読書記録2001年一覧へトップページへ


読書記録2001年12月
リアルタイムで記録をつけていなかったので、手元にない本は2002年2月に思い出しながらの記録。


『社会がわかる本−なるほど!社会はこうみるとよくわかる』
橋爪大三郎(講談社)/社会/★★★★

女性雑誌『ル・クール』に連載されていたエッセイをまとめた本。まえがきによると「大人のための社会科の教科書」とのこと。タイトルどおりだ。

テーマは国際情勢、宗教、脳死、原発、などなど社会のあらゆること。女性誌に連載されていたからか、セクハラについてや結婚相手の見つけ方など、女性が特に関心を持ちそうなことも多くあった。

女性雑誌を見下すワケじゃないが、それに相応しくホントにわかりやすく平易に書かれていて、これなら気軽に誰でも読める。しかしさすがは橋爪さん、内容はバッチリで、楽しく勉強させてもらった。


『マイホームレス・チャイルド−今どきの若者を理解するための23の視点』
三浦展(クラブハウス)/社会学・世代分析/★★★★★

成熟しきった消費社会で、若者の心理はどう変化しているのか?現代の若者、団塊ジュニア世代が「脱所有」のキーワードを軸に分析される。

団塊ジュニア世代はモノを持たない生き方を志向している、と著者は語る。なぜか。所有によって労働に束縛された親の姿、マイ坊ちゃんマイ嬢ちゃんとして自らが親に所有された経験、これらが若者に所有は束縛や苦痛、といった観念を持たせているから。だから若者はモノを持ちすぎず、携帯空間的な必要最小限のもののみを身に付け、定住型から遊牧型を志向しているという。これを著者は「ホームレス主義」と呼ぶ。

私自身が団塊ジュニア世代ど真ん中で、自分自身の世代が冷静に客観的に詳細に分析されるのは、非常に興味深かった。

「脱所有」には非常に共鳴する。
これ以上ものを持っても、幸福を感じることはできない。そんなのはなるべく捨てて、身軽になる方がよほどいい。他の若者もそうだったのだろうか?そりゃ意外だ、というかにわかには信じがたい。多くのデータ、実例で示してくれるのだが、やはりなんだかんだ、大半は消費志向に染まってる気がするのだが…。

脱競争もイイネ。
ガングロ女子高生は自ら醜く化粧をし、知識の向上などということも微塵も考えずアッパラパー、黒けりゃOK。彼女たちは脱競争を最も実践している、上の階層を全く目指していない、といった説にはオオッと驚き、彼女たちへ向ける意識がちょっぴり変化した。でも、あそこまでなりきっていいのか…。

「脱郊外」や「携帯空間」は、あまり意識していなかったが、言われてみれば私もかなりそういった価値観を持っている。

ページをめくるたびにワクワクさせてくれた鋭い分析で、傑作だった。


『現代思想はいま何を考えればよいのか』
橋爪大三郎(勁草書房)/社会学/★★★

かなりハイレベルな内容でついていくのが大変だった。全然覚えていない。

今後のテクノロジーや未来を語るあたりは、橋爪さんにしては現実離れしていると感じられる論が展開されていて少々意外、というか困惑した記憶がある。


『新人類、親になる!』
三浦展(小学館)/エッセイ・社会・世代分析/★★★

バブリーに浮かれていた時代に青年期を送った新人類世代を中心とした、エッセイ調の若者分析。

三浦さんの他の著書と比較すると軽い印象を受けるが、語られることは同じく興味深い。モノも情報も飽和状態、従来のどんな時代とも異質な、未知の時代に突入している。


『民主主義は最高の政治制度である』
橋爪大三郎(現代書館)/社会学/★★★★

思想の流儀と作法、共産主義、アメリカ一極集中、天皇、憲法、自衛隊、国家と民族、イジメ、愛、などをテーマにした論稿集。

タイトルの論稿は「陳腐で凡庸で過酷で抑圧的な民主主義は人類が生み出した最高の政治制度である」だ。しかしそれでもなお「民主主義は最高の政治制度である」ことに変わりない、人類はこれより良い政治制度を知らない、民主主義こそ最も現実的な社会の運営方法だ、ということが説得力抜群に熱く語られる。

以前テレビで塩野七海さんと北野武さんが、ローマのエリートによる寡頭政治への憧憬を込めつつ、民主主義が素晴らしいなんて思っている奴は愚かだ、といったことを語っていた。私は酔っぱらいながら非常に反感を感じた、というのも、ではそれに変わるより良き原理はあるとすればなんなのか、という問いに答えも展望も示さず、ただそれだけ言い放って高みから我々を見下ろし、二人は満足しているように感じられたからだ。アリストクラシーやオリガーキー、そんな政治制度は決して民主主義に勝らない。それはこの本でも語られる。民主主義の欠点を論うだけなら、スケプチシズムきどるだけなら、誰だって、私だってできる。ではより良き社会を統べる方法は、原理は、あるのか?ない。ならば橋爪さんの主張するように、もう少しこの民主主義をタフで成熟したものに変えよう、と考え努力する方がよほど重要ではないか。

私のような弱き愚か者にとって、民主主義はなんだかんだ最高の政治制度だ。


『人生を<半分>降りる−哲学的生き方のすすめ』
中島義道(新潮社)/エッセイ・哲学/★★★

他者への辛辣な批判が展開され、世間と妥協せず自分自身がよく「生きる」ために考えることを追求するために、隠遁生活は難しいから半分だけ世を捨てて半隠遁せよ、と説かれる。

著者はか〜なり斜に構えた方だが、非常に鋭い人間観察力だ。私は社交的ではなく人付き合いも苦手だし、ひねくれ者だし、人生を九割以上降りちゃってるような人間なので、面白いと感じ共感するものが多かった。竹田青嗣著『ニーチェ』のまえがきを引用して彼を酷く揶揄していたこと、これはいただけなかったが。

普通に社会生活を営んでいる方にはどうだろう?不快になるかもしれない。

死を意識すること…それは人に決して消すことのできない本質的な孤独と不安を与え、実存について真剣に考える契機を与えてくれる。しかしそれだけやっていたのではマイッてしまう。著者と同じく、私も明るく楽しい人間関係なんてどこかウソっぽく感じるのだが…。

井上揚水さんの『青空、ひとりきり』という曲の歌詞にこんな一節がある。
 仲良しこよしは なんだかあやしい
 夕焼けこやけは それよりさみしい
 ひとりで見るのが はかない夢なら
 ふたりで見るのは たいくつテレビ
 星屑 夜空は星屑 ひとりきり
これはホントに的を射ている。

『ムーミン谷の仲間たち』のスナフキンも人間関係の意義に気付くのだけど、ことごとく他者を拒絶し自分の中に閉じこもってしまうのは、虚しく寂しくつまらないんだな。そういう状態でより良く生きるには…なんて考えても、それはマスターベーションと変わらない。本質的に人は孤独だが、「仲良しこよし」と「夕焼けこやけ」の間の微妙な着地点を探るいうか、重要なのはバランスだ。


『わかりたいあなたのための現代思想・入門』
小坂修平、竹田青嗣、志賀隆生、中沢哲、西研(宝島社)/哲学/★★★★

現代思想を概観するに最高の一冊だ。

「現代思想は何を問題にしてきたのか?」
「現象学から実存主義へ」
「記号論という新しい波」
「構造主義の出現」
「構造主義からポスト構造主義へ」
「フランス思潮は日本の現代思想にどのような影響を与えてきたのか? 」
の六部構成。

けっこう硬派な内容なので、「わかりたいあなたのため」とはいえ、ある程度の予備知識なしでいきなり読んでも難しいと思う。こういった奇抜とも思える思想をそれぞれの哲学者が提示するにはそれなりの背景、問題意識があるわけで、それについても詳しく語られる。

以下超私的雑感。

「現象学から実存主義へ」は、今までこれ関連の本をずいぶん読んできたのでスッと飲み込めた。「記号論という新しい波」と「構造主義の出現」は苦戦しながらもなんとか。「構造主義からポスト構造主義へ」のドゥールズ、ガダリ、ジャック・デリダはやっぱり難解だ〜。こういった思想を知ってしまうと、真理、本質、本当の、大切な、といった類の言葉の使用が封じられてしまう…。

著者の一人、竹田青嗣さんは現代社会論を批判しているが、ボードリヤール、ロラン・バルトの現代社会に向ける批判的視点はかなり面白そうだ。彼らを紹介した良い入門書はないだろうか。


『悪人正機』
吉本隆明・糸井重里(朝日新聞社)/エッセイ・社会・人生/★★★

『週刊プレイボーイ』で連載していた二人の対談をまとめた本。いや、対談じゃないな。糸井さんが聞き手となって、吉本さんがひとりで様々なテーマについて語る、といったもの。テーマは正義、戦争、生きる、友人、仕事、お金、などがあったと思う。

戦争については、アメリカ同時多発テロが起こった後の今の状況ではあまり説得力が感じられなかったが、他はさすが吉本さん、と感心してばかりだった。

私は吉本隆明さんの著作を一冊も読んだことがないのだが、ざっくばらんな面白い人だ。面白いなんて軽く言ったら悪いだろうか?とにかく興味深い語りだった。聞き手としての糸井さんの力も大きかったのだろう。


読書記録2001年一覧へトップページへ