「・・・見世物だな。」
金色の髪の子供は、出されたショコラを見つめてぽつりと呟いた。
それを聞いて子供にショコラを出した老女は 「一体何のことでございますか?」 と尋ねた。
子供はちらりと彼女を見るとショコラの入ったカップに口をつけて一口飲んでから答えた。
 「僕は式典で見世物なると言っているのだ。」
 「まあオスカルさま!見世物ではなくて!オスカルさまのお顔をひと目見たくて!でございますよ。」
老女が笑って答えるのを見て、子供は 「ばあや!それが見世物だろう?」 と言ったが、彼女は取り合おうともしなかったので、子供は機嫌が悪そうにショコラを口に運びながら、少し離れた所でホテルの従業員が花を花瓶に活けているのを黙って見つめた。
従業員は花を活け終わると、それに気づいて 「何か御用でも?」 と子供に尋ねた。
 「今日の式典には何人ぐらいの人が来るのだ?」
 「300名程だと聞いておりますが。」
 「・・・探すのが大変だな。」
子供は考え込んだ。それからまた尋ねた。
 「子供は・・・何人ぐらい来ている?」
それを聞いて従業員は首をかしげた。
 「いえ、いないと思いますが。」
 「いないのか!」
 「ええ、確か。私は担当ではないのではっきりとした事は分かりかねますが・・・お友達ですか?」
 「あ、ああ。」
 「でもきっとお友達が見つけてくださいますよ。」
従業員は答えた。
その言葉に子供は考え込んで、黙って頷いた。
従業員はその様子に微笑むと会釈をして部屋を出て行った。
子供はそれからしばらくじっと何かを考え込んでいたが、不意に 「ばあや。」 と名前を呼んだ。
ばあやは急いで子供の側までやって来た。
 「何か御用でございますか?」
 「あのね、ばあや。」
それから子供は口篭ったが、意を決した様子でばあやの顔を見て尋ねた。
 「僕でもドレスを着たら・・・ちゃんと女の子に見えるかな?」
それを聞いてばあやは驚いて叫んだ。
 「何をおっしゃいます!おじょうさまは!どんな格好をなさっても!どこから見てもかわいらしい女の子でございます。ですがドレスを着られたらそれはもう・・・まさか!オスカルさま?」
 「今日はドレスを着る。」
 「オスカルさま!それは間違いございませんね!本当でございますね!」
 「ああ。」
 「分かりました!お待ちくださいませ!ええ、持って来ておりますとも!いつかこんな日の為に・・・少しお待ちくださいませ!すぐに持って参りますからね。」
ばあやは慌てて部屋を飛び出した。