貴方の腕で抱き締めて
【 act4】
ピコンと音がして画面にメッセージが表示される。
『寒いです〜』
『死んじゃいます〜』
現在時刻12時48分。メッセージは天蓬からのラインだ。
『外なん?』
そう返すとすぐにレスが来る。
『昼食で外に出たんですけど、失敗しました』
それから泣いてるスタンプ。
仕事中の昼休みに食事に外に出たらしい。この間天蓬にアドレスを貰ったから次の日にラインと携帯メアドと番号を登録してラインで俺のも送ったら、意外とマメにレスがつく。基本は昼と夕方から深夜だけど、時々仕事中らしき時間にもメッセージが来て、仕事で捲簾に怒られたとかって泣きスタンプが来る事がある。ちなみに昼飯は捲簾と一緒に食べている事が多いようだ。
『捲簾に抱きついて暖まってみるとか』
適当に提案してみると、またすぐレスが来た。
『殴られましたー!』
そりゃそうだ。つか、やったんだ。面白すぎるぜ、天蓬。思わず笑いスタンプを送り返すと今度はレスが途切れた。おや? 首を傾げて画面を見てるとやっとメッセージが来た。
『天蓬に変なこと言うな!』
びっくりして目が丸くなった。うわ、捲簾だ。捲簾からのラインだ! すげ、初めてだわ! 天蓬のアカウントだけど、コレ捲簾からだ!
一気にテンション上がって『大好き』と返すと『俺も』って帰ってきてゴロゴロしてたソファーの上で悶えてしまった。ら、八戒に大丈夫なのかこの人はみたいな目で見られてしまい、居心地悪く身動ぎしたらまたピコンと音がした。
『捲簾がニヤニヤしてて気持ち悪いんですけど』
続けて捲簾の写メが送られて来る。怒ったような顔でこっちに手を伸ばしてる写メ。多分ニヤニヤしていた捲簾を激写しようとした天蓬を止めようとした瞬間なんだろう。うわーうわー、捲簾の写真とか初めて。すげー。何がすごいって天蓬がすごい。だって捲簾、俺には写真撮らせてくれねーもん。感動して写真を眺めていると、またピコンと音がした。
『午後もお仕事がんばります』
『がんばれー』
もう1時か〜と思いながら適当に励ますと、天蓬からものすごい問題発言が返ってきた。
『次は捲簾のプライベートショットを流出します!』
『乞う御期待!』
ちょ、天ッ、ハァ!? 思わずソファーの上で飛び起きたら、スマホを持っていた手が滑って落としそうになった。わたわたと一人で暴れた後スマホをしっかり掴んで大きく息を吐くと、八戒が白い目でこっちを見ていた。うぅ……。
とりあえず写真を保存しよ。内部メモリーとSDカードと両方に保存して……。
「最近良く携帯見てますけど、捲簾さんですか?」
「うんにゃ、捲簾の同僚〜」
「それは……、良かったですね?」
「うん。間接的に捲簾のコト知れてラッキー」
「おや。下心まみれですか」
「まーね。つか、相手自体も面白いんだけどな」
「そちらはどんな方なんです?」
「んー……。この前変な客来たって言ったべ?」
「ええ。初来店で貴方を指名したっていう方ですよね」
「そうそう。ラインの相手ソイツなの。実は男で捲簾の同僚だったっつー」
「なるほど。貴方を見に来た訳ですか。女装までして」
「らしいぜ」
思い出すと笑いが込み上げてくる。まだ二回しか会ったことないけど、天蓬はかなり面白い。さすが、捲簾と親しいだけはある。捲簾も大概変わってるけど、天蓬はその上を行くと思う。
「捲簾さんとはラインをしないんですか?」
「ん〜、捲簾のライン知らねぇしなぁ」
昼休みが終わり宣言通り仕事に入ったらしくそのまま大人しくなったスマホを床に置いて、もう一度ソファーに転がり直すと、クッションの位置が気に入らなかった。ちょうどいい場所を探してゴソゴソやってると、八戒がマグカップを持って直ぐ側に立った。
「ん? ナニ?」
「いえ、なんでも」
と、口では言うが雰囲気は何か言いたくて堪らなさそうだ。こーゆー時八戒は放置するといつまでも何か言いたそうなままタイミングを計り続けてうっとおしい。
「なんでもじゃねーだろ。言えよ」
「いえ、本当に大したことじゃないと言うか」
「うん、解った。とりあえず言ってみ? ホレ」
しつこく促すと諦めたようにため息を吐いて、八戒はマグカップをテーブルに置いた。
「捲簾さんの御都合が良いときで構わないんですが、僕一度捲簾さんにお会いしたいです」
「捲簾に?」
「ええ」
そのうち紹介したいとは思っていたけど、こんなに早く、しかも八戒から言われるとは思わなかった。びっくりして目を丸くしてると、八戒は少し困ったような顔をした。
「無理にじゃないんです。もちろん悟浄の都合が良い時で構いません」
「あ、いや。ちょっとびっくりしただけ」
俺は身体を起こして八戒を見た。
八戒から俺の交遊関係に入ってくるのはホントに珍しい。髪をかきあげて煙草に手を伸ばすと、それに気付いた八戒がパッケージを取って一本こちらに向けてくれた。
「サンキュ。聞いてみるわ、捲簾に」
「え、いいんですか?」
「おー。どうせ俺もそのうち紹介したいと思ってたし?」
そう言うと八戒は嬉しそうに笑って俺に灰皿を差し出した。
「ありがとうございます。でも、空き缶を灰皿にしたらぶっ飛ばしますからね」
ヤベ。
「ゴメンナサイ」
無意識にソファーの横の空き缶を灰皿にしていた俺は大人しく八戒に頭を下げた。
たまにしか会えないけど、会っている時間ずっとヤってるわけでは無い。まぁ、必ずヤりはするけど。
今日は会って、軽くメシ食わせて貰って、風呂に入って、今は二人で酒を楽しみ中だ。捲簾の家には酒も多いがそれより重要なのは捲簾のバーテンダーとしての腕だと思う。シェイクが上手いのはもちろん、カクテルの知識が半端無い。カクテルってオーソドックスな誰でも知ってるのからマニアックなものまで多種多様だけど、未だに俺のリクエストした物で捲簾が知らなかったものは無い。しかもメジャーを使ってんのを見たこともない。いつでも目分量。なのに外したことが無い。俺もバーでバイトしてたことあるからそれがどんだけすごいかってのが解るけど、そんで本職じゃ無いってどういうコトだよ。
「次ナニ飲む?」
空きかけた俺のグラスを見て捲簾が聞いてきた。
「ブルー・トリップ」
「了解」
ホントになんでも知ってんな……。
捲簾は座ったまま手を伸ばして棚からカクテルグラスを1つ取り出す。それから酒用冷蔵庫からテキーラ、ブルーキュラソー、メロンリキュール、ライムジュースを出してシェイカーに入れていく。最後に手元の氷を入れると肩の高さに構えた。
うわ、やっぱカッコイイ……。肩から腕へのラインとか、背中から腰のラインとか、すっげぇキレイだ。肩幅はあるのに腰はスゲェしまってて細くて、服の上からだとそんなに解らないけど脱ぐとしっかり筋肉がついててしなやかで、肌もすごくキレイで。そういや俺あんま捲簾に触ったことないかも。触られることは多いんだけど。
……触りたいなぁ。肌に触れて、筋肉を辿りたい。滑らかな硬く締まった身体に触れたい。捲簾の温度を感じたい。セックスまでは行かない欲情。ただ触れたい。感じたい。できれば舐めたい。
すっと俺の前に青い液体が置かれる。
「ナニ?」
いきなり聞かれて考えてたコトを見透かされたのかと思って瞬きしたら捲簾に苦笑された。
「んな見詰められたら照れるっつーの」
「アンタがそんなタマかよ」
出したボトルを閉まっている捲簾を眺めながら残ってた酒を飲み干して、新しい酒に口をつける。捲簾が椅子の上から身体を捻って冷蔵庫に物を入れてるせいでしなやかな身体が良く解る。触りたい。撫でたい。舐めたい。……脇とか舐めたらどんな反応するんだろ。
「んで、ナニよ?」
「あー、その、捲簾良い身体してんなと思って」
おずおずと、欲を隠して思ったことだけを口にすれば、捲簾は少し驚いた顔をした。
「へ? あぁ、サンキュ」
「俺あんま肉つかねぇんだけど、捲簾は何かしてんの?」
「何かねぇ。ジム行ったりとかはしてるけど。後は……同僚と手合わせする程度だなぁ」
「同僚と手合わせ……」
手合わせする仕事ってどんなだ。つか、シフト制の会社員かと思ってたんだけど、ホントどんな仕事してんだろ。……アレ、コレチャンスじゃね? 捲簾の口から仕事関係の話が出るとか珍しいよな。今までは無かったから、天蓬のおかげかも? 聞いてしまおうか。なんの仕事してんのって、さりげなく。
言葉を発しようとして口を開きかけた時、不意に俺の手に捲簾の手が触れた。え、と思う間もなくその手を引かれて、そのまま捲簾の胸にペタリと当てられる。
え? え?
「触りたかったんじゃねーの?」
当たり前のように言われてしまった。しかも当たり前のように触らせてくれて。思わずうろたえて、どうしたら良いのか解らなくなって手を引こうとしたのに、捲簾の手が俺の手をがっちり掴んでいて動かせない。つか、俺は何を動揺してるんだ。女の身体触ったってこんなに動揺しねぇってのに。
あ、でも温かい。シャツ1枚越しの捲簾の体温。筋肉と肌の弾力とか、捲簾の熱とか。少しだけ撫でてみると、それを許すかのように捲簾の手が離れた。嫌悪も抵抗も無く俺が触れることを許してくれている身体。胸だけじゃなくて、腕とか背中とかにも触れたい。……贅沢言ってるって解ってるけど、できれば直接肌に触れたい。
「ソレ飲み終わったらベッドいこう」
ほとんど動かせなかった手を取られ、唇を触れ合わせるだけのキスをされた。
「そんで好きなだけ触れよ」
ベッドで好きなだけ触っていいって言ってくれてる? もしかして直接触らせてくれるんだろうか。なんで考えてることバレた。
捲簾が飲み終わったグラスを持って立ち上がるのを横目で見つつ自分のグラスを持ち上げる。最後に頼んだブルー・トリップはカクテルグラスだったからそんなに量は無くて、それは簡単に終わってしまった。キッチンで下げたグラスを洗っている捲簾のところに持っていこうと俺もソファーから立ち上がると、カウンターの向こうで俺を見ていた捲簾が微笑んでくれて、思わず心臓が跳ねた。
ホントに触ってもいいんだろうか。俺なんかが、捲簾の身体を。なんでかな、少し怖い。そんなこと無いって解ってるのに、……俺の赤で、捲簾を汚してしまいそうで。
部屋に入ると捲簾は、俺に座るように言って自分は何故かクローゼットを開けた。大人しくベッドに腰を下ろして見ていると、捲簾はすぐにアイマスクとタオルを手に戻ってきた。
アイマスクって……。使用法が1つしか浮かばないんですけど。
「なぁ、捲簾。……なにする気?」
一抹の期待を込めて聞けば、俺の目の前に座った捲簾はニッコリと笑った。
「解ってるクセに。お前の期待してるコトだよ」
「期待してねぇ!」
「やっぱ解ってんじゃん」
しまった……。なんでこの男はノーマルなセックスにとどめてくれないんだろうか。いつもいつも、俺が恥ずかしがることばかりしてくる気がする。
「ヤならしねぇよ? どうする?」
楽しそうに笑いながらアイマスク片手に耳元で囁かれて、ゾクリと背筋を何かが這い上がってきた。ヤバい、また流される。
「……目隠しなんかしてたら、誰とヤってんのか解んねーじゃん」
捲簾だから触れられたいし欲しいんだ。見えないんじゃオナニーと同じだし、他の誰かにされてるみたいでイヤだ。
拗ねたように言った俺に捲簾は少し目を丸くしてから、ニヤリと笑った。
「案外ノーマルだよな、お前って。やってみりゃ解るよ。相手が誰か解らないのがヤなら気配は消さねーし、手も拘束しないから好きなだけ俺を触っていいよ」
え、捲簾を触り放題できる?
「嫌だと思ったらいつでも自分で目隠し外していいし」
最初の首輪なんかとは違って、なんの変鉄も無いただのアイマスク。
「なぁ、悟浄。目隠しさせて?」
耳元で甘く囁かれる。
手は自由だっつーならまぁ……。
「……ヤだと思ったら外すからな」
「いいよ」
囁いた唇が俺の耳朶を食んで離れていく。捲簾は微笑んで俺の顎を指で持ち上げた。少しだけ仰のいた俺の目にそっとアイマスクが当てられる。眩しかった蛍光灯の光が遮られて視界が闇に覆われる。それでも既製品のそれは顔に完全にフィットすることは無くて隙間からチラチラと光が見えた。
「上からタオルで縛ってもイイ? すぐずらせる程度にするけど」
こくりと頷く。すぐ外せるならアイマスクだけでもタオルでさらに縛られてても大して変わりはない。まぁ、多分してる側はテンションが全然違いそうだけどな。なにせ見た目が全然違う。アイマスクの隙間の光が消えてそこを絞められた。怖くは無いけど、何も見えない。……捲簾、そこに居るよな? ヤバい、なんか不安になってきた。暗闇の恐怖っつーより、置き去りにされたような不安が湧いてきて、まだほとんど時間なんて経ってないのに目隠しを取ろうと手を動かした瞬間、その手を掴まれた。多分、捲簾に。
「怖けりゃ触ればイイだろ」
ぐいっと手を引かれ、指先が温かい何かに触れた。布の感触。そっとそれをなぞったら、今度はすぐに手を外された。そして俺が疑問に思うより早くもう一度温かい何かに指が触れた。しっとりとして滑らかな柔らかいソレ。……捲簾の、素肌? びっくりして手を引こうとしたのに、捲簾に逆に強く押し付けられてもうどうしていいか解らない。触りたい。でも、ホントに触っていいのか解らない。
「触れよ」
「けど……」
「嫌じゃねぇなら触って。気持ちイイからよ」
衣擦れの音がして手の甲からも布の感触が消えた。俺が触りやすいように脱いでくれたのかな? ホントに触ってイイの? てか、気持ちイイって……ホント?
「俺に触られて気持ちイイの?」
「かなりイイ。ただ触られてるだけだっつーのに結構キてる」
触れていた手のひらで肌を辿ってみると、皮膚の下の筋肉が少しだけ動いた。嫌悪でなければきっと快感のハズ。手のひらに触れる捲簾の身体がすごく気持ちイイ。滑らかな肌。体温は俺より少し低いかもだけど暖かくて、柔らかい。つっても女みたいのじゃなくて、しなやかっつーか、筋肉っつーか。いつまでも触っていたい感じ。手探りで捲簾の胸の真ん中を探し当て、そこにペタリと手のひらを当ててみた。捲簾の心臓の音が手のひらに直接伝わってくる。ドクドクって、少し早い脈。捲簾も興奮してくれてんのかな。だと嬉しいんだけど。
「なぁ、悟浄。普段女相手にするのと同じでいいからもっと触ってくんね?」
捲簾は優しい。ホントに優しい。自分から手を伸ばせない俺を責めるでも呆れるでもなく、捲簾から求めてくれる。触れていいじゃなくて、触れて欲しいと言ってくれる。
捲簾に触れていない方の手も捲簾へと伸ばす。指先に捲簾の熱が触れたけど、捲簾はピクリとも動かないでただそれを受け入れてくれた。手のひらでしっかりと捲簾の身体に触れる。胸から脇を辿り、そのままキレイに締まった脇腹を撫で下ろしていくと少しだけ手の中の身体が震えた。
「気持ち悪ィ?」
「馬鹿。違ェよ」
気持ち悪く無いなら多分イイんだろう。願望も込みでそう判断して脇腹を撫でていると、その手に硬い布のような物が触れた。これパンツかな? ベルトをしていないらしく腰回りに隙間がある。その隙間に指を差し込みつつ腰を撫でてみれば、出っ張っている骨の感触が手に触れた。きっと腰骨だろうそれをくすぐるように撫でてみれば、捲簾が息を詰める音が響いた。
「気持ちイ……」
「ホント?」
「嘘ついてどうするよ。つか不安なら触って確かめろよ。パンツ脱がしてさ」
それってそれって、…………え? 脱がしてって、パンツを脱がしてって、それで触って確かめろって、つまり……、ドコ触って確かめんの!?
パニックに陥った俺に捲簾が笑って言った。
「ナニ? 男のチンポはさすがに触りたくねぇ?」
「じゃなくてっ!」
触りたいよ! 捲簾のなんだから当たり前じゃねーか! けどあまりの急展開に頭がついてこない。だって、こんなの初めてで。いつも捲簾にされるがままだったから、こんな風に触れることすら初めてなのに。触りたいって確かに思ったけど、まさか受け入れられるなんて思ってなかったから。
「ホントに俺が触ってイイの?」
信じられなくて思わず聞けば、クスクス笑う捲簾が動いた気配がして、頬に柔らかい何かが触れる。そして耳元で捲簾に囁かれた。
「悟浄、俺のチンポ触って」
「………………」
思わず捲簾に抱き付いてしまった。見えないせいで距離感が掴めず勢いがつきすぎてて捲簾の胸に頭突きしてしまったが、捲簾は苦笑しただけで俺の背中を撫でてくれた。捲簾の胸に額をぐりぐり押し付けてから、俺は唇を素肌に押し当てる。胸の筋肉を唇で辿りながら横にスライドしていくと、皮膚だけど他とは少し違う柔らかい場所に触れた。凄く柔らかい皮膚とその中央に小さなしこりのようなもの。赤ん坊のように吸い寄せられるがまま俺はソコにキスをする。
「ン……」
捲簾の低い吐息のような声に俺の体温も上がっていく。そのまま乳首を舐めながら今度は腰に触れていた手でパンツの前ボタンに触れた。少しでも抵抗されたりとか、不快そうな気配があったらすぐに止めようと伺いながらソレを外す。けど、捲簾は全然普通にされるがままになっている。だから、今度は恐る恐るパンツのファスナーを下げていく。舐めていた乳首が勃ってきたのに気付いて少しだけ強く吸い上げてみると、捲簾の身体がピクリと震えた。ファスナーを下ろしていた手が止まり、下げ止まったことに気付いてふと俺は途方に暮れる。脱がすには捲簾が座ったままの今の体勢じゃ難しい。けど、触るだけならこのままでも出来るわけで。逡巡の後にそのまま触ろうと手を滑らせたところで捲簾が身動ぎして、俺は慌てて手を引いた。
「悪ィ」
調子に乗って触りすぎた。いくら捲簾が触って欲しいと言ったからって、ホントに触るなんて。冗談……じゃないとしても、その場の勢いとか雰囲気とかで言わざるを得なかっただけだろうに。そりゃそうだよな。俺に触れられるなんてイヤに決まってる。目隠ししてて良かった。こんな顔、見られたくは無い。
と、小さなため息が聞こえた。
「ったく、嫌じゃねぇって言ってんのに」
言葉と一緒に手を取られ、もう一度捲簾の腰に触れさせられた。素肌じゃなく、パンツの上。
「そのまま下ろして」
「……え?」
「ちゃんと脱がしてから触れっつってんの。脱がしやすいように腰上げただけで誤解してんな」
え……、もしかしてさっき身動ぎしたのは腰を浮かせてくれたから、ってこと?
「乳首舐めんのも気持ちイイからもっとシテ」
え……っと、つまり、もっと触ってもイイってコト? 伺うように恐る恐る手に触れる布を掴めば、捲簾は俺の腕から手を離し、また身動ぎした。戸惑いながらゆっくりその布を下ろしていくとなんの抵抗も無くそれは下りて行く。もう一度捲簾が身動ぎして今度は脚を上げてくれたのか手元の布の中で何かが動いた。そのままなんの抵抗も無く脚からパンツが抜けて、手応えが無くなったパンツを俺は適当に投げ捨てた。捲簾に怒られるかなって思ったけど、見えないんだから仕方ない。
見えないけど、捲簾の気配が解る。多分捲簾がいる方へ手を伸ばすと、すぐに暖かい身体に手が触れた。吸い付く様な肌ってこういうのを言うんだろうな。こんなに触り心地がイイのは女でもそうは居ない。手のひら全体をぺたりとつけて、その手を移動させていく。これ、脚かな。すね毛っぽい感触があるから多分そうだろう。そんでこっちが上。脚を撫で上げて行くと、そのまま付け根に触れ引き締まったケツに手が触れた。リラックスして座ってるハズなのにあんま柔らかくない。思った以上に筋肉質なんだな。そこをやわやわと揉んでからまた身体を撫で上げると腰まで到達してしまった。ヤベ、なんかスゲェ緊張してる。触っていいんだよな? マジでいいんだよな? 腰骨を触りながらこの手をどうしようかと悩んでいると、ねだるように捲簾が俺に身体を擦り付けてきた。
うわ、エロ……。
一気に触りたい衝動が戸惑いを越える。
こくりと唾を飲み込んで、俺は腰骨を撫でていた手を下ろしていった。腰骨を辿るようにそっと下りていけば、俺の行為を肯定するかのように捲簾が脚を開いてくれる。と、手に何かが触れた。手のひらじゃなく手首付近の腕に。それと同時に辿っていた身体がピクリと震える。これ、もしかして捲簾のチンポ……? もう少しだけ撫で下ろせば腕に触れたモノと身体の付け根に手が触れた。やっぱり捲簾のチンポなんだ。てか、これ、捲簾勃ってんじゃね? 付け根を数回撫でてから、抵抗されないのをいいことに俺は捲簾のチンポへと手を滑らせた。すでに熱くなっているソコは完全にじゃないがやっぱり勃っていて、俺に触られて捲簾が確かに快感を得ている事を示していた。泣きそうなほど嬉しくなってチンポに触れている指を曲げ、ソコをやんわりと握ってみる。
「ッ……」
吐息なんだか呻くようなっていうか、息を詰める音がして、手の中のチンポがヒクリと震えて硬度を増した。
気持ちイイんだ……。
男の生理現象かもしれないけど、それでもイヤなら勃ちはしないだろう。緩く握った手を動かすとどんどん硬く大きくなってくる。捲簾と何回かセックスはしてるのに、俺が捲簾のチンポを触ったのは初めてだった。ソコに触れるのに嫌悪や抵抗があった訳じゃない。ただ怖かっただけだ。だから本当はずっとこうして触りたかったんだ。同性の性器だけど、好きな人のモノだから。それでも他人のチンポを愛撫するのは初めてだから勝手が解らなくて、自分がされて気持ちヨかったことをそのまましてみる。ゆるゆると全体を擦って、ある程度まで硬くなったら括れを集中的に擦ってみた。ついでに反対の手でチンポの下の玉に触れる。そっと握りこんで揉めば捲簾から吐息が零れた。
捲簾が気持ちヨければ嬉しい。もっともっと気持ちヨくなって欲しい。俺でイって欲しい。
「……悟浄?」
止まった手に上擦った声で聞いた捲簾の声に背中を押されて、俺はチンポから手を離し身体を屈めた。チンポにぶち当たらないようにゆっくりと顔をソレに近付けると、頬にぺたりとチンポが触れる。熱く勃ちあがったソレに、俺はそっと舌を触れさせた。ペロリと、竿を少しだけ舐めてみたけど、特に嫌悪は湧かなかった。ていうか、あんま味とかしない。女のソコみたいに体液が出てきたり普段空気に晒されていないわけでもないから蒸れたりとかもしないせいかな? 強いて言うなら汗の味がするくらいで、後は独特の舌触りがあるくらい。皮膚なはずなんだけど、他の部分より滑らかな舌触り。これなら全然平気だわ。もっとちゃんと舌を出して根元から括れまでを何度も舐め上げてみれば、捲簾が頭を撫でてくれた。
「無理はしなくていいからな?」
捲簾はいつも俺にはしてくれるのに、俺にフェラを強要したことは無くて。多分俺が男は初めてだったから、気を使ってくれてたんだと思う。でも、俺だって捲簾に気持ちヨくなって貰いたいんだ。いつも捲簾にされて気持ちイイこと、捲簾にも返したいんだ。
亀頭のエラの部分に触れるだけのキスをして、俺は先端の割れ目を舐めた。先走りが浮かんでいたのか、口の中に何とも言えない味が広がっていくけど、無理ってコトはない。キスで自分の精液の味がするよりは全然マシだ。イヤ、どっちの味も大差無いけどこれは自分のじゃなく捲簾のだから。舐めた先端に唇を付けて、捲簾のチンポを唇で絞めながら口内に飲み込んでみた。
「ン……」
ちょうど手を置いていた捲簾の脚に力が入る。少しでも気持ちヨくなって貰いたくて頭を上下させてみるけど、ヤバイ、これ、結構難しい。絞めてる方が気持ちイイのは解ってるけど、口内を絞めると歯があたっちまう。かといって絞めなきゃ意味なんてねぇし。更に口の中って思ってたより浅い。全部どころか半分くらいまでしか口に含めない。
「ムグ……」
捲簾がいつもしてくれるみたいに喉とかに先端を押し付けたくて、少し強引にチンポへ顔を押し付ければ、喉を刺激され吐き気が込み上げてきて涙が滲んだ。
「無理すんなって」
捲簾が苦笑しながら頭を撫でてくれたけど、悔しくて首を横に振る。経験値の違いなのは解ってる。それでも悔しくて。チンポから口を離さず、もう一度ソレを深く飲み込んだ。
「ッぐ……」
身体が勝手に拒絶する。したいのに、捲簾に気持ちヨくなって貰いたいのに、喉の入り口が絞まってソレ以上入らないし、ソコに先端が触れるだけで吐きそうになって苦しい。
と、頭を撫でていた捲簾の手に力が入って髪を掴んで引っ張られた。ヨくねーからもう止めろってことかと咄嗟に暴れかけたら、引きちぎる強さで髪を引かれて口からチンポが抜けていく。そりゃそうだ。ヨくもないフェラなんてされていたって嬉しくも何ともない。諦めて大人しく顔を上げようとしたら、何故かまだチンポの先端を口に含んだ状態なにの捲簾は髪から手を離してくれた。
「シてくれんのは嬉しいけど、ヨすぎてイっちまいそうだから浅目にしてくれると嬉しい」
もう一度優しく頭を撫でられる。こんなセリフ絶対嘘だ。同性だから解る。奥まで咥えられた方が明らかにイイって。だからこれは俺を気遣ってる言葉だ。無理すんなっつっても聞かないから言い方まで変えて。そこまでされて意地なんか張れなくて、素直に浅目の抽送に変えて、亀頭を中心に舐めながら頭を上下させれば捲簾が満足気な吐息を吐いた。含みきれない竿の部分には手を触れさせて口と一緒に上下させる。
「ヤベ。スゲーイイわ」
荒い息で囁かれて嬉しくなる。もっと気持ちヨくなってくれればいい。俺で気持ちヨくなって欲しい。だんだん先走りが増えて唾液とかを上手く飲み込めなくなってくる。零れた液体が指を濡らしてクチュクチュと音がし滑りが良くなってきた。顎とかダルくなってきたけど止めたくなんかない。もっとシたい。
「……浄、もう離せ」
珍しく不明瞭な言葉。離したくなんかなくてチンポに吸い付けば息を飲むのと同時に頭を撫でていた指に力が篭った。
「出そうだから離せって……。口に出しちまうだろ?」
いつも捲簾は俺の飲んでくれてるクセになんでそんなこと気にすんだよ。どうせなら俺の口の中に出してくれればいい。外に出すより中で出した方が気持ちイイんだしさ。それに、捲簾の出したモノなら俺は多分飲める。そんな俺の思いが通じたのか捲簾は苦笑した。
「飲んでくれてる気なのは嬉しいけど、どうせならコッチに出したいんだけど?」
するりと捲簾の手のひらが俺のケツを撫る。挿れたいって、思ってくれてる? 俺のナカに出したいって。
「メチャクチャ突きまくってお前を犯しまくって思い切りナカにぶちまけたい」
ゾクリと何かが背筋を這い上がる。捲簾が望んでくれるのがとても嬉しくて、幸せで。
吸い付きながらチンポを口から出せば、捲簾に顎を取られ顔を上げさせられた。
「エロい面」
多分捲簾の先走りと俺の唾液でベタベタになってるだろう俺に、捲簾はキスをしてくれた。角度を変えて何度か触れた後、口内に舌が入り込んでくる。隅々まで味わうかのように舌があちこちを舐め尽くしていく。
「……ッふ、ン」
自分の味がするだろうにそんなこと気にするそぶりもない捲簾に容赦なく口内を犯されて息が上がっていく。荒い呼吸すら奪われるように貪られている俺の腰に捲簾の手が触れた。びくびくと跳ねる俺の身体を撫で回した後、着たままだったシャツを強引に剥ぎ取られる。そして布の落ちる音より早くベッドに押し倒され、穿いていたパンツも下着ごと剥ぎ取られた。いつもよりも荒々しい行為に、なんだか嬉しくなる。俺の拙いフェラでそんなにも感じてくれたんだって。こんなにも俺を欲しがってくれてるんだって。口ン中の捲簾の舌を舐め返して吸い上げてみると、挑むように口内を舐められた。するりと剥き出しになった脚を捲簾の手のひらが撫で回し、そのまま脚を掴んで持ち上げられる。身体同士が密着してるせいで捲簾の身体を挟み込むように脚を拡げさせられたけど羞恥を感じるより早く、閉ざされたままの最奥に濡れた何かが擦り付けられた。
「……ッ」
無理だって思う。男に抱かれ慣れてるわけでも無ければ馴らされてもいないソコはまだキツく閉じていて、しかもローションなんかで濡れてもいない。唾液なんて気休めにしかならない。このまま挿れたらどうなるかなんて解りすぎるほど解っているのに、でも、止めてなんて欲しくなくて。捲簾が俺を欲しいと言ってくれるなら、それだけで俺は大丈夫だから。
ためらうように擦り付けている状態で止まった捲簾に腕を回して引き寄せ、唇を重ねたまま囁いた。
「早く……」
驚いたのか身体を引きかけた捲簾の腰に、脚を絡めて引き寄せる。捲簾が欲しい。身体の準備なんて全く出来てないけど、心が、欲しくて欲しくて狂ってしまいそうなくらい欲しくて。だから捲簾、早く俺で気持ちヨくなって。
自分から捲簾のチンポに入り口を擦り付けると、ゾクゾクと快感が駆け抜けて入り口が早くソレを飲み込みたいとヒクつき始める。また口付けが深くなったのと同時に肩をキツく抱かれた。俺の身体が動かないようにするためなのは解ってるのに、すごく暖かくて、捲簾の体温に包まれて身体から力が抜ける。ぐっと、擦り付けられていたモノが侵入を始めた。少し皮膚をひきつらせながらじわじわとソコを押し広げていく。僅かな痛みに眉根が寄る。けど、まだ全然平気。捲簾の口内に舌を突っ込んで早くとねだるように舐めれば、それを甘噛みした捲簾が挿入する速度をあげた。皮膚を巻き込みながらソコを抉じ開けられる感覚に身体が悲鳴を上げる。当然だけどいつもより痛い。身体が強張る。それでも拒みたく無いから零れそうになる呻きは無理矢理飲み込んだ。
「悪ィ」
少しだけ唇を離した捲簾が言ったけど、そんな言葉は聞きたく無い。回していた腕で捲簾を抱き寄せ俺から唇を重ねる。だってこれ、多分捲簾も痛いハズだ。なのに止めないくらい俺のことを欲しがってくれてるってことだろ? だったらホントに俺の苦痛なんてどうでもいい。身体なんてどうでもいい。心が、これ以上無いくらい嬉しくて、幸せを感じているんだから、お願いだから止めないで。
それでも押し拡げられる苦痛に嫌な汗が浮かんでくる。ヤバい、痛い。身体の力を抜いても全然楽になんてならない。痛みと幸せとで感情が二極化しておかしくなってしまいそうだ。
そう思った瞬間、身体を引き裂くような鋭い痛みが脳天まで突き抜けて飲み込みきれない悲鳴が漏れた。
「イッ……!!!」
激痛とともに一気に滑りが良くなり、入り口を思い切り抉じ開けて捲簾のチンポが俺のナカを犯していく。耐えきれない苦痛に身体が強張り、思わず捲簾の身体に縋りついた。震える俺の背中を暖かい手が撫でていく。
「余裕無くて悪ィ……」
何度も何度も撫でてくれる手に、だんだん身体の強張りが溶けていく。こんなに余裕が無い捲簾は初めて見た気がする。つっても、まだ半分くらいまでしか入ってないこの状態でこうして俺が慣れるまでただ背中を撫でてくれているんだから優しいっつーか、忍耐強いっつーか。
「平気、だって。もう、動いていいぜ?」
捲簾が動きやすいように、抱き寄せていた腕を緩めると背中を撫でていた腕が離れていって少しだけ寂しい。まぁ、あの状態じゃ動けないから仕方ないか。と、俺のケツを捲簾の手が撫でた。見えてなかったからいきなりでビクッと跳ねちまった。その反応のせいか、その手はそのまま離れていってしまう。もっと触ってイイのに。もっと触って欲しいのに。けど、どうやら触りたくて撫でたワケじゃなかったようだ。
「あー、マジで悪ィ。痛ぇだろ? 今抜くから」
「え、なんで?」
意味が解らなくて身体を引きかけた捲簾にしがみつくと、また激痛が走り抜けた。え、なんでだ。いつも挿れて少しすれば馴れるのに。
「動くな。切れてるから」
捲簾の手が頭を撫でていった。ああ、そっか。いきなり飲み込めたのは切れて出た血が潤滑油になったからか。つか、それじゃ馴れるどころか動く度に痛いってコト? 捲簾が動く度に激痛が駆け抜けるってコト? だから『抜くから』か。
意味を理解して俺が大人しくなると、捲簾がゆっくり身体を引いた。
「ッ……」
チンポが抜けていくその摩擦すら痛くて、思わず捲簾の背中に爪を立てる。すっげ、痛い。けど、痛いけど、だけど……。
「抜くな……ッ」
俺の言葉に捲簾がぴたりと動きを止めた。
「けどよ……」
「いいから、抜くなっ!」
「いや、でも」
俺のことを気遣ってくれてるのは解ってる。解ってるけど、それじゃイヤだ。
痛みなんて無視して脚を捲簾の腰に絡めて、俺はソレを強引に引き寄せた。
「イッ……!!!」
さっきよりも深くまで入ってきたチンポに思わず悲鳴が漏れる。
「この馬鹿ッ!」
捲簾のスゲー焦った声。こんな声初めて聞いた。今の状況も忘れて思わず笑ってしまう。あー……、俺今幸せだわ。
「なぁ、動いて?」
「あのなぁ……」
「いいから、続きしようぜ。足りないんだ」
誘うように腰を揺らせば、捲簾が大きなため息を吐き出した。
「知らねーぞ」
チンポを揺らすようにされるのすら痛いけど、再び捲簾を欲しがり始めた心の方が飢えてる。痛みは確かにあるんだけど、それ以上に幸せで。嬉しくて、幸せで、気持ちイイ。身体が熱くなってるからだろう。捲簾の匂いが普段より濃くてまるで包み込まれてるみたいだ。少しずつ激しくなっていく動きに煽られるように俺の身体も熱くなっていく。だんだん痛みが遠退いて快感が溢れていく。
「気……持ち、イイ」
思わず零せば、触れるだけのキスが降ってきた。ああ、もう止まらない。気持ちイイ。
「捲簾は……?」
俺だけがヨくてもしょうがない。俺は捲簾に気持ちヨくなって貰いたいんだ。と、肩に捲簾の額? が押し付けられる。
「気持ちイイよ」
耳元で囁かれて嬉しさと快感が背筋を這い上がる。グチュグチュと音を立てて出し入れされる捲簾のチンポに腰をくねらせて前立腺を押し付ければ耐えきれないほどの快感にソレを締め付けてしまう。もっと欲しい。捲簾に犯されたい。と、捲簾に回していた腕をほどかれて、触れる距離にいた捲簾の身体が離れてしまった。なんで? 思わず捲簾を探して手がさ迷う。なのにその手は空を切った。
「捲……簾?」
問いかけにもなんの答えも返ってこない。なんで、いきなり……? それでもチンポは入ったままだから不安にはならないけど。
と、唐突に捲簾の手のひらが俺の腰を撫でた。
「ん……」
ピクリと震えた身体に、不意に捲簾が腰の動きを再開する。少しもどかしいくらいの抽送。単調な律動にやり場の無くなった手でシーツを掴み身体を固定し、捲簾の動きに合わせて腰を揺らす。小さく捲簾の笑った音が耳に届いて、今度は手のひらが鎖骨を撫でてった。
「んっ……」
見えないせいでどこを触られるか予測できない。もっと触って欲しくて、捲簾の気配を探るように身体が敏感になっていく。
「ッあ!」
キュッと悪戯するように乳首を指が摘まんで離れていった。ナニコレ、少し摘ままれただけなのにジンジンして堪らない。今度はするりと内股を撫でられて思わずナカの捲簾を締め付けた。
「んぅ……」
いつもより全然感じる。なんで? 見えないせい? 全身が性感帯になったみたいだ。すっかり勃ちあがってる俺のチンポを悪戯するみたいに軽くしごかれて身体が跳ねる。
「捲ッ簾! もっとちゃんと触って……!」
すぐに離れてしまった手に強請れば、いきなり前立腺を強く抉られて仰け反ってしまう。
「ンア!」
気持ちイイ。もっと欲しい。チンポにケツを押し付け快楽を貪れば、突然両方の乳首をキツく摘ままれて頭がショートする。
「アアアアアッ!!!」
引っ張られる感触に気持ちヨすぎて、ナカがチンポをヒクつきながら咥えこむ。そこを抉じ開けるように突き込まれたチンポに前立腺を思い切り抉られて堪らない。素肌を予告無く触れては離れる手に完全に翻弄される。捲簾の手が触れる度に体温は上がっていき、身体が跳ねるのを止められない。言葉にならない溶けきった声がひっきりなしに零れてるけど、止めることすら出来なくて。ヤダ、もぅ。足りない。イきたいッ。思わず捲簾へともう一度手を伸ばしたのにやっぱりその手は空を切って、もう我慢できずにその手を自分の乳首に持ってった。
「アァッ、ン、ふあ!」
何も考えられずに自らの乳首を潰し、腰を揺らして前立腺を押し付けると触れてもないチンポがビクビク跳ねて先走りを零す。
「エッロ……」
捲簾に低音で囁かれて内壁がヒクつく。ヤバい。コレ、ヤバい。もう堪えられない。もう、イく。
「捲簾ッ! シて! 動いて、グチュグチュにしてッ! も、イ……」
捲簾のチンポを締め付けて頭を振り乱した俺の腰を突然捲簾が両手で掴んだ。
「イけよ」
言葉と同時に激しくなった抽送に一気に臨界点を突破する。絶頂に飲まれた身体を激しく犯されて暗闇のハズの目の前がチカチカする。
「……ッく、イく! イく!!! イッ…………ッアアアアアア!!!」
最奥を犯されて身体を仰け反らせて俺は精液を撒き散らした。ナカが思い切り捲簾のチンポを咥えこんでて、ソレの太さもビクビクヒクつくのも、ナカに熱い精液を注がれるのすら解る。敏感になっているナカを犯していく液体に、身体がまた跳ねた。体内を満たされていく熱さに幸せすぎて溶けそうだ。ピクピクと痙攣して勝手に跳ねてる身体を、やっとぎゅっと抱き締めてもらえた。捲簾の荒い呼吸が耳元でする。捲簾の匂い。熱い体温。思わずぎゅっと抱きついて、頬を擦り寄せ息を吐く。と、頭を引っ張られて視界に光が溢れた。
「眩し」
「ッ……。絞めんな」
イヤ、ソレ反射だから。
灯りを落とされてなかった室内は普段通りの明るさで、数度瞬きをしてようやく捲簾の姿が焦点を結ぶ。ああ、この顔好きだなぁ。思いながら手の力を抜くと、気付いた捲簾は俺にキスしてくれた。深く重ねられてその舌を受け入れる。優しい手が頭をそっと撫でてくれた。
「もっと……」
僅かな唇の隙間から強請る。近すぎてボヤける捲簾の瞳が、それでも確かに細められた。
「ね、もっとシて?」
「お前の望むだけ」
ねだる唇を軽く噛まれ思わずナカの捲簾を咥えこむ身体に、捲簾が笑う。少し身体を離されて再び始まった律動に、今度はじっと捲簾を見つめた。
大好きで、嬉しくて、幸せで、気持ちが溢れてしまう。
そんな俺を見て少し動きを止めた捲簾は、困ったように笑って俺の頬を撫でた。
「泣くな」
「泣いてねーよ?」
泣いてなんかいない。だって今は悲しいことなんて何もない。
ただ幸せで、すごく幸せで。
他に何も要らないって。
もう何も要らないって思ったんだ。
昼前に目が覚めて隣を探れば、ベッドにはもう捲簾は居なかった。まぁ、いつものことなんだけど、たまにはベッドでイチャイチャしたり捲簾の寝顔を見たりしたいなぁなんて思ったりはする。捲簾はたとえ夜遅く寝ても朝は普通に目が覚めてしまうらしく、一時間くらいは俺の寝顔を眺めているらしいが、そのあと家事に行ってしまうのだ。寝顔を見られてるとか恥ずかしすぎるんですケド。一度俺も起こしてくれればいいのにと文句を言ったことがあるけど、起こしたのに起きなかったと言われてしまった。ちなみに前に八戒にも言われたことのあるセリフなだけに、大人しく引き下がらざるをえなかった。全然覚えてねぇけど……。
ベッドから出て、パジャマのまま捲簾を探してダイニングに行くと、昼飯の支度をしていた捲簾がキッチンから俺を見て笑った。
「オハヨ」
「はよ」
裸足でフローリングをペタペタ歩いて、キッチンカウンターに直付けされているテーブルに座る。灰皿の横に多分俺のじゃないハイライトが置いてあったから、手を伸ばしつつ捲簾に聞く。
「一本貰っていい?」
「どうぞ」
捲簾の視線が俺から離れてしまった。何か作ってるからだってのは解るんだけど、やっぱちょっと寂しい。俯いているせいで睫毛が長いのが良く解る。捲簾が動くとツンツンした髪も動いてなんか面白い。長くなってきた灰を灰皿に落とすと、テーブルの上に既に並んでいるカトラリーとかが目に入る。箸に木のスプーンが並んでるところを見ると、今日は和食らしい。
「ホイ。身体、大丈夫か?」
テーブルの中央になんか魚とトマトのカルパッチョ? と、目の前に巣籠もり卵が置かれつつ聞かれた言葉に頭を捻る。
「身体?」
ハジメテでも無いんだし、最近はそんなこと聞かれることも無かったんだけど、なんでだろ? 珍しい。そう思ったのが顔に出たのか捲簾は苦笑した。
「無茶しちまったからな」
無茶……? なんだろ。目隠しが? イヤ、でもアレ気持ちイイだけだったし。……あ、解った。
「平気。言われるまで忘れてるくらい平気」
準備ちゃんとせずに挿れて切れたことだ、多分。アレは……まぁ、ぶっちゃけかなり痛かった。今はわりと平気だけど、ウンコとかしたらまた痛いんだろうなぁとは思う。てか捲簾として切れたのって初じゃね? それだけいつも俺に気を使ってくれてたってコトだ。違和感が残ることはあっても、翌日痛かったことはない。身体は別だけど……。切れたっつっても、普通にしてる分には傷口が動くことも無いから痛くて動けないってこともねぇし、そんなに深くは切れてないんだろう。大分身体が慣れてきてるってことかな。捲簾に抱かれるのに。ヤベ、チョット照れ臭いぞ。
照れ隠しに煙草を灰皿に押し付けると、捲簾の手のひらが頭を撫でていった。再びキッチンに行ってしまった捲簾を横目に、少し熱くなった顔を扇ぐと、捲簾はご飯と味噌汁を持ってすぐに戻ってきてしまった。
「カワイー顔しちゃって」
「カワイイ言うな!」
最後にぬか漬けとなんか野菜やらなんやらがいっぱい入った餡? のかかった揚げ出し豆腐を出して、捲簾は俺の正面に座った。
「んじゃ食うか。いただきます」
「イタダキマス」
手を合わせた捲簾につられて箸を持った手を合わせ、まずは味噌汁を一口啜る。今日は赤味噌。普段家は白味噌だから物珍しさもあって非常に旨い。イヤ、捲簾の料理自体が旨いんだけどな。八戒も上手いけど、捲簾も同じくらい上手いと思う。だって最近八戒の料理に舌を馴らされてしまい、外食に満足できなくなってしまった俺が旨いと思うくらいなんだから相当だ。ちなみに八戒は時間を掛けて凝ったモノを良く作るけど、捲簾は手早く創作料理みたいのを良く作る。いつも忙しそうだし、慣れもあるんだろうな。そのせいか、捲簾宅の味噌は白も赤もある。だから料理に合わせてどっちも出てきたりする。んで、今日は赤味噌、麩が旨い。
「なぁ、このくらいの酸味なら平気?」
箸でつまんだカルパッチョを差し出されたから、身体を乗り出して口に入れてみる。
「ん。旨い」
「そ? 良かった」
俺が酸っぱいモノ嫌いなのに気を使ってくれる捲簾はマジで優しいと思う。熱々の揚げ出し豆腐は寒くなってきた今の時期にはちょうどいいな。木のスプーンで餡を掬って吹いて冷ます。
あ、そう言えば。
「なぁ、捲簾?」
「ん、どした?」
「あのさぁ、俺今ダチと同居してるんだけどさ」
「うん?」
「そいつが捲簾に会ってみたいっつーんだけど」
「ふーん。そっか」
捲簾の箸がぬか漬けを一つ摘まんでいった。
……あれ? 話終わった? 捲簾続ける気無さそうなんだけど……。あれ? なんで? 話上手く通じなかったとか?
「えと、だから、その、俺も天蓬と話してみたいし、今度四人でどっか飲みにいかね?」
挫けそうになった心を奮い起たせて粘ってみれば、捲簾は巣籠もり卵を箸で切り分けながら目も合わせずに言った。
「んー、わりぃな。しばらく予定詰まっててさ」
「…………そっか。じゃあ仕方ねぇな」
忙しいんじゃ仕方ないか。結構本気で天蓬とも飲んでみたかったんだけど。てか、忙しいっつーことはしばらく捲簾と会えないのかな。それはちょい寂しいかも。いや、かなり……。
スプーンを咥えたまま俯いた俺に、捲簾が苦笑する。
「心配すんなって。お前と会う時間は取れるよ」
「……え?」
「俺はさ、少しでも時間があったらお前といちゃつきたいんだけど」
スプーンを握ったままの手を、するりと捲簾の手が掴んで引き寄せられる。
「それじゃ不満か?」
「……そんなことねぇよ」
無理矢理笑顔を作って普段通りに返せば、捲簾は笑みながら俺の手にキスしてくれた。
「ごめんな?」
……なぁ、それは何に対しての言葉なんだ?
ダイニングのソファーに寝そべって古びた天井に煙を吐き出せば、白い煙はすぐに溶けて消える。仕事に行くにはまだ早い時間。けど、捲簾のトコから帰ってきてからずっとこうしてる気がする。さっき帰ってきた八戒が、薄暗い室内に俺を発見して珍しく驚いていた。部屋に荷物を置いた八戒が戻ってきて洗面台で手を洗う音に、話しかける。
「なぁ、捲簾しばらく忙しいんだってさ」
会いたいと言っていたから一応報告をしておかねぇとと思ってそう言うと、普段通りの声が帰ってきた。
「そうなんですか。なら仕方ないですね」
「……悪ィ」
「貴方が謝ることじゃないでしょう?」
手を洗い終わった八戒が笑顔でソファーの方に歩いてくる。そして不貞腐れたような俺の顔を見て苦笑した。
「捲簾さんが忙しいなら、貴方も会えなくて寂しいんじゃないですか?」
「あー、まぁ」
「?」
俺の表情を誤解したらしい八戒が怪訝そうに首を傾げるのに、ぼんやりと言葉を続ける。
「ん、つーか、さ。捲簾と、その同僚と、お前と俺で飲みに行こうって誘ったんだけど断られたっつーか」
「だって忙しいんでしょ? 何か気になるんですか?」
八戒の疑問はもっともだと思う。言葉通りに受けとればその通りでそれだけだ。けど、俺にはそれだけには思えなかった。
「時間無いって言った後さ、二人で会う方に時間を使いたいって言われたんだけどさ」
「良かったじゃないですか」
「それが本音なら、な」
本音ならそれでいい。本当にそう思ってくれてるなら嬉しいさ。けど、あの会話は……。
「つまり、誤魔化されたと?」
認めたくなくて言わなかった言葉を八戒が続けた。言葉を続けられなくて沈黙が落ちる。
「……んなことねぇよな。ワリィ、何でもない」
暗い空気を吹き飛ばすように灰皿に煙草を押し付けて、身体を起こす。
「気のせいだ。なんだろねぇ、ナーバスにでもなってんのかね、この俺が」
茶化すように言って肩を竦めて見せたが、八戒は何事か考えているようで俯いていた。
「……捲簾さんは僕に会いたくないのかもしれませんね」
「……理由がねぇだろ」
「そうなんですが……」
尚も言い募ろうとした八戒を遮るように、立ち上がり背を向けて部屋に足を向ける。
「ヤメヤメ。この話はもう終わりにしようぜ」
疑う自分が嫌になる。どうして捲簾を信じられないんだろう。何も教えてくれなくても良いと言ったのは自分なのに。
自分の部屋に入って、仕事用のスーツに着替えようと服を脱ぎ捨てて押入れを開ける。
疑うな。捲簾の言葉を信じるんだ。だってそうだろ? 俺は疑って良い立場じゃない。捲簾は俺に付き合って恋人ゴッコをしてくれてるだけなんだから。
疑っちゃいけない。真実を望んじゃいけない。
だって、そうしたら、何もかも無くなってしまうから。
|