休日




「あっ!殿下が!」
「またいなくなったのか!?」
「おひいさまぁ〜〜〜!!」

ここはコルナの村。
フィルディン王女、ミルディーヌ殿下ことミューズは、王女の公務として視察旅行にきていた。
首都から遠く離れて暮らしている人達の声を聞くために数年に一度視察旅行を行なっている。
今回は王族からはミューズが代表としていくことになった。
本日の宿泊先はコルナ村の神殿であった。


早朝。まだ誰も起きているものはいない頃、ミューズは神殿の外に出た。
お付きのものもなく、見張っている人もいない。
初めて味わう開放感に、ミューズは大きく伸びをする。

「まったく毎日毎日謁見ばっかり!
謁見でみんなが本音を話すと思ったら大間違いよ。
下々の者の生活を知りたいのならわたくしが自分でききだしますわ」


その頃、ミューズ一行が利用している宿屋では大騒ぎになっていた。

はじめてきたこの地方で、地理に暗いとたかをくくっていた女官たちを大臣が叱り付ける。
「あれほど殿下から目を離すなといっておいたのに!」
「も、申し訳ありません!」
「とにかく殿下がいなくなったことが分かったら一大事だ!
探せ!くれぐれも内密にだ!」
「ははっ!」


コルナ村を出てしばらく歩いた所につり橋があった。
そこを渡っていたとき、突如として吹いた突風に煽られた。
「キャッ!」

つり橋は大きくゆれ、橋の手すりにしがみつこうとするも間に合わず
ミューズは橋から振り落とされた。

橋からまっさかさまに落ちたミューズは
そのまま川に落ちてしまった。

そこにやってきた一人の青年。
青年は本を読みながら歩いている。
橋を渡ろうとしていた。
と、そのとき風に乗って女性の悲鳴とも罵声ともつかない怒鳴り声が聞こえてきた。

「誰か〜〜〜〜っ!わたくしを助けなさ〜い!」
「たいへんだ!女の人がおぼれている!」

青年は慌てて川縁に駆け寄った。
ミューズは青年の姿を認める。
「いいところにきたわね!早く助けなさい!」
「は、はい!」

いわれた少年は本をぱらぱらとめくりはじめた。
「え・・・っと、おぼれている人を助けるにはまずテレポートして
それから・・・」

「なにやってんのよ!
私はおぼれかけてるのよ!
本なんか読んでいないで早くなんとかなさい!」

「でも僕はまだ学生なのでこれがないと魔法がつかえないんですよ」
「そんな魔法にたよるのはおやめなさい!」
おぼれそうになりながらも高飛車な態度は変わらない。

あたりをみまわすと、近くの木につたが絡まっている。
それを引き切ってミューズに投げた。
ミューズの手はそれを捕まえる。
青年は地引網よろしくつたを手繰り寄せ、ミューズを川岸に引き寄せた。

「一体どうしたんです?」
「げほっ、げほっ」
ミューズはまだ呼吸が落ち着かず、咳き込んでいる。

「つり橋を渡っていたら突然風が吹いてきて・・・」
「飛ばされたんですね?」
「失礼ね!ちょっと川に飛び込んでみたかっただけよ!!」
青年はくくっと笑いながら言った。
「ムチャをする人だ・・・今の時期は風が強いのに」

「あなた、名前をおっしゃいな」
「マーティです」
「気品は感じられないけどいい名前だわね。
あたくしのことはミューズと呼んでもよくってよ」
「よくってよって・・・では他に名前があると?」
「女には秘密があるものよ。余計な詮索はおやめ」
「高飛車な人だなぁ・・・」

「マーティ、あなたはこのあたりのことは詳しそうね」
「え?ええ、まぁ・・・」
「ではわたくしを案内なさい。」
「え、ちょ、ちょっとまってくださいよ。
私はこれから大事な用事で・・・」
「わたくしを案内する以上に大事な用事があるというの?」
理不尽な言い分ではあったが、有無を言わせない迫力にマーティは負けた。


続きを読む





小説のページに戻る