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読書記録2002年9月


『徹底討論「自己」から「世界」へ』
小阪修平・竹田青嗣・橋爪大三郎・山本哲士・松沢正博・岡野守也(春秋社)

リアルタイムの感想ではなく、2002年12月に知人に勧めるため書いたものに手を加えた記録。

これで討論となるテーマは「全共闘世代とその思想」と、岡野守也による「それを乗り越えた思想の提言」のふたつ。

岡野守也がトランスパーソナル心理学や仏教、禅の思想に依拠しつつ、現代社会や人々への提言を行うが、小阪、竹田、橋爪の三者が相当に手厳しい批判を展開する。私は前者に心情的には共感しないでもないがやはりいかがわしさは拭えず、後者に説得力を感じた。

岡野の提言を要約すると…。
世界は矛盾に満ちていて、このままいくと人類は滅亡する。そして現代人は漠然とした不安や不全感を抱えている。解決策は、全ての人々にエゴを捨てたトランスパーソナル的な意識の変容を起こすしかない。まず知識人や著名人を覚醒させ、次にマスメディアを媒体として大衆に意識改革を促す。そのことによって皆幸福な、愛に満ち一体となった共同世界が実現する
…大意こんな感じだった。

三者の批判は、これはもはや思想ではなく宗教であり、それを社会一般に適用することの危険性、脅迫的物言いの卑怯さ、あとは個人を他者、ひいては世界に融解しようとする志向の無意味さと危険性を指摘すること、に力点が置かれていたと記憶している。

個別の批判は…。
橋爪は「全共闘以来三〇年練った思想がこれとは、ちょっとどうしようもない」と始め、「あなたの主張はファシズムだ」とか「ありえないが仮にそれが実現したとすると、その社会はインドの修行者らが形成する社会のようになると思うが、そこにはそこ特有の悲惨な現実があるわけで、それについてどう考えるか」など。

竹田は「特定の世界像を理念として提示し受け入れてもらうことはもう時代遅れの手法で限界が見えているし、可能性がない」とか「諸個人が抑圧や先行きへの不安を感じているとすれば、理念によって救済を図るのではなく、そのそれぞれの意味を明確にすることが重要だ」など。

小阪は「あなたが夢想する涅槃の世界ほど抑圧的な世界もないだろう」とか、愛、人類、エゴの脱却、といったキーワード批判など。

橋爪、小阪はなにかよほど癪に障ったのかかなり攻撃的で、岡野が可哀想になる場面も多々あった。「体験しなくてはわからない」などと軽々しく言ってしまう岡野には、愚直さとともに思想に対する不誠実な態度を感じた。そして結果的に、トランスパーソナル心理学やニューエイジ系思想の、思想としての脆弱さがよくよく見えた。

再度確認するが、不正確な記憶による記録。


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