イスローさんのアレクサンドリア一人旅

9月21日 「観光」なるものもしてみる
 「君が愛してくれないなら僕は死ぬ」 

 今日は銀行でお金をおろそうと朝から街に出掛けた。しかし、ATMの機械がどこも故障していて6軒目でようやく使用可能な機械を見つけた。壊れたら早く直しましょう!

 銀行があるエリアはかなりの中心部だと思うが、ここにも日本人は皆無で、というより東洋人すら全くいない。従ってかなりの注目を浴びることになる。マグディと一緒にいてもそれは露骨で、ほとんど全ての人からのジロジロ光線に体が痛いような気がした。

 私たちだって日本にいる外人を珍しそうに見ることはあるけど、ちょっと遠慮がちに見るよなあー…。

 銀行の用事を済ますとマグディが「モンタザ公園に行こう」と言った。初めての「観光」と呼べる行動ではないですか! わーい!

 この公園はメチャメチャ広くて、中は車で移動するようになっている。建物もヨーロッパ調で、ここにいるとエジプトにいる感じがしない。海沿いの道を散歩すると海水はとてもクリアで美しく魚釣りを楽しむ人も大勢いる。

 モスリムの男女が外でいちゃつくことはイケナイ事と本に書いていたけどそんなことはない。この公園でも、わがアパートの前の公園でも男女1組ずつ適当な間隔をおいて愛を語り合う姿をよく見かける。それに若者の服装は結構欧米化されていて女の子もスカーフ無しだったり、半袖で肌が見えてたりする子もいる。

 ケンタッキーで昼食を食べたとき、外の駐車場にオヤジがいて止める場所の誘導などをしてくれていたのだが、出て行くときに普通に出て行こうとするといきなり後ろから「ピピーッ!!」と笛を吹かれ、何事かと思って窓を開けると「バクシーシくれ。」チップをここまで派手に当然のように要求するなんて、驚きを通り越してなんかおかしくて大笑いした。そういえばモンタザ公園の駐車場を出るときも、頼みもしないのに窓ガラスを拭いてくれたりして(しかもあまりキレイにならない)、それで「バクシーシ」をもらう人もいる。極めて強引な商売だ。でも、こっちの人って「頼んでないんだからお金払わないよ」などとは言わない。持つ者は持たざる者に与えるという、これが「喜捨」の精神なんだろうか…。

 家に帰ると水がなかったので近所に買い物に出掛けた。初めての徒歩での外出だ。

 商店街に入って行くと案の定痛いくらいの視線を浴びる。通りの向こう側からは口笛が「ピューッ」気にしない、気にしない、と言い聞かせながら適当な店に入り、「水ください。2本」と言った。通じた。店のおじさんもアラビア語が話せるのが分かると、うれしそうにいろいろ話しかけてくれた。すっかり気をよくし、帰ってくる。

 シャワーを浴びることにする。ここのシャワーは水の出る方向が悪く浴室全体が水浸しになるのと、水の出もショボショボなので、本日より「新方式」を採用! といってもキッチンから鍋を持ってきて、それに水を汲んでは体にかけるという「日本式」に変えたまでなんだけど。これだと外に水が出ないし、髪を洗うにも水が勢い良く流れ、グッド。

 あとはぬるくてもいいからお湯も出れば言うことなし!!なんだけどなー…。

 さっぱりしたところで洗濯をして読書。いつもはバルコニーで読書してたんだけど、今日は向かいの公園に出掛けてみた。視線は痛いが海風が心地良い。この海は地中海なので見渡す限り水辺線でその向こうはイタリア?ウソみたい、自分がそんなところにいるなんて…。ここは東西に伸びるアレキの海岸線のちょうど真ん中あたりになるので両側に広がる町並みを見ることができる。大体ビルはうすいベージュで、間違っても日本やハワイのようなガラス張りピカピカビルなどはない。やはり町並みが同じ色合いで統一されているというのは美しいものだ。表から見てるだけなら…。

 このベージュの建物群はたいてい古くて、路地にはゴミが溢れている。そういえば電車でアレキに来る途中も線路沿いが建物の裏側になっている場合、そこには必ずゴミが堆積していたっけ。とりあえず表から見えなければいいという考えなのか、自分だけ良ければいいという考えなのか、これだけは小さい頃から「ゴミを捨ててはいけない」と厳しくしつけられた者にとっては耐えられない光景なのだ。マグディをはじめ街の人も平気で道路にゴミを捨てる。「掃除する人がいるんだから捨ててもいい」という言い分も分かるがこれだけはどうしても「郷に入らば…」とは行かなかった。

 昨日までは何か心細くて外に出るのが億劫だったけど、だんだん度胸もついてきた。

 道路も一人で渡れるようになったし…。

 この道路横断は非常に問題で、とにかく車がものすごいスピードで飛ばすし交通量も並ではないので、待ってるといつまでも渡れない。

 3車線のうち手前の車が途切れたら、とりあえずそこまで渡ってしまう、というのがこちらのやり方らしいので車と車すれすれのところに人が立ってたりする。友達の息子はこうやっていて足をタクシーに轢かれたらしい。しかも、カイロと同じく車線があるようなないようなもので、「あー!ぶつかる!!」というようなことは1分に1回位の割合で起こる。

 車の中でアラブポップスを大音量で聞きながら走っている人も多数いる。この歌詞はほとんがラブソングらしく、マグディ訳によれば「君が愛してくれないなら僕は死ぬ」「君の頬はリンゴのように美しい」「君がそばにいれば幸せ」「君は花のようだ」などなど、

 歯の浮くような歌詞が並ぶ。でも、これってエジプト人のよく言ってる事じゃないだろうか。モハメッドやターリクはいつもこんなこと言ってるような気がする。いわばエジプト男性の礼儀のようなものか…。

 通り沿いのカフェの数といったら、10メートル歩けばカフェという位たくさんあって、シーシャをふかしながらじーっと座っているおじさんや、ずーっと話をしている人がいたり、ゲームをしてる人がいたり、でも、一体この人達の職業って何なんだろう?

 やっぱりイスラムの影響か、カフェには女性はほとんどいなかった。

 今日は何をするわけでもない一日だけど、何にもしない一日は時間がゆっくり流れていく。海辺でボーッとするだけの旅行ってのもいいもんだ。せっせと有名な場所を見に行ったり名物を食べたりするだけではなくて、人々の生活を観察しながら同じように時間を過ごすのも旅のまた別のおもしろさだと思う。今回はマグディのおかげで彼の友達の輪に加えてもらって、また車で路地裏やダウンタウンにも行けるし…。感謝、感謝。

 友達をとても大切にするここの人達。タバコを吸う時も自分が一本取り出すときには必ず他の人にも勧める。私にも勧める。残念ながら私は吸わないけど。

 だんだん太陽が傾いてきた。ここは夕日が海に沈むところが眺められる。6時半ぐらいになると太陽が水平線に近くなり私の座っている場所まで「光の道」ができる。黄金色にキラキラ光ってそれはもう感動的に美しい。その光を背にして海で漁をする人が影絵のように浮き出して、映画のシーンのように印象的な光景になっていた。海岸沿いのベージュのビル群は夕日に照らされると薄いピンク色に変わる。アレキはなんて美しい街なんだろう…。なんだか妙に感傷的になってるなー。そろそろ部屋に帰ろう…。

 部屋に帰ると眠たくなったので少し眠る。

 9時半に目が覚めた。お腹空いたよー。一体マグディは来るのやら来ないのやら。うだうだしてるうちに夜中になってしまった。外でご飯を食べようと思ったけどどうしても一人で出ていく勇気が出ない。もういいや。寝ようっと。

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