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読書記録2003年8月
『少年リンチ殺人事件−ムカつくから、やっただけ』
日垣隆(講談社)1999.6/★★★
−紹介−
平成六年に長野県池田町で起こった少年リンチ殺人事件のルポ。
事件の詳細やその全容を、二年にわたる独自調査から明らかにする。
事件自体もさることながら、後の民事訴訟や当事者となった人々の生活
状況等、ノンフィクション特有のリアルさ、生々しさ、身近さが感じられ、
この事件のあらましが、深く心に刻まれる。
−要約−
少年事件に関する、法律と報道の問題を記録する。
少年法の問題点はふたつ挙げられる。
ひとつは、「(加害)少年の健全な育成」と「(殺人犯)の人権」を重視
しすぎるあまり、被害者の生命と遺族の人権を完全に無視してきたこと。
(被害者遺族の人権という言い方は誤解を招く、著者は若干不用意。)
ふたつめは、秘密主義を採ってきたため誰にも真相が伝えられず、
犯罪が重大であるほど「少年の健全な育成」など期待しがたかった。
つまり、加害者の両親は自分の子供が何をしたのかほとんど知れず、
本人たちさえ自分のことしかよくわからないといったように、
当事者でさえも事件の全体像を把握することができない。
ゆえにそうした事実認識なきところに、
重視されてきた加害少年の反省や更正はあり得ない。
少年による殺人事件を扱うマスメディアにも問題がある。
それはごく「ありふれた」事件であるため、なかなかニュースとして
採用されず、たとえ小さく報道されても、独自調査や検証作業なしの
官報よろしく警察から得た情報の垂れ流しとなってしまう。
ゆえにそうした事件の起こる背景や個別の事情の、
具体的な事態改善策が生まれない。
−感想−
供述調書や実況見分調書、捜査報告書などから、裏付けが確実にとれたもの
だけを採用し克明に復元したという凄惨なリンチ状況には、全身総毛立ち、
血が沸騰せんばかりに憤りと怒りを感じ、また加害少年の親らの事件発覚後
の口裏あわせや誠意のなさ、開き直った態度にははらわたが煮えくり返った。
リンチを実行するに至る少年たちの言動の進み具合は、その場の空気の支配
というか、馬鹿げた妄動、愚行への強力な同調圧力が働いた様子が仔細に
窺えた。なんとなくムカついたしその場の雰囲気でやっちゃった、
といった感じで、そこには加害者らの「責任能力」ならぬ
「行動の結果に対する責任を引き受ける意思」の欠如が見て取れる。
『日本教の社会学』が思い起こされるが、成り行き任せの無責任で、
集団による暴力を過信し思い上がった少年の、抑制の効かない幼稚な残酷さ
とでもいおうか。こんなことで殺されるなんてたまったものではない。
加害少年の反省文では、事件を自分の行動の結果でなく、自然災害かの如く
考えているふしがあるし、命を奪う重大さを周囲に迷惑をかけると同列に
扱うし、少年院出所後も主犯格の少年は同様の集団暴力を繰り返しているし、
要するに全く被害者へ思いを馳せ反省なぞしておらず、更正もできていない。
その他の少年に関してもこの本を読む限り、現行の更正プログラムでは
反省を促し更正させることができていないのだから、改善せねばならない
のは間違いない。今後少年事件も厳罰化の方向で進むだろうが、
ならばその内実、更正プログラムの充実を期待したいところだ。
そのためにも以下のことが重要であろう。
こうした事件の理不尽さや矛盾、問題の、最も重要な要諦は、
つまるところ情報非開示という一点に収斂される。秘密主義だと情報不足で、
加害者の真摯な反省や更正は期待できないし、情報に基づいた実効性ある
再発防止策も出てこないし、マスメディアでの議論も空疎な抽象論や
馬鹿げた感情論となってしまうし、被害者遺族の傷ついた感情も癒えない。
情報を開示したうえで各方面からの研究、議論等が重ねられ、社会政策的措置
が講じられねば、要するに事件から真剣に何かを学ぶ努力をしなければ、
今後も同じような事件が繰り返されるだろう。
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