轍  −わだち−  ◇9◇

しばらくして再び部屋にノックの音が響いた。
控えめな、けれどはっきりした。まるで彼の性格そのもののように。
「開いてる」
言葉に、扉が開いて彼が姿を見せた。
その姿をじろりとみやると、三蔵は嫌そうに眉をひそめた。
「なんの用だ」
その不機嫌そうな態度に臆する様子もなく、八戒は笑った。
「ご無沙汰してます」
「挨拶はいい。なんの用だと聞いている」
「せっかちでやですねぇ。久しぶりなんですからつもる話もあるでしょうに?」
「俺にはねえよ」
相変わらずの八戒の調子に、いらついたように三蔵は言った。
どんな言葉で飾っても、彼がやっかいごと以外を持ってくるとは思えない。
だいたいその表情。
「用がないなら帰れ」
嫌な予感と相まって、三蔵はそう言い捨てた。
すると、八戒は苦笑した。
「そんなに怖がらなくても、三蔵には何もしませんよ」
「なにっ……」
こめかみに血管を浮き出させながら、振り向くと、八戒は少し笑った。
「迷惑ですか?」
唐突にそう切り出されて、三蔵が詰まった。
いつも図々しいヤツが殊勝になられると、こちらも強気でに出られない。
ここで迷惑だと言い捨てられるほど三蔵も非情ではない。
「何があった?」
とりあえずそう聞いた。
理由次第と言うわけではないが、何も解らず話をするほど酔狂ではない。
すると八戒は少し言葉を詰まらせて、やがていつもの笑みを浮かべるとしれっと言った。
「ちょっと、悟浄に告白をしまして」
「……だけじゃねぇだろ」
「まあ、すこーし、悟浄にちょっかい出した女の子にいたずらをね」
「………」
八戒の言葉を額面通りに受けていいわけがない。
どうせ大変な泥沼を繰り広げたあげく、家を出ざるをえなかったに違いない。
「いつかこうなると思ってたけどな…」
「あはは」
八戒の、悟浄に対する気持ちを知ったときからこうなるだろうと思っていた。
それが以外と遅かったことに驚いたくらいだ。
「ねえ、三蔵」
八戒が、笑った。
「また僕をここにおいて欲しいんです」

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花吹雪 二次創作 最遊記