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読書記録2003年9月


『日本の差法−対談ビートたけし×ホーキング青山』
ビートたけし×ホーキング青山(新風舎)2002.10/★★★

−感想−

お二人はお笑い芸人、その対談ということで、愉快な時間を過ごさせて
もらった。しかしホーキングさんの養護学校の赤裸々な実態暴露はかなり
エグイ、同じ一種一級の身障者である僕もかなりひいてしまったぞ。

さて本題。何かを遮断して遠ざければ当然その実態が不透明になり把握
できなくなるわけで、言葉はあってもその意味、内容が空虚になる。
するとその空隙を埋めるために神話作用が働いて、実際とはかけ離れた
イメージが創り出され、まことしやかに流通する。世間の障害者像という
のは、二人の仰るとおりある意味隔離政策とも言えるような福祉政策に
よって健常者と障害者の分離が進んでしまい、そのため、妙に純化され
理想化されていたり、または度を越して無根拠に貶めたものだったりする。
それに対する疑問と反発が二人にはあって、それでともすると反感を
招きかねないこういうアンチテーゼを提出しているわけだ。

健常者と障害者をあらかじめ隔てた上でバリアフリー云々言うんじゃなくて、
愚にもつかない憐れみや気遣いを一切捨てて、属性を超えた一対一の個人
として関わり、慣れて、身近な存在としての関係を築くことこそ大事なこと
なんじゃないの、という二人の主張は、心理的な意味においてはまったく
正論である。あらかじめバリアを張られて「障害者=腫れ物」みたいな接し方
をされると確かにきつい。もっとも僕の場合は障害云々抜きにしても、
肥えた自意識がらみでこっちが強固な壁を作っているところ大だが。

まあ、時代の精神は"お互い関わらないでも生きていけるドライな社会"を
志向しているわけで、福祉政策、制度でサポートするよりも常に身近に関わり、
それで日本的作法でカバーしよう、ってのは現実から遊離した空論でしか
ない(特別視、差別視を防ぐのに「慣れ」が重要事項であるのは確かだ
けれども)。例え一時でも煩わしい面倒なしがらみは御免こうむりたい、
これがマジョリティの偽らざる本音だろう(僕だって大いにそうだ)。
ならば一人でほっつき歩けるよう、交通機関や公共機関、商業、住宅施設等
の空間的バリアフリーを進めるのは否定されるべき事柄ではない。

というわけでこの本における障害者論、下町理想論っぽい主張は、
暗に見下した心理や自覚せざる優越意識への批判は至極まっとう、
制度上の意見は若干反動(しかしこれもたけしさんは真面目モード
で仕事関連ほか、そうとうイイこと仰っている)、というのが僕の感想だ。


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