轍  −わだち−  ◇13◇

「帰れ」
自室に呼び出し、入ってきた八戒に言った言葉。
「唐突ですね」
「前置きはいらんだろ」
取り付くしまもない三蔵に、八戒が苦笑した。
「成り立たない、ですか?」
視線が絡んだ。
「全ては土台の上に成り立つ」
わかっている。
「ゆがんだ物の上には、崩れゆく物しか立たない」
ゆっくりとした動作で煙草を銜える。
暗い室内に、仄かに明かりがともり、消えた。
「でも、僕は歪んでいる」
八戒が呟く。
「歪んだ僕の上には、何も……」
「お前の」
遮る言葉。
三蔵の視線が八戒を射抜く。
「お前の下の大地は歪んでいるか?」
驚愕に、八戒が目を見開いた。
「正しい土台の上の歪みは、正せばいいだろう」
不可能じゃないだろ。
けれど。
「理想論です」
できることとできないことがある。
と、三蔵が笑った。
「そうして今まで生きてきたんじゃねぇのか」
おかしそうに笑いながら、煙草を揉み消す。
「逃げてんじゃねーよ」
ぴく。
視線は、逸らさず受けとめられた。
三蔵は笑いを消し、まっすぐに八戒を見返す。
そして、もう一度言った。
「帰れ」
夜の闇すら邪魔できない、神々しいまでの彼。
「負け犬はいらない」
かちりと、銃口が合わせられた。

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花吹雪 二次創作 最遊記