(2) 金属鉄の結晶模型

 1. 金属鉄の結晶構造、 2. 鉄イオンとその大きさ、 3. 作り方        目次へ戻る 次のページへ


1.金属鉄の結晶構造

 スチールウールというのは鉄を細く引き伸ばしたもので、家庭用のたわしなどに使われています。鉄の原子が集まった金属です。外見は塩などの結晶とは全然似てないのですが、鉄の原子が規則正しく並んでいるので「鉄の結晶」です。

 

 鉄の原子を2億倍にすると、直径がおよそ6.5cmくらいの球になります。鉄の結晶では、この球が右の図1-a のように少しづつ重なり合って並んでいます。

 このような並び方では、隣り合う4個の鉄原子の中心に窪みができますが、この窪みに2段目の鉄原子がのっています(図・1−b)。

 3段目の鉄原子も、2段目の鉄原子4個でつくる窪み(1段目の鉄原子の真上)にのっています。

 このような配列を体心立方格子といいます(図1−c)。立方格子の1辺の長さは、2.87Å(2億倍の結晶模型では5.7cm)です。

 

 

  

図1. 金属鉄の結晶構造(2億倍)

2. 鉄イオンとその大きさ
 スチールウールが燃えるときに、1個の鉄原子から2個または3個の電子が酸素分子に移動します。その結果、鉄原子は電子が不足した状態になりますが、これを「鉄イオン」といいます。鉄原子の化学記号はFeですが、電子が2個または3個不足の鉄イオンの化学記号は、それぞれ
Fe2+,Fe3+と書きます。燃えるときだけでなく、化学変化が起きさえすれば鉄の原子は鉄イオンに変化します。
 金属鉄の結晶では「球形の鉄原子が規則正しく配列している」と書きましたが、詳しく見ると原子の外側にある電子のうち1個か2個は、結晶の中を自由に動き回っています。個々の原子に束縛されずに自由に動き回る電子を「自由電子」といいますが、規則正しく配列しているのはこの自由電子が抜けた原子…イオンです。鉄イオンは鉄原子よりも小さく、(+)の電気を帯びています。
 鉄やその他すべての金属の固体(結晶)では、「+イオン」が規則正しく並んでいて、その間を「自由電子」がすごい速度で動き回って「+イオン」を結びつけています。
 金属の化学反応では「自由電子」が他の原子に移動します。金属鉄の結晶模型で、鉄原子を「鉄イオン」と「自由電子」の部分に分けたものを作ると、鉄が燃えたり酸に溶けたりするときに原子がイオンに変わることを、結晶模型でイメージしやすくなります。
 そこで、「鉄イオン」として発泡スチロール球を、「自由電子」に綿を使うことにしました。この方法は、板倉聖宣氏が金属ナトリウムの結晶模型で発表しているものです。(板倉聖宣『ものづくりハンドブック1』(仮説社、1986) p.8〜13)
 このような作り方では、鉄イオンの大きさをいくらにしたらよいかという問題があります。金属中のイオンの大きさは測定できないので、イオン化合物の結晶で測定した値を使うことにしました。イオンの大きさは化合物の中では、相手イオンや配列の違いで変化します。

『化学便覧第4版』(丸善、1994)には、鉄イオンの半径として次の値がのっています。
 Fe2+: 0.92Å(n=6、高スピン)、 0.75Å(n=6、低スピン)
 Fe3+: 0.79Å(n=6、高スピン)、 0.69Å(n=6、低スピン)、 0.63Å(n=4、高スピン)
       (Å;オングストローム、1Å=1億分の1cm)
 酸素イオンの半径を1.26Åとしたときの値です。nは接触しているイオンの数で配位数といいます。酸化鉄では配位数6が多く、高スピンの状態なので、イオン半径は、Fe2+:0.92Å、Fe3+:0.79Åとします。(2億倍した直径は、3,7cmと3.2cm)
 鉄イオンには、Fe2+と Fe3+の2種類がありますが、金属鉄では鉄イオン部分の大きさは同じはずなので、この2つの平均値をとることにしました。市販されている発泡スチロール球の直径は、0.5cmきざみなので、2億倍の鉄イオンとして直径3.5cmの発泡スチロール球を使います。

3. 金属鉄結晶模型の作り方

 A. プラ板サンドイッチ方式、 B. クリスタルボックス、 C. 材料とその入手法、 D. 作り方

A. プラ板サンドイッチ方式
 鉄原子を「鉄イオン」と「自由電子」にわけた結晶模型では、鉄イオンは、互いに少し離れて並んでいます。同じ平面にある鉄イオンを透明な薄いスチロール樹脂の板(プラ板)に並べることによって、鉄イオンの間隔が正確に取れるようにしました。そのプラ板を何枚か積み重ねて結晶模型とします。プラ板は箱のようにして上下の間隔も実物に合わせます。「鉄イオン」にみたてた発泡スチロール球を真ん中で2つに切って、鉄イオンの並び方を描いた「下図」に合わせてプラ板に接着します。裏側にも残りの半分を接着します。プラ板をサンドイッチする形になるので、プラ板サンドイッチ方式と名付けました。
 プラ板サンドイッチ方式では、「下図」さえあれば、結晶についての知識がなくても、とても簡単に結晶模型を作れます。結晶構造は「模型を作ってみれば分かる」ことがたくさんあります。作りたい人なら誰でも作れる方法はないものかと考えてこの方法を考案しました。
 結晶は三次元の世界なので、二次元の紙に書かれた図を見ても専門家でなければ、よく分からないのが普通でしょう。結晶のことを書いてある本では、立体的に見える図も多くなっていますが、それでも読み取るのは大変です。模型を作ってみるのが一番だと思います。
 また、結晶模型があっても結晶の見方に慣れていないと、イオンがどのように並んでいるのか見わけられないものです。プラ板サンドイッチ方式の結晶模型では、一段一段を取り出して比べられるので、イオンの並び方の規則性が一目でわかります。

B. クリスタルボックス
 結晶模型は、透明なプラスチックのケース(クリスタルボックス)にちょうど入る大きさにしてあります。クリスタルボックスを使うことは、数年前に東京の高崎早苗さんが薦めてくださったものです。クリスタルボックスの見本まで送ってもらっていたのですが、大きさが合わなかったので使えませんでした。別の材料でいろいろ試みたのですが、どれも満足のいくものにならなかったので、ちょうど良い大きさのクリスタルボックスを探してみる気になりました。電話帳で包装材料店(パッケージ・ショップ)を見つけてカタログをもらい、ついにちょうど良い大きさのクリスタルボックスを手に入れることができました。
 クリスタルボックスに入れると、結晶模型の安定性が良くなり、とても見やすくなりました。また、見た目もとても美しくなり保管にも好都合です。

C. 材料とその入手法

発泡スチロール球 : 直径3.5cm    30個 (私は、大阪サンセイ株式会社、TEL:06-341-0951で購入)
クリスタルボックス:16.5×21×10cm 2個
プラ板(B-4版、厚さ0.5mm)     1枚
綿 : 自由電子として使う。(水槽の水を濾過するのに使うプラスチック綿が使いやすく、キラキラ光ってきれいです)
灰色の水性塗料(写真は着色した繊維を接着した植毛発泡スチロール球を使ったものです)、木工ボンド

下図(金属鉄結晶模型ー2億倍)

D. 作り方

1.直径が3.5cmの発泡スチロール球(30個)を灰色に塗り、乾いたら半分に切る。
2.プラ板を、下図に合わせて1枚切る。
  クリスタルボックスの内箱(2個)を高さ5.7cmになるように切る。写真のように三角の板を4隅にセロテープで止める。
3.1段目:下図にプラ板をのせて、セロテープなどで止めてから,半分に切った発泡スチロール球を下図の1段目に合わせて接着する。
      よく乾いてから、裏側にも発泡スチロール球を接着する。
  2段目:下図にクリスタルボックスの内箱をのせて、下図の2段目に合わせて半分に切った発泡スチロール球を接着する。
  3段目:もう1つのクリスタルボックスの内箱に、下図の1段目に合わせて発泡スチロール球を接着する。
4. クリスタルボックスの外箱に、綿を薄く広げて入れ、1段目を乗せる。2,3段目も間に薄く広げた綿をはさんで重ねる。もう1つの
 クリスタルボックスの外箱に切り込みを入れてフタにする。

 このほかに、1個の鉄原子もあると便利です。
 (灰色に塗った3.5cmの発泡スチロール球に、綿を1.5cmくらいの厚さにしてまるくかぶせる。持ちやすいように棒をつける。

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