轍 −わだち− ◇5◇
2件目の飲み屋を出る頃には、彼女の足下は大分おぼつかなかった。 「大丈夫ですか?」 八戒が心配そうに彼女に問うと、彼女は弱々しく微笑んだ。 「ちょっと、飲み過ぎちゃったみたいです」 でも大丈夫、と答える彼女の肩をさりげなく抱く。 だって本当は大丈夫なんかじゃ無いでしょう? 知らず、八戒の口元に笑みが浮かぶ。 彼女はたいして飲んではいない。 本当は酔ってなどいない。 薬が……。 「どこかで少し休みますか?」 優しく耳元で問う。 彼女の身体がぴくりと緊張したのがわかった。 頬が、酔いのせいだけではなく赤く染まっている。 「だ、大丈夫……です」 笑顔は、どちらかというと泣きそうな、媚びたような顔。 薬が効いてきたんですね。 彼女の肩から手を離すフリをして背中を掠める。 「……っ」 かくんと彼女の膝が折れた。 倒れ込むまえにその身体を受けとめた八戒を、彼女が潤んだ瞳で見上げる。 自分の身体の変化に戸惑っているようだ。 彼女が問いを発す前に、八戒は柔らかい微笑で告げた。 「大丈夫なんかじゃ無いでしょう? どこかで少し休みましょう」 答えを聞きもせずに彼女を抱き上げる。 「横になれる所の方がいいですよね?」 それは確認ではなく宣告。 手折ってしまえ。 白い翼など手折ってしまえ。 微笑が浮かぶ。 これは罰ですよ。 僕から彼を奪おうとした。 その罰なんです。 だから。 自業自得、なんですよ。 一番近く横になれる店と行ったら、ホテルしか無かった。 もともとそれを見込んだ上で2件目を選んだのだから当然だ。 彼女を、ベッドの上にうやうやしく横たえると、額に手をやる。 ぴくりと身を竦める仕草には気付かぬフリをして、八戒は神妙に言った。 「熱は、ないみたいですが……」 既に息が荒くなっている彼女は、瞳をきつく閉じている。 我慢したって無駄なのに。 八戒が笑う。 貴女が壊れてしまってもかまわないから、原液を使ってみたんですよ。 通常の…ほんの10倍程度。 死にはしませんよ、多分ね。 「水でも飲みますか?」 既に作ったような優しい声はどこかに行って、ひどく突き放したような声音だけれど彼女は気付かない。 横に首を振る彼女の茶色い髪がシーツを舞ってすれた音をたてた。 「大丈夫って感じじゃないですよ? 医者を呼びましょうか?」 ふるふると慌てて首を横に振る。 そして潤んだ瞳で八戒を見る。 「大丈夫だからっ…」 ふわりと、八戒が笑う。 我慢しなくていいんですよ、と言いたげに。 そして、だからの続きを促す。 「僕に、何かできることはありますか?」 彼女の頬を手でたどる。 熱いため息が漏れた。 「お願いです、私を……、私を抱いてください」 理性なんて、もう無いでしょう。 あるのは身体のなかの熱だけ。 だから、抱いてあげる。 僕のこと意外考えられないくらい。 もう二度と、離れられないくらいの……快楽を、貴女に。 洋服の上から胸をたどると、既に乳首は勃っていた。 爪の先でこするように触れると、彼女の喉が反らされる。 その喉を甘噛みしながらチャイナの胸元をはだけると、彼女は小さく悲鳴をあげた。 「や…、」 かすかな抵抗に八戒が笑い、あらわになった胸の飾りをつまんだ。 「あっ…!」 すりつぶすように刺激をすると、嬌声をあげて彼女の身体から力が抜けた。 「イっちゃいましたか?」 笑いを含んだ声に、彼女の頬が朱に染まる。 「悪い事じゃないですよ」 「……言わないでください」 消え入りそうな声での訴え。 震えた声が、まだその熱が収まっていないことを告げる。 「楽に、なりましたか?」 意地悪。 なにもかも、彼女にゆだねる姿勢の八戒。 彼女の目から、一筋の涙がこぼれた。 もっと、浅ましかったら良かったのに。 良心が、そう告げた。 彼女は純粋過ぎると。 けれど、もう遅い。 「欲しいんですか?」 こくり。 「なにが、欲しいんですか?」 暗い笑み。 彼女は、八戒の足下に跪いて彼のズボンのチャックを下ろした。 半勃ちのそれがあらわになる。 「それが、欲しいんですか?」 彼女が、頬を染めつつもうなずく。 くす。 八戒が少し愛しそうに笑う。 「じゃあ、使えるようにしてください。貴女のその可愛いお口でね」 ためらいつつ、彼女の口が開かれる。 まだ完全に勃ち上がっていないそれは、簡単に口内に含むことができた。 舌で、形をなぞりつつ唇で刺激をくわえる。 八戒からは茶色い頭しか見えない。 突然、花喃を思い出した。 彼女にこんな事をさせたことはなかった。 だから、こんな光景は見たことがないはずなのに。 どこか現実離れした感覚。 自分が女性を抱いているなんて。抱けるなんて。 くちゅ…という、卑猥な音で正気に戻った。 含まれている口からでは無いその音。 彼女の指が、我慢できず己の秘所をたどっていた。 「雌豚……ですねぇ」 楽しそうに笑った八戒を、彼女が上目使いで見た。 その赦しを請うような瞳が茶色なのに微妙な不快感がともなう。 だから、目隠しをした。 目を見なければ、彼女と変わらない。 勃ち上がったそれを彼女の口から引き抜くと、その肢体をベッドへと投げた。 そして一気に貫いた。 「あああぁっ…!」 彼女が嬌声をあげて乱れる。 これは彼女の罪? それとも、僕の罪? 知らず笑う口元。 けれど彼女を追い上げていく手は休めない。 懺悔かもしれない。 この行為も、生きることも。 苦しいことも、悲しいことも、人を愛することも。 罪なのかもしれない。 彼女の嬌声をどこか遠くで聞きながら、八戒は彼女の中に精を放った。 けれどまだ、夜は始まったばかり。 |
花吹雪 二次創作 最遊記