ばあやは期待に満ちた顔をしてオスカルを見た。
オスカルは苦笑すると 「全くもって疲れたよ。」 と答えた。それを聞いてばあやは納得した様子で頷いた。

 「それはそうでございましょう。で、どうでございました?」
 「何が?」
 「皆様のご様子でごさいますよ!称賛の嵐、ダンスの申し込みが引きも切らなかったんでございましょう!!」
ばあやは夢でも見るようにうっとりと言った。

 「さあ、どうだろう?」
しかしオスカルは気のない返事をした。
 「それより脱がせてくれないか。疲れたよ。」
 「オスカルさま!」
 「何だ?」
 「先程着たばかりではありませんか!」
 「3時間は着たぞ、もう十分だ。」
 「オスカルさま、せめてもう暫くこのままで・・・」
 「いやだ。」
 「オスカルさま〜〜」

オスカルはばあやではではなく、侍女に声をかけた。
 「アンナ、早く脱がせてくれ。苦しくてたまったものじゃない。」
侍女はちらりとばあやを見た。ばあやは肩を落とすと侍女に目配せした。

 「やはりこの方が楽だな。」
ブツブツと文句を言うばあやを尻目にオスカルは満足げに呟いて侍女に声をかけた。
 「悪いがブランデーを用意してくれないか。」

 「オスカルさま!」

侍女が返事をする間もなくばあやは叫んだ。オスカルはうんざりした様子でばあやを見た。
 「いいか、ばあや今日は本当に!疲れたのだよ。」
 「それとこれとは別でございます!ワインになさいませ!」
しかしオスカルは侍女を見ると 「すぐに持って来てくれ。」 と命じた。侍女はばあやをちらりと見た。
 「ワインをお持ちしなさい。」
ばあやは命じた。オスカルはばあやを見て口を開こうとしたが暫し考えると侍女を見た。

 「なら、アンドレに持ってこさせてくれ。」
 「あの・・・」
 「どうした?」
 「アンドレはおりません。」
侍女の代わりにばあやが返答した。オスカルはばあやを見た。

 「あの馬鹿なら飲みに出かけました。」
ばあやは答えた。それを聞くとオスカルの顔は露骨に不機嫌になった。
 「すぐにクロードに呼びに行かせましょう。」
ばあやはつかさず言った。

 「お嬢さまが必要な時は何をさておいてもはせ参じるのがアンドレの勤めでございます。“ワイン”を飲むのに!必要ならばすぐ呼びに行かせます。ええ!場所も分っておりますとも。こんな時の為にちゃんと聞いておきましたから。」
ばあやは威張って答えると酒場の名前と場所を言った。それを聞いてオスカルは呆れたようにばあやを見た。

 「戻るのに1時間以上はかかるではないか?」
 「そう言えば・・・その位はかかるかもしれませんねえ。」
ばあやは考え込んだ。白々しく考え込んだばあやの様子にオスカルは苦笑した。

 「分ったよ、ばあや。ワインはもういい、今晩は酒は止めだ。」
それを聞いてばあやはうれしそうに笑った。
 「では、ショコラをお持ちしましょう。」
 「いやいい。」
オスカルは微笑んだ。
 「今日はもう休むよ。」