轍  −わだち−  ◇14◇

遥か向こうに寺院が見える。
その姿は雨でけぶっているけれど、何故かその存在はかすまない。
かえれと、彼は言ったけれど。
できるわけがないでしょう。
出てきたのは自分。
優しい彼に甘え、思い上がり、全てを壊したのは自分。
もしかしたらなんて、考えることもできないくらい。
いくら優しい彼でもあるわけがない。
またあの笑顔で迎えに来てくれるなんて。
またあの笑顔で迎えてくれるなんて。
ありえないでしょう?
いくら僕でもそこまで思い上がってはいない。
結局僕は罪人で。
罪の意識なんてないんですよ。
他人なんてどうでもいいんです。
誰を殺しても誰を悲しませても、何もかもがどうでもいい。
どうでもいいんです。
むしろ、快楽すら感じる。
みんな、僕と同じ悲しみを味わえばいい。
そんなことすら思ってしまう。
人が泣くのは楽しいでしょう。
人が苦しむのは気分がいいでしょう。
下の下まで叩き落として、生きながらに羽根を毟り腕を取り、死のその縁で愛する人を奪う。
そのときのカオといったら。
……なんて。
そんなことを考えてしまう僕が、どこかにいて。
死を選ぶほど感傷的でも自虐趣味でもないけれど、ふと振り返る。
僕がここにいるのは間違っているのだろうか。
本当は、あのときに全てが終わっているのではないだろうか。
夢かもしれない。
これは全て夢かもしれない。
どこから?
きっと初めから。
初めはどこ?
悟浄と暮らし始めたところ? 三蔵に救われたところ? 花喃が消えたところ? それとも花喃と出逢ったこと?
全部夢?
だとしたら、僕は?
僕の存在自体が夢?
人間は、他者に認識されて初めて自我を持つ。
だとすれば、今の僕は「無」。
存在がないのと同じ。
雨が。
静かに降る細い糸で、まわりがよく見えない。
なにもかも不鮮明だ。
建物も人も、自分の存在さえも。
僕は……。
全部夢なのだろうか。

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花吹雪 二次創作 最遊記