大江戸倶羅羽弗城南町奉行所捕り物帳
〜2〜





「御奉行様の御ん前だぞ!」
「神妙に御縄を頂戴しろ!」
「ぼ、僕たちが何したっていうのさ〜〜〜!!」
「こんなことをしてただで済むと思ってんの!?」

盗桝と美瀬流がお白洲に行くと、そこにいたのは菅笠に白装束に輪袈裟に手甲脚半。
首から下げた頭陀袋(ずだぶくろ)。左手には念珠、右手には金剛杖・・・
つまり、お遍路さんのカッコをした少年少女。
2人は屈強の同心たちにとりおさえられ、何とか逃げ出そうともがいている。

その光景を見て盗桝と美瀬流は呆然とした。
「これは意外でしたね」
「・・・ホントにこいつらなのか?」

「痛いってば!はなして!」
言うが早いか、少女は金剛杖を振り上げた。

ぶ〜〜〜・・・ん
どこからともなくハチの大群がやってきて、盗桝たちを刺しまくる。

「あち、あち、あち、あち!!!」
「殺虫剤をもて!早くしろ!」
「おのれ、妖しの術を使いおる!」
「やはりおまえたちの仕業だな!」
「なんのことだよ〜〜〜!!」
「そのようなことは、ぬしらの方がよく知っておろうが!」
「取り押さえろ!」

少年が叫ぶ。
「よけいに疑われちゃったじゃないか〜〜!
紅莉巣のおたんこなす〜〜〜!!」
「ぬわんですってぇ!?」
紅莉巣と呼ばれた少女の髪が逆立ち、金剛杖に気がこもる。

杖の先が少年に向いた途端、少年の頭に火がついた。
「わああああ!!!」

駆け回る少年の火の粉があたりの木に飛び散った。

「大変だ!!」
「はやく水を!」
「火事になるぞ!」

倶羅羽弗(江戸)の町は冬ともなれば空っ風が吹き、異常に乾燥する。
わずかな火でも大火になる可能性は大きい。

「火消しを呼べ!」
「いまこちらに向かってます!」

どどどどどどど・・・
イノシシのような地響きがあたりに轟いた。

「火事はどこだぁぁぁぁぁ!!!」
割れがねを踏み潰したような雄たけびとともに
『ば』の字の纏(まとい)をかついだ筋肉隆々の火消しがなだれ込んできた。

「この火事は私のものよ!!!」
けたたましい叫び声とともに今度は
『す』の字の纏を持った女火消し軍団も乱入してきた。

「お、おまえは花火師の巣寺!」
「そういうあんたは馬奪斗!」
「花火師のおまえが何で火消しなんかやってるんだ!」
「冬は花火はお休みなんでね。出稼ぎ(あるばいと)さ」
「火消しは男の仕事だ!危ねえから下がってな!」
「何さ!女と思ってバカにするんじゃないよ!」
「なんだと!!」

「おまえら!けんかしてるヒマがあったら早く消さんか!!」
盗桝の怒号が飛んだ。


ぜーはーぜーはー・・・

半刻後、盗桝たちの必死の消火活動で何とか鎮火した。
「さーて、こいつらをどうするかだな」
盗桝は指をボキボキ鳴らす。

少年少女は押さえこまれ、息をするもままならない状況で、
やっとのことで首を出す。
「僕たちはただの巡礼の旅人だよ〜!」
「巡礼の旅人がこんな火事騒ぎを起こすか!」
「そ、それは紅莉巣が・・・」
「なによ!わたしのせいだというの!?」

巡礼と言う言葉に美瀬流の目が輝いた。
「話を聞きましょう。その手をゆるめなさい」

「そなたたち、名をなんと申す?」
「僕は樹里雄(じゅりお)です」
「紅莉巣(くりす)です」
「みたところまだ子供のようですが、なにゆえこの町に?」

「ガガーブ霊場88ヶ所巡りです」
「僕たちの村で行われている成人の儀式なんです」

盗桝と美瀬流は顔を見合わせる。

「ホントにそんな風習があるのか?」
「そういえば、そういう風習があるのを聞いたことがありますね」

「これが終わればめでたく私たちは大人になれるんです」
「とんでもない儀式だ」
「わかったら邪魔をしないで!」

盗桝と美瀬流は腕組みをして考え込んだ。
「そういうわけにはいきませんよ」
「江戸の町では火付けは死罪・・・」
そのほうたち、年はいくつだ?」
「僕は14」
「私は15よ」
「ぬうううっ・・・まだ子供か。それでは死罪に出来ぬ」

「子供だから成人の儀式をやってんのに・・・」
樹里雄は呆れている。
紅莉巣はぼそっとつぶやいた。
「・・・バカね・・・」

「よし。おまえたちは島流しだ」
「えええええ〜〜〜!!」
「そんな〜〜〜、旅の途中なのに〜〜〜!」
「子供のままでいろって言うの!?」
「うるさい!死罪になるよりマシだろーが!」

お白洲から引きずられていく2人。


「・・・まったく、いらん時間をくっちまったぜ」


〜続く〜






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