第二十三話   僕達の未来へ

あぐおさん:作


爆発1分前 ネルフ本部
本部は職員の退避命令を告げるアナウンスが流れている。シンジは生き残ろうと必死で逃げている。シンジが目指す先は緊急用の脱出ポットだ。そこに逃げ込めば十分生き残れる確率はある。しかし問題はそこにたどり着けるのかだ。シンジは必死で走った。

「シンジ・・・・」

発令所を通りかかったとき名前を呼ばれた。見ると腹を抑えて苦しそうな表情を浮かべるゲンドウがいた。
「・・・まだ生きていたのか・・」
シンジの問いには答えず背中を向けてふらふらと歩きだした。
「来い・・・こっちだ・・・」
弱々しい背中、シンジは何故かその背中について行った。ゲンドウが向かったのは発令所のゲンドウがいつも座っている椅子の後ろの壁、ゲンドウが自分のカードを差し込むと番号を入れる。すると隠し扉が開いてそこには脱出ポットがあった。ドアを開けるとゆっくりとシンジに近づく。シンジは思わず身構えて辞めた。既にゲンドウの顔色は白く、唇も青紫色になっている。もう長くない。
ゲンドウはシンジの体を掴むと弱りきった体のどこから出てくるのかわからないような力でシンジを脱出ポッドの中に押し込まむと強引にドアを閉めた。
「なんだよ!何すんだよ!」
ドアを叩きながら抗議するシンジ、ゲンドウは不器用ながらに笑った。
「シンジ・・・すまなかった・・・」
「・・・・えっ?」
「私が、ユイに・・・操られていることは、薄々感づいていた・・・だが・・・どうにも・・・できなかった・・・・ユイは・・・私のすべてだった・・・・ユイの為なら・・・どんなことでも・・・できた・・・・ユイに・・・操られている・・・そうわかって、いながら・・・あるがまま、を・・・受け入れた・・・私は、卑怯者だ・・・」

「ユイに、操られた・・・私は・・・・冷酷で・・・残忍で・・・・目的の為なら、手段を選ばない・・・そんな、男だっただろう・・・・お前には・・・私と・・・同じ経験をさせまいと・・・誓ったのに・・・お前を見捨てて・・・父親らしいことを、何一つしてやること・・・ができない・・・最低の父親だっただろう・・・」
「・・・・」
「ふふっ・・・それも私自身だな・・・・言い訳にもなら、ない・・・か・・・もっと・・・シンジと・・・いっしょの、じか、んを・・・・すごしたかった・・・・」



『こんな地獄に生きていかなければならないのか。この子は・・・』
『見てくれ!俺の!俺の息子だ!可愛いだろ!シンジと名付けたんだ!』
『この子は・・・私の宝物です』
『この子には明るい未来を見せてあげたんです』


病院
『・・・・・』
『・・・!・・・!』
ガタッ
『おめでとうございます!碇さん、元気な男の子ですよ!』
『ははっ・・・・あははははははっ』
『パパだぁ・・・・俺はパパになったんだぁ・・・』
『やったーーーー!!ユイ!ユイ!俺は!俺は!』
『パパになったんだ!』






「シンジ・・・・本当に、すまなかった・・・・」



その言葉を最後に脱出ポットは勢い良く飛ばされた。


「なんだよ・・・・なんなんだよ!なんのつもりだよ!最後まで悪党でいろよ!最後の最後で父親ぶるなよ!なんで最後にその言葉なんだよ!」




「父さーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!」










全身がバラバラになるような衝撃が体を襲い、閃光で目がくらみ意識は遠く遠くへと誘われていった。








夢を見ていた。
愛を知らない男が傷つき、傷つけながら一人さまよう。
その男に運命の出会いが訪れる。そんな男を可愛いと言う変わり者の女。
二人は出会い、恋に落ち。子供を産み。末永く幸せに暮らす。
悲しい。悲しい夢だった。






シンジが目を開けるとそこは真っ白な空間だった。どこまでも続いているようで、どこか窮屈に感じる場所。
「ここ・・・は・・・」
ゆっくりと上半身を起こして周りを見渡せど真っ白な空間しかない。ふと後ろから手を叩く音がする。振り返るとそこには制服を着た少年が立っていた。

『おめでとう。僕』

「・・・・よし、見なかったことにしよう」

『いきなり無視しないでよ!』

「誰なんだよ君は!つうかどこかで見た顔だな」

『僕は君だよ。そして君は僕だよ』

「君が僕だって?そんなモヤシみたいな体をして弱々しいのが?冗談きついな」

『全ては可能性だよ。君も僕もひとつの可能性に過ぎないのさ』

「パラレルワールドっていうの?本当にあるとは思わなかったよ」

『今の僕が僕そのものじゃない。色んな僕がありえるんだ。エヴァのパイロットじゃない僕も有り得るんだ』

「追求していけばそうなるだろうね。でも想像ができないな。そんなの僕じゃないよ」

『本当にそう思う?本当の僕ってなに?この世界で出会った人たちは、自分が望んで作った世界じゃないのかい?』

「意味がわからないよ・・・」

『君を拾ってくれた人たち。君を育ててくれた人たち。君を受け入れたくれた人たち。君が望んで作ったこの世界』



『裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!父さんと同じ僕を裏切ったんだ!』
『僕は!エヴァンゲリオン初号機パイロット 碇シンジです!』
『僕は人を傷つけることしかできなんだ!だったら何もしないほうがいい!』
『誰か僕に優しくしてよ!』
『最低だ・・・俺・・・・』



「これ・・・は?」

『これが僕の世界の僕。こんな僕を見て、こっちの世界の僕はどう思った?』

「ロ・ク・デ・ナ・シ」

『滝川ク○ステルのオ・モ・テ・ナ・シみたいに言わないでよ!余計傷つくよ!』

『僕はこの赤い海から色んな世界の僕を見てきた』

『そしてこの世界の僕は、今まで見てきた僕の可能性の中で最も過酷で、最も残酷で、最も汚れた僕だった』

「・・・・・・」

『そんな僕にも関わらず、サードインパクトを阻止して世界を救い、アスカと結ばれた』

『ねえ・・・僕と君・・・なにが違うのかな・・・?』

「はあ?」

『僕はどうすればよかったのかな?君のような結末を迎えるために』

「そんなこともそっちの僕はわからないのかい?」

『え・・・?』

「人にまかせるからいけねーのさ。僕は自分の未来は自分で作るぜ」

『っ!・・・そうだね。君の言う通りだ。僕はいつも誰かに頼っていた。エヴァでは綾波とアスカに、学校ではトウジやケンスケ、委員長に頼っていた。僕は、一人じゃ何もできない弱い人間なんだ。ダメだよね。こんな僕じゃ・・・』

「なんのことだい?」

『他の人が怖くて、でもひとりはもっと怖くて・・・神様になりかけた僕の我侭で、アスカと二人きりの世界で生きたけど・・・拒絶されるのが怖くて・・・拒絶されるくらいならいっそ僕が拒絶しようとして・・・できなくて・・・』

「拒絶なんか誰もしてないよ」

『・・・え?』

「誰も僕を拒絶なんかしていなかったんだよ。君は自分の殻に閉じこもって目を閉じて耳を塞いだ。だから気が付かなかったんだ。この世界はこんなにも明るく美しい世界なんだって」

『そうだね、こんな簡単なことを今更自分に教えられるなんて、僕はやっぱりバカシンジだ』

「そういうことでしょ。ところで、僕はどうなったの?やっぱり死んだ?」

『本当はネルフ本部の自爆に巻き込まれてこの世界の君は死ぬ予定だった。でもそれじゃこの世界のアスカが可哀想だから介入させて貰ったよ。死んではいないけど重傷だよ。今の僕は神様みたいなものだから、これくらいはいいと思って』

「重傷か・・・ま、生きているならいいや。出来れば五体満足が良かったけど」

『このまま振り返ってその奥に行けば君の世界に戻れるよ』

「そっか、それじゃアスカが待っているだろうから僕は戻るよ。じゃあね」

『うん、それじゃね。バイバイ。この世界の僕』

「ああ、今度は頑張れよ。その世界の僕」











『気が済んだ?』
『うん・・・・』
『この世界の私達、幸せになるのね。ちょっと悔しいな』
『うん・・・』
『ねえ?』
『うん?』
『私達はいつやり直すの?』
『今からやり直そうよ。もう一度やり直すんだ。そしてもう一度・・・』
『私達は出会って、そして今度こそ・・・・』
『うん・・・僕は・・・』
『うん?』
『僕は、君と出会って、君のおかげで初めて幸せってなんなのかわかることができた』
『ありがとう。本当に護りたいものがなんだったのか。大切なものがなんだったのか。今ならはっきりとわかる』
『私もよ、アンタに会えて随分遠回りしたけど、やっと私も自分の気持ちに素直になれることができた。私、幸せよ。アンタのこと大好き。ずっとこれからも』
『僕もだよ。僕も君の事が好きだよ。何度生まれ変わっても、また必ず君と出会って恋に落ちるんだ』
『始めましょう・・・今度こそ結ばれるように・・・幸せになれるように』
『うん、始めよう。必ず君に会いに行くから』
『行こうアスカ』


『僕達の未来へ』











????
「えーっと・・・僕の名前は・・・あった!1-A組か・・・・」
「あーーーーーーー!!!この前のナンパ男!」
「ええ!?って君は!や、やめてよ!そんな言い方しないでよ!」
「ふん!アタシの手を握って連れ出したのよ!?当たり前じゃない!」
「満員電車で降りられなくなってた君を助けただけだろ!?なに言っているのさ!」
「うるっさいわね~男の癖に。ところでアンタもこの学校に受かったのね。クラスはどこ?」
「えっと、1-A組だよ」
「あら、アタシと一緒ね。仲良くしましょう」
「う、うん・・・」
「ところでアンタ名前なんていうの?」
「碇、碇シンジ」
「碇シンジ・・・か。アタシは惣流アスカ・ラングレーよ。これからアタシのことアスカって呼んで。アタシもシンジって呼ぶから」
「えええっ!?恥ずかしいよ!」
「いーえ!呼んでもらいますからね!決定!」
「うぅぅぅ・・・わかったよ。アスカ・・・」
「ふふん♪それじゃ一緒にクラスに行きましょう。シンジ」






「やあ、ファースト。いや、綾波レイ」
「フィフス、いえ、渚カヲル。あなたもここに来たのね」
「当たり前だよ。僕はシンジ君の近くに入れれば幸せだからね。それより、シンジ君は惣流君と一緒に教室へ行ってしまったよ。追いかけなくていいのかい?」
「いい、あとで会えるもの」
「この世界でも君は彼女とシンジ君を取り合うのか、難儀だねえ」
「碇君と幸せになるのは私。セカンドには渡さないわ」
「僕は傍観者として見せてもらうよ。生まれ変わった君達をね」
「そう、クラスに行くわよ。カヲル」
「そうだね、僕らもシンジ君に会いに行こう」




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あとがき
この話はEOEのシンジ君に対する私個人的な補完になってしまったかな?という感じです。
最後はこれからも彼らの物語は続いていくよという意味で漫画版のラストシーンのその後を私なりの解釈で描かせていただきました。続く以上レイとアスカがシンジを取り合うというのはある意味仕様かもしれません。
ここから先、彼らがどういう人生を歩んでいくのか?どうなるんでしょうね?
でもLASが一番いいです。スパシンLAS大好物です。
中二病全開ですみません。
さて、EVA2015、次回が最終話となります。
最後まで読んでいただければ嬉しい限りです。


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