轍  −わだち−  ◇6◇

それから、八戒は彼女と何度か会った。
二人で食事をしたり、映画を見たり、そして夜には抱き合い、睦言も交わした。
確実に、手中に入ってくる彼女に笑いが止まらない。
何のために貴女を抱いていると思いますか?
何のために貴女に優しくしていると思いますか?
それは全て崩壊の時のため。
なにが壊れるかなんてわからないですけど。
くすっと笑った八戒に、悟浄が楽しそうな目を向けた。
「最近ご機嫌じゃねぇ?」
「ばれました?」
洗い物をしながら微笑む八戒を、悟浄が珍しそうに見た。
「マジでご機嫌だな。ナンかいいことあったのか?」
「さて、どうでしょう?」
「俺には秘密って?」
「あはは」
べつにいいけどねぇなどといいながら、悟浄は煙草を揉み消した。
部屋を出ていこうとする悟浄に、八戒が声をかける。
「今夜もお出かけですか?」
「そ。もてる男は辛いのよ〜」
「がんばってください」
見送る八戒にひらりと手を振り悟浄は家を出た。
なんだかんだといいながらも、最近の悟浄は帰りが早い。
といっても朝帰りで無いというだけではあるが。
やっぱり、彼女と会っていたんでしょうねぇ。
八戒の口元がゆがむ。
「そろそろ、潮時ですかね」
壊してしまおう。
クスリと笑い、洗い物の続きをしようと向き直る。
壊してしまおう、全て。
ひどく楽しそうに、八戒は洗い物を続ける。
貴女の心も、貴女の身体も、貴女の全てを。
ああ、もっとも。
もうほとんど壊れてるも同然でしたね。
笑う。
慣らされた彼女の身体はもう、男なしでは耐えられないだろう。
彼女の心も、後は砕くだけで準備は全て整っている。
あとは……。
きゅ。
蛇口を締めるとタオルで手を拭き外出の準備をはじめる。
「なんにも気付いて無いんですよねぇ、あの人」
それがなんだか楽しかった。
案外、彼にとって彼女は重い存在では無かったのだろうか。
今更どうでも良いけれど。
彼に触れただけでも罪でしょう?
かち。
鍵を締めて家を出た。
壊してしまおう。
彼女を、彼女の全てを。
終わりにしよう。
そうすれば。
また悟浄は誰のモノにもならないでしょう?
待ち合わせ場所に着いたのは10分前だったけれど、彼女はもう待っていた。
上気した頬。潤んだ瞳。
耐えられないんだね、そんなオモチャじゃ。
我ながら、上手く調教できたものだと感心した。
少しだけ壊すのがもったいなくも思えたけれど、どこまで壊れるのかも見たくなった。
「お待たせしました」
僕はきっと、かつて無いほどの笑顔を彼女に向けているだろう。
さあ、壊してしまおう。

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花吹雪 二次創作 最遊記