轍  −わだち−  ◇12◇

「なあ、三蔵。あの二人なんかあったのかなぁ?」
執務室の床に座っていた悟空がそう問うた。
その部屋を珍しく訪れた悟空は、何故か静かに先ほどから座ったままで、三蔵はその存在を忘れかけていた。
「道理で静かだと思えば、そんなことを考えていたのか」
猿は猿なりに頭を使っているらしい。
というよりはきっと。
「なんか変だ」
悟空が気付くほど。
床に座ったまま視線だけを三蔵に向ける。
「なんか、違う」
言い切る。
考えてみれば、三蔵の仕事中には悟空はこの部屋へは来ない。
自室に仕事を持ち込んでいるときなどはうるさくつきまとうが、執務室は別だ。
それは、いつからかタブーになっていた。
三蔵は、うるさいとは言ったことがあるが出て行けと言ったことはない。
悟空が自分で決めたルールのようなモノ。
三蔵のそばに居たいから、邪魔にはならない。
それを破ってまでここにいる。
それはきっと変だということを伝えるためではなく、何か変な違和感をもつ八戒から逃げるため。
かたんと、筆を置く。
「三蔵?」
怪訝そうな目で見上げる悟空にちらりと目をやる。
「心配するな」
それだけ言うと、煙草に手を伸ばした。
「……そりゃ、三蔵はいいんだろうけどさ」
そういって抱いた膝に顔をうずめる。
「オレだけ蚊帳の外かよ」
言外に全部知っているくせにと決めつけられて、三蔵は目を見開いた。
一体どこまで知っているのか。
「……」
何か言おうとして、言葉にならない。
そもそもそれを聞いてどうするのか。
「あいつらのことは、あいつらだけのことだ」
ぽかんと、悟空が顔を上げる。
そしてにっこり笑った。
「だよな」
何が嬉しいんだか…。
胸の奥まで煙草を吸い込むと、ゆっくり吐き出す。
自分が変だと言うことにも気付かない彼を思いだして。

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花吹雪 二次創作 最遊記