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 水酸化ナトリウム(NaOH)

 ナトリウム(Na)の化合物は水に溶けやすいので、化学薬品としていろいろなものが製造され使用されています。とくに、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム、NaOH)は工業薬品として大量に生産されています。調味料(グルタミン酸ナトリウム)や漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)等の製造に使われています。海水中に無尽蔵といえるほど存在している食塩(塩化ナトリウム、NaCl)が原料です。

 塩化ナトリウムや水酸化ナトリウムは、+のナトリウムイオン(Na+)と−の塩素イオン(Cl-)または水酸化物イオン(OH-)が集まったイオン化合物です。これらを学ぶときには、イオン化合物を構成する2種類のイオンの様子を生き生きとイメージできるようにすることが大切で、そのために結晶模型が有効であろうと考えています。
      

水酸化ナトリウム(NaOH)の結晶模型

 

  水酸化ナトリウムの固体(結晶)

 水酸化ナトリウム(NaOH)は、塩化ナトリウム(NaCl)の(Cl-)が(OH-)に置き換わったものですが、(Na+)と(OH-)が交互に並んだ層の積み重なりに,ずれが起きるためにやや複雑な結晶構造をしています。斜方晶系のβヨウ化タリウム(I)型です。融点付近の温度(299.6〜318.4℃)では食塩と同じ立方晶系の岩塩型にかわります。水酸化ナトリウムの結晶構造は、H.Stehr により詳しく調べられています。( H.Stehr,Z.Krist,Bd.125,S.332〜359,1967)
 格子定数は(24℃で)、a=b=3.3994±0.001Å,c=11.377±0.005Å,α=β=γ=90°です。
原子間の距離もすべて求められていますが、水酸化物イオンの大きさを決めるために、次の数値を使用しました。
  ・上下方向で同一直線上に並んでいる 原子間の距離・・・Na−O:2.30Å, O−H:0.98Å
  ・H原子間の距離・・・H−H:2.1Å

  水酸化ナトリウムの結晶模型(2億倍)

1億倍の結晶模型では、教室などで見せるのには小さいので、水酸化ナトリウムは2億倍の結晶模型を作りました。

 塩化ナトリウム(NaCl)と比べて見ることにします。塩化ナトリウム(NaCl)の結晶では、Na+の前後・左右・上下に6個のCl-が接しています。Cl-のまわりも、同じように6個のNa+が取り囲んでいます。
 このCl-がOH-におきかわった水酸化ナトリウムでは、Na+に接しているOH-は5個です。塩化ナトリウムの場合と同じように、前後・左右には4個のOH-があるのですが、上下には、OH-が上にある段と下にある段が交互になっています。OH-に接しているNa+も、前後・左右に4個、上か下に1個の5個で同じです。
 大変興味深いことは、Na+が5個のOH-の酸素と接するように配列する結果、写真で見えるように上と下の面に水素原子が並んだ2段の層ができることです。
 OH-は全体としては(−)の電気を帯びていますが、酸素原子の電気陰性度が大きいので分極しており、水素原子の部分は(+)になっています。Na+の(+)の電荷と比べると小さいのですが、Na+とOH-のHの間で(+)の電荷どうしの反撥力がはたらきます。
 塩化ナトリウムと同じ配列なら、Na+とHが上下に並ぶのですが、HとNa+の間の反撥力によってずれて重なります。その結果、水素原子どうしが接するようになっています。水素原子の間でも弱い(+)の電荷による反撥力がはたらくと考えられますが、このような配列をとることからNa+との反撥力に比べると小さいことがわかります。
 また、水素原子が上下で接する層の間では、Na+も、上下で対面していますが、この部分でのNa+の上下の間隔は大きくなっています。
 このように、イオンの大きさに合わせた発泡スチロール球を使って結晶模型を作ると、結晶の中でイオンの間でどのような力が働いているのかということも見えてきます。

 難しい理屈はともかく、水酸化物ナトリウムというものも、2種類の粒がきれいに並んでいるものだということを、このような結晶模型を見せることで想像しやすくできるのではないでしょうか。

このページは、下記の論文の水酸化ナトリウム部分を編集し直したものです。
尾田和裕・清野哲雄・榊原郁子「 塩化ナトリウムと水酸化ナトリウムの教材づくり」『年報いわみざわ』16号, pp.63-70 (1995)

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