大江戸倶羅羽弗城南町奉行所捕り物帳
〜3〜





「神妙に御縄を頂戴しろ!」
再び同じ科白で始まる。

「風留ちゃん!」
「ええい、離さんか〜〜!!!」
「ぼ、僕たちが何したって言うんだよ〜〜〜!!」
「ほりゃ〜〜〜〜っ!!!」
老人の繰り出す鋭い拳に、同心のひとりが吹っ飛んだ。
「やった!じいちゃん必殺の岩砕き(ろっくらっしゅ)!!」
「どんなもんじゃい」
一瞬、同心たちの表情に動揺が走った。
「こ、こやつ、只者ではない!!」
「人海戦術だ!!」
「全員でとりおさえろっ!!」

「ぐわああっ!」
「じいちゃん!!」
たくさんの与力に一気に攻撃を受けてはさしもの老人も叶わず、とりおさえられた。

盗桝と美瀬流がお白洲に行くと、そこにいるのは背中に三味線をかついだ少年、
篳篥(ひちりき)をもった少女、筝(こと)を持った老人の3人組。
着ているものといえば、黄色に赤に青に緑・・・
原色を多用した人目を引きそうな派手な着物を着ている。
老人の力を抑えるために、3人もろとも鎖に繋がれていた。

「なんとも派手なやつらだな」
「僕たち、旅の楽団なんです〜!!」
「楽団?」
訝る美瀬流たちに、同心のひとりが耳打ちした。
「うわさでは、楽器を弾きながら石を飛ばしたり病を治したりするそうです」

「なんと不思議な力を・・・」
と美瀬流。
「あやしさ大爆発だな」
・・・盗桝・・・

美瀬流は3人に向き直った。
「そのほうたち・・・名をなんと申します?」
三味線少年が答える。
「風留斗(ふぉると)です」
続いて
「卯奈(うーな)です」
と篳篥少女。
「わしは幕辺飲(まくべいん)と申す」
最後に筝老人が言った。

盗桝が言った。
「おい、旅回りのちんどん屋」
「楽団じゃ!!」
怒鳴る幕辺飲。
「そのカッコじゃどっちでもいっしょだ。なぜこの町に来た」
ちんどん屋といっしょにされて憮然とした表情の幕辺飲。

「わしらは日本中で失われた楽曲を求めて旅をしておる」
「失われた楽曲?」
美瀬流が興味を示した。

「弁天様がワシの夢枕に立たれたのじゃ。
長い歴史の間に人々の記憶から忘れ去られた曲は多数存在する。
せっかく世に生み出されてきたのに忘れ去られてしまうなんて
哀しいことじゃとワシにすがり付いて泣かれるのじゃ。
じゃからワシは全部見つけてみせると約束した。
失われた曲を復活させるのがワシの使命じゃ。
達成せぬうちは死んでも死にきれん」

美瀬流がもらした。
「失われた曲・・・いったい、いくつ存在するんでしょうね」
「・・・100やそこらじゃきかんだろ・・・」
盗桝は半分呆れている。
「しかしだ。失われた曲なんてどうやって探すんだ」
もっともな問いである。
「古墳や墓の石に刻まれておるらしい」
「それじゃ墓荒らしじゃねぇか」
「所有者にちゃんと許可を得ておるからだいじょうぶじゃ」
美瀬流と盗桝の背中に冷たいものが走った。
「・・・では、所有者というのは・・・」
と美瀬流。
「ゆ、幽霊かよ・・・」
動揺を隠せない盗桝。
「何を言っとる。その子孫にきまっとるじゃろ」


美瀬流が提案した。
「ところで、今まで見つけた曲の中からなにかひとつ、聞かせてくれませんか?」
「おお、それはお安い御用じゃ。
風留斗、陸奥(みちのく)を旅したときに発見した幻の曲を演奏するんじゃ」
「んん、おっけー」
・・・横文字を使うなと言うのに・・・(管理人)

風留斗は三味線を構えた。

べんべんべべべべべんべん・・・
べべべべべべ・・・

津軽じょんがら節を演奏しはじめた。
その場にいた者みな、その軽妙なバチさばきに聞きいっていた。

どこからともなくごごごごごごと地鳴りのような音が響いてきた。
盗桝は、この音に聞き覚えがあった。
「・・・なんだ、この音は」
「・・・津波のようですが・・・」
と美瀬流。
「だよな。しかし・・・ここは海から離れているぞ」
「ええ・・・」

じょんがら節は佳境に入り、風留斗の演奏にもさらに熱が入る。
そのとき。

ざばーーーーーっ!!
「わあああぁーーーーっ!!」
お白洲に鉄砲水が突っ込んできた。

幕辺飲が怒鳴った。
「このバカ者!!」
「わあああっ、ごめんなさい〜!」

同心たちが流されていく中、ひとり冷静な美瀬流。
「楽器を弾きながら石を飛ばしたり・・・というのはこういうことだったんですね」
「拉普!おまえがヘンなこと言うからだぞ!」
「こんなことになるなんて予想できませんよ」

「まったくしょうがないのぉ」
幕辺飲は筝を弾き始めた。

ちゃんちゃんちゃん♪♪♪〜〜

曲が進むに連れ、水の勢いが弱くなってきた。
と、幕辺飲めがけて薪が流れてきた。
「おっと」
幕辺飲はひょいっとかわす。

♪゛〜〜
薪をよけた拍子に音程がずれた。
再び水の勢いが強くなる。

「もう少しだったのに〜!じいちゃんのヘタっぴ〜!!」
「なんじゃと!」
「もう、御奉行様の前でケンカしないでよぅ!」
卯奈が篳篥を吹いた。

ぴーーーひょろろろ・・・
軽快な篳篥の音が響く。

ごん

盗桝のそばに岩の塊が落ちていた。
盗桝本人は気絶していた。
風留斗がポツリと言った。
「卯奈・・・」
「・・・失敗しちゃったのぅ・・・」


洪水騒ぎが収まり、盗桝の目がさめたとき、彼のあたまには大きなタンコブができていた。

盗桝が問う。
「・・・なんだったんだ、いまのは」
幕辺飲が答える。
「失われた音楽は何かの力を持っていることが多いのじゃ」
「先に言わんか、そういうことは」

美瀬流が感心したように言った。
「音楽にこれほどの力があるとは・・・意外でしたね」
「妖しの術を使うやつらだが・・・
考えてみたら、こんな派手なカッコしたやつらが犯人なわけはないよな・・・」
「普通、犯罪者はもっと地味ですね」
美瀬流も同意する。
「じゃ、疑いは晴れたわけじゃな」
「しかし・・・このままほうっておくことはできんな」

盗桝は同心たちに命令した。
「音楽で危害を加えるとは不届き千万!
ひっ捕らえろ!」
「ええええ〜〜〜っ!!」
「なぜじゃぁぁぁ!!」
「島流しだ!無人島なら誰にも迷惑はかからん!」

しかし、同心たちはひそひそ話をしていた。
「音楽で危害を加えるってよ」
「親分の歌と大してかわらないよな・・・」
「こっちのほうがマシだぜ」
「お・ま・え・ら〜〜・・・!」



〜続く〜






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