記憶整理 その6

場面転換。幕は閉まったまま。

幕の前、左側から歩いてくるお沙貴さん、右側から歩いてくる正吾さん。

何度か会っているようで、挨拶する二人。
正吾さん、衣装が変わって町人風になっている。
すっかり職人が板につきましたね、というお沙貴。
今日は早いですね、みたいな話があって。
正吾「今日は親方に用事があって、早く終わったので、茶漬けでも食って寝ます」

立ち去る正吾さんの後姿を見つめるお沙貴さん。
うちの旦那にも、ああいう頃があったのに、と呟く。
舞台から正吾さんが退場すると、今度は右からお蝶さんが登場。

お沙貴「あら? ついさっき正吾さんとここでお会いしたのよ!」
やっぱり赤い糸で結ばれてる、と恥らうお蝶さん。
お沙貴「今日は茶漬けでも食べて、寝るって行ってたわ」

お蝶「茶漬けでも食べて、ね・る!」
(色んな意味を含ませて)

お沙貴「お蝶さん、正吾さんに何か持っていってあげたら?
 そうだ。これから鮎ごはん作るから、それを持っていってあげなさいよ」

お蝶「鮎ごはんを食べて」
二人で「ね・る」

お蝶さん、迷惑になるからやめる、と言い出す。
お沙貴「どうして? 迷惑にならないように、渡したらすぐに帰れば良いじゃない。
きっと正吾さん、励みになるわよ」

お蝶さんを連れて帰ろうとしたお沙貴さん、気分が悪くなって座り込む。
お蝶「大丈夫? 赤ちゃんがいるんだから、大事にしないと」
何で判ったのかと驚くお沙貴さんに、
お蝶「私だって女だもの」

お蝶「銀次さんには?」
お沙貴「まだ。川じまいの花火が終わってからと思って」
それまでは花火に集中して欲しいというお沙貴。
お蝶「職人さんの奥さんって大変ね。私にはとても無理」
お沙貴「惚れていればこそ、よ」

帰って鮎ご飯を作る、というお沙貴さんに、体に悪いというお蝶さん、
お沙貴「火の華 銀次の子ですもの、これぐらいどうってことないわ」

二人、舞台右側から退場。


幕が開く。

中が見える状態の長屋。二部屋(?)あるが、左側半分には白い布がかかっている。
(照明の関係で、セットやてんびん棒がうっすらと見えている)
右側半分には、遠州屋庄兵衛とおしず、銀次が座っている。

朝、井戸で水を汲んでいたら、浮かない顔の銀次がいた。
声をかけたら、遠州屋の名前が出て、ちょうど今日は来る予定があったから、つれてきた。

何の用かと聞く遠州屋。
異国の花火の材料が欲しい、という銀次。
たまやの親方には内緒。
抜け荷は死罪と知っているか。奥さんは?
妻は居ますが、意見は言わせません。
火薬を手に入れて差し上げましょう、という遠州屋。

怖い話に「つるかめつるかめ」というおしず。
遠州屋「それをいうなら、くわばらくわばらだろう」

遠州屋、それよりも誰にも見られなかったか、とおしずに聞く。
おしず「大丈夫、猫の子一匹いなかったわ。
入り口であさり売りとすれ違ったけど、全然売れてなかったせいか、しけた顔してたわ」


閉まっていた左半分の布があがって、代わりに右半分の布がさがる。

日向「それは、拙者のことでござるか」

てんびん棒を担いで、重量上げのようにして「頑張れ、ニッポン!」

そこに、正吾さんが入ってくる。
てんびん棒を正吾さんに渡す日向の旦那。

日向「正吾殿、何の用でござるか?」
正吾「何の用って、ここは俺の家ですよ!」
日向「なんと、ここは正吾殿の家でござったか。この辺りに住んでいるとは聞いていたが」
正吾「知らずに入り込んでたんですか? 呆れた人だ」

日向の旦那、夜の部の商いで蕎麦屋をやっていたときに、物騒な話を聞いたと
今までの経緯を話始めるが、夜の部の商いというのは、他に昼と朝もあって、と
余計な説明までし始める。

正吾「もっとちゃちゃっと説明してください。江戸っ子は気が短いんでぃ!」
日向「いつから江戸っ子になったんだ」

では、かいつまんで話そう、と妖術の構えを取る日向の旦那。
日向「えいっ!」
正吾「ええっ、それは大変な話だ!」
妖術によって、一瞬で今までの話が通じたらしい正吾さん。

隣の会話に聞き耳を立てる正吾さん。
正吾「銀次が帰りますよ」
日向「そうか」
正吾「追わないで良いんですか?」
日向「確認したいことがある」

壁によって、聞き耳を立てる日向の旦那。
少し聞いていたと思ったら、一人で悶え始める。
正吾「何が聞こえるんですか?」
日向「暫し待て、隣人は今、お祭り中でござる」
正吾「お祭り?」

何のことか判らず、正吾さんも壁に近づこうとすると、妨害する日向の旦那。

自分で自分の体を抱きしめるように腕を回して、
後ろから見える指をひらひらと動かして、
一人で抱き合ってるような動きをしてみたり、よろけてみたり。
それを見て、お祭りの意味に気づく正吾さん。
正吾「お祭りって! 客人帰してすぐかよ。助平なじいさんだ」

気になる正吾さん、悪巧みを聞き出すため、と壁に近づこうとするが、
日向の旦那に「お蝶殿に言いつける」といわれる。

中から声が聞こえだす。

遠州屋「気持ちよすぎる」
おしず「まだまだこれからよ」

声を聞いて、さらに落ち着かずにじゃれ合う二人。
(やっていたことはその日によっていろいろです)

日向「正吾殿、気持ちを落ち着かせよ」
正吾「日向殿こそ」

おしず「これはどう?」

さらに続く怪しい会話に、
日向「もう辛抱たまらん!」
かがんでいた正吾さんを、馬とびで飛び越える日向の旦那。
壁に耳をつけると、幕が開く。

中では、おしずに肩を揉まれている遠州屋。
遠州屋「お前の按摩は本当に気持ち良いな」

壁に耳をつけていた二人、同じポーズでこけて
二人「按摩かよ!」

ふてくされたように、部屋の隅で座り込む日向の旦那。
聞き耳を立てていた正吾さん、日向の旦那を呼ぶ。

おしずが、危険すぎると心配する。花火があがれば、抜け荷はすぐにばれる。
そのために、普段から袖の下を渡しているから大丈夫だという遠州屋。
何故、そこまでして銀次を助けるのかというおしずに、
銀次はどうでもいい、という遠州屋。
遠州屋、花火の設計図が欲しい。かぎやは喉から手が出るほど欲しいはず。
銀次は花火が上がった後、殺してしまえばいい。
奥さんに話していたらどうするんだ、というおしず。
それならば、奥さんも殺してしまうまでだ、という遠州屋。

おしず「怖い人」
遠州屋「さて、お祭りとまいりますか」
おしずの家の幕が下りる。

日向「このまま捨て置くことは出来ぬな。さて、どうするか」

すると、模様の形のライトがくるくると回って、音楽がなり、
蘭丸「父上!」

蘭丸から遠隔通信がくる。驚いている正吾さん。
日向「蘭丸か」
蘭丸「剣をお取りください、父上。五木念流は正義のための剣だと父上は申されました」
日向「蘭丸は知らぬかも知れぬが、五木念流の秘剣は子守唄で・・・」
蘭丸「それは駄目でございます」
日向「何?」
蘭丸「秘剣は、蘭丸を眠りに誘うためと、その身を守るためのもの」
日向「此度には使うべきではないと申すか」
蘭丸「その通りでございます。剣をおとりください、父上」

うーん、と悩む日向の旦那。
日向「正吾殿!」
正吾「はい」
少し離れたところから不審そうに見ていた正吾さん、部屋の中に戻る。
日向「不躾なお願いとは思うが、貴殿の差料(サシリョウ)をお貸しいただきたい」
正吾「さしりょう? 刀ですか? 何のために」

日向「まだ所持されているのならば、是非」
正吾「持っては居ますが、判りました。お貸しします」
いつもと違う真剣な様子に何かを察する正吾さん。
日向「かたじけない」
正座でおじぎする日向の旦那。
慌てて、剣を取りにいく正吾さん。


そこに、舞台右側からお蝶さんが登場。
浴衣(?)姿に着替えている。

お蝶「着替えてたら、時間かかっちゃった。鮎ごはんが冷めちゃう、冷めちゃう」

その声に気づいた日向の旦那、立ち上がる。
戻ってきた正吾さんもお蝶さんに気づいて、刀を持ったまま、扉を開けようとする。

日向「正吾殿、刀、刀。もう侍じゃないんだから、どこかに隠して!」

慌てる正吾さん。
隠す場所を探そうとして、見つからなかったのか、日向の旦那に渡す。
受け取った刀と脇差を正吾さんに投げ返す日向の旦那。
慌てて、また日向の旦那に渡そうとした瞬間、扉が開く。
(月曜日、慌てた正吾さんが、あさり(?)の入った籠をひっくり返して、
日向の旦那がアサリ(?)を拾う芝居をしてました。細かい)

刀を隠すために(?)、思わず抱き合う二人。
日向の旦那は膝をかがめて、正吾さんの胸元に顔を押し付けるような感じ。

お蝶「正吾様? 日向の旦那?」
驚いているお蝶さんに、これは違うと説明しようとした瞬間、花火の音がして、
また抱き合う二人。

お蝶「いやぁあああ!」

幕が閉まって、場面転換。


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