た事を気づかせないようにする為か?
このわたしが・・・・奴を、銀龍を怖がっているとでも思ったのか?」
 「・・・・・ごめん、余計な事だった。」
おれの言葉にオスカルは小さく溜息をついた。

 「・・・・させてやってもいい。」

しばらく間があって、オスカルはぽつりと言った。
おれは訳がわからなくて、オスカルを見つめた。
オスカルはプイッとそっぽを向いた。

 「オスカル?」
 「だから!」オスカルは言った。
 「だから?」おれは聞いた。
 「・・・・おまえならガードさせてやってもいい。アーロンには全然劣るが、それは我慢してやる。」
ちょっと怒ったような口調、でもこれは・・・・・・
 「あ、ありがとう。おれ・・・・」
オスカルは、暫くおれを見ていた。
それから・・・・
 「アンドレ、おまえは本当にわかりやすいな。」
そう言って、面白そうに笑った。