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読書記録2004年1月


『狂人日記 他二篇(ネフスキイ大通り,肖像画)』
ゴーゴリ,訳:横田瑞穂(岩波文庫)1835/★★★★

−雑記−

『ネフスキイ大通り』
ナイーブで純情な絵描きの青年ピスカリョーフ(清純なロマンティシズムの
破滅)と、世慣れた厚顔な青年将校ピロゴーフ(卑俗なリアリズムの強靭さ)
を明瞭に対比することで、華やかなネフスキイ大通り(人々の目を惑わす
都会の魅惑的幻影)の現実を暴き、それに無防備に惹かれぬよう注意を喚起
する。

『肖像画』
貧乏だが才能ある画学生チャルトコーフは、ひょんなことから一枚の不気味
な肖像画を手に入れる。その肖像画の額縁に隠してあった大金を手にした
ことで、己自身の芸術を追求する情熱が消失し、画家への修行を投げ出して
しまう。幾年月スノビッシュな放埓な、社交界に迎合した空虚な流行画家
としての生活を突っ走り、ついには才能を虚しく枯渇せしめてしまった絶望
から狂い死ぬ。その絵画にはいわくが、黒々しい由来があった…。

『狂人日記』
身分の違いから叶わぬ恋に身悶え、発狂した小役人、「おれ」の手記。
片思いする相手に相応しからぬ自分自身に愚かしく、しかし深刻に懊悩
する姿には、他人事ながら胸が痛む。

−名文の抜粋−

…それ(創造の深い神秘)をわが手に入れたものこそ、もっとも仕合せ者
といえる、選ばれた者といえるのだ。それをわがものとした者には、この
自然に、ひとつとして卑しい対象はない。つまらぬ、とるに足りないもの
を対象にしても、創造の力を持った画家は、大いなるものを対象にしたの
とおなじように大いなる作品を創りだすのだ。卑しむべきものを対象に
しても、その画家にとって卑しむべきものはなにもないのだ、なぜなら、
その卑しむべきものをとおして、それを創りあげた者の、みごとな精神が
目には見えないながら透いて見えるからだ、そして卑しむべきものも、
すでにそこでは、気高い表現をあたえられているからだ、なぜなら、
それは画家の魂により清められて流れでてきているからだ。…p.168,『肖像画』より


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