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小阪修平著『考える力がつく「論文」の書き方』の要約ノート


論文とは論じる文であり、論じるとは
1.あるテーマ(テーマ)について
2.自分の観点や主張(中心命題)を
3.他者に対して説得的に述べる(根拠)こと
である。カッコ内を論文の三要素と呼ぶ。
論文とは、言葉によって自己と他者、自己と世界をつなぐことである。

心構えと手順。

1.テーマを与えられたら自分の生きた体験や感じ、経験などから具体的に連想
する。考えるということの一つの側面は、具体的なことと一般的(普遍的)
なことを往復するということである。

2.自分とは異なる他の考え、意見をイメージし、自分が連想した考えと対照
させる。つまり「他者」を視野に入れ、反論を想定する。このことで自分の
考えが他とどう違うか意識しよりはっきりさせることができ、同時に問題の
所在を明確にすることができる。

3.自分の考えが通用する範囲を限定する。考えて論じるとは、整理しながら
つなぎ、また限定していくことである。

4.自分の考えを他者にも通じるよう、より一般化した言い方にする。自分
から出発し、自分の外に出る、これが論文を書くときの望ましい態度である。

5.考えの根拠を考える。
根拠となるのは具体例、一般化した言い方、結論を出すプロセスである。

論文とは考えを共有する技術であり、そのためには4,5の発想が不可欠。
また、考えを共有するとは同じ考え方になるということではなく、自分の考え
を相手に開く、つまり自分の思考の道筋を知ってもらうということである。

論文を書くには、とにもかくにもまず何らかの問いを発し、観点を持つと
いうことが重要だ。問いがはっきり立つと問題は整理されてくる。
考えを深めるため、あるいは議論を補強するため、基本的な観点とは別に
テーマを広げたり副次的な観点を用いるのは効果的ではあるが、
あまり観点を増やしすぎると議論が散漫になり失敗する。

きちんとした論文の条件として
1.キーワードになる言葉の範囲を明確にせず曖昧なまま用いないこと
2.テーマの重なり合いや原因・結果の関係(論理の順序)をごちゃごちゃに
しないこと
この二点が挙げられる。
テーマを色々な観点と関連づけて発展させるのは大事だが、これを抑えない
と結局は問題がずれてゆく。それぞれのテーマが持っている問題にしっかり
正面から取り組むことが、きちんとした論文を書く第一の秘訣である。

発想のプロセスは、現象の読解→その直接的な原因→大きな社会的背景
→その弊害や問題点→対応策あるいは考え方、という順序ですすむ。できる
だけ丁寧に、なるべく具体的に原因・結果の関係をつないでゆくことが大切だ。

自分から世界へ至る、テーマの関連について。
人間と世界そのものの間には、
「社会(政治)・経済」「近代(の見直し)・科学技術」「文化」がある。

人間−(教育・メディア)−「現代社会・政治経済」−(グローバル化・民族問題・南北問題)−世界
人間−(医療・福祉・人間と自然)−「近代の見直し・科学技術」−(環境問題)−世界
人間−(言語・表現・認識・認知)−「文化」−(異文化理解・日本とアジア)−世界

テーマは相互に関連している。それぞれのテーマが持っている一番大きな問題
にきちんと直面したうえで、他のテーマと関連させていくことが必要だ。
まず個々の問題を大きいテーマ、大きな流れ(変化)の中に位置づける。
そして関連しあったテーマにおける基本的な問題と対立する考え方の枠組み
を掴むと、物事を正面から論じられる。つまり、ステレオタイプ的な考えの
枠組みからさらに一歩進んで自分の考えを深めることによって、内容のある
論文が書けるということだ。テーマを連関させると必然的にまた新たな発想
も生まれてくる。

対立を極端に捉え、それに乗っかって図式的な議論を作って満足して
終わらすと、論点のずれた結論になったり、精神訓話型の失敗作になる。
論じるに応じたレベルを逸脱し、問題をいわば究極の原因に還元しても、
説得力に欠ける精神訓話型となり失敗する。イメージばかりを膨らませ、
常日ごろ考えているが答えが出ない自分の世界へ引っ張っていってしまっても、
原因・結果の関係を省略した論理の飛躍の目立つ、他人に思考のプロセスが
見えない失敗作となる。

良い論文を書くための注意事項。

1.課題文がある場合、それと対話する。課題文とのキャッチボールが大切。
課題文の論理のプロセスを丁寧に理解せず、結論だけ表面的にすくって議論
しても駄目。

2.整理してきちんと構成する。

3.あと一歩具体的に書く。具体的なことを一般的に語り、
しかし抽象的になりすぎず具体的にも論じる、具体と一般の往還運動が大切。


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